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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年1月28日18時20分 東シナ海 2 船舶の要目 船種船名 漁船宝清丸
漁船第三恵比寿丸 総トン数 19トン 19トン 登録長 18.42メートル 17.39メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 160 160 3 事実の経過 宝清丸は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、あまだい漁の目的をもって、船首1.70メートル船尾2.70メートルの喫水で、平成9年1月15日08時00分佐賀県唐津港を発し、操業準備のため長崎漁港(三重地区)に寄港したのち、同月17日15時鹿児島県奄美大島北西方120海里ばかりの漁場に至り、操業を開始した。 ところで、宝清丸のあまだい漁は、1回の出漁が約15日間で、日出から日没までは投縄、揚縄を3回ばかり繰り返し、夜間は操業海域において漂泊あるいは投錨のうえ乗組員全員が休息をとるなどして行っていた。 宝清丸は、同漁を繰り返し行い、越えて28日17時北緯29度26分東経127度14分水深約150メートルの地点で、天候が悪化してきたことから日没を待たずに操業を切り上げ、船首から錨索を230メートルばかり延出して錨泊し、日没に備えて水銀灯の明るい作業灯6個を点灯して乗組員全員が休息した。同船は、法定の錨泊灯を表示していなかったものの、付近海域が一般航行船の通航がほとんどないところで、時折視界内に同業漁船などが2ないし3隻程度認められる広い海域であって、同作業灯が他船を幻惑してその通航を妨げるものではなかった。 A受審人は、夕食中に僚船から漁業無線の呼出しを受けたものの、交信できなかったので食事を続け、18時10分ごろ食事を終え、僚船の存在が気になって右舷甲板上に出たとき、右舷正横少し前1.5海里のところに自船に向首した態勢の第三恵比寿丸(以下「恵比寿丸」という。)の船体を初めて視認し、船体が自船と同型であったため、これを僚船ではないかと考えた。 A受審人は、18時16分半307度(真方位、以下同じ。)に向首していたとき、右舷船首80度1,000メートルに恵比寿丸が近付き、その後も同船が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、同船が居眠り運航の状態となっていることを知る由もなく、同船が自船に用があって接近していてそのうち停止するものと思い、同船を見守っているうち避航などの気配がないことを認め、初めて衝突の危険を感じたものの乗組員を甲板上に召集するほか何らの措置をとる暇もなかった。18時20分投錨地点において、宝清丸は、同状態で錨泊中、恵比寿丸の船首が、宝清丸の右舷後部に前方から約80度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力6の北西風が吹き、視界は良好で、日没時刻は18時06分であった。 また、恵比寿丸は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、B、C両受審人ほか5人が乗り組み、あまだい漁の目的をもって、船首1.20メートル船尾2.10メートルの喫水で、同月25日11時長崎漁港(三重地区)を発し、翌26日08時ごろ奄美大島北西方150海里ばかりの漁場に至り、操業を開始した。 B受審人は、同海域において、乗組員全員が日出から20時ごろまで投縄、揚縄を繰り返しては夜間休息するという操業を10日間ばかり続けるつもりでいたところ、漁獲が思わしくないので、越えて28日13時50分同海域での操業を打ち切り、北緯30度02分東経127度35分の地点を発進し、航海当直体制を乗組員の疲労を考えて約2時間ごとに適宜交替する輪番制に定め、自らが最初の航海当直に立ち、同海域から南南西方90海里ばかりの漁場に移動することとした。 16時30分B受審人は、北緯29度41分東経127度23分の地点において、乗組員全員が操業の疲れが残っている状況でC受審人に航海当直を引き継ぐこととしたが、常日ごろ前路の見張りを励行するよう指導していたので大丈夫と思い、眠気を催したときに直ちに航海当直を交替するよう居眠り運航防止のための具体的指示をせず、操舵室後部に退いて就寝した。 こうして、航海当直に就いたC受審人は、針路を207度に定め、機関を約9ノットの全速力前進にかけ、いすに腰掛け見張りを行って自動操舵により進行し、17時ごろ操業の疲れもあって眠気を催すようになったが、まさか眠り込むことはないものと思い、立って見張りに集中したり、航海当直を交替するなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰掛けたまま続航した。 C受審人は、いつしか居眠りに陥り、その後法定の灯火を表示しないで進行し、18時16分半前路1,000メートルのところに錨泊中の宝清丸の作業灯及び船体を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で同船に向首接近する状況であったものの、同船を避けないまま続航中、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。 衝突の結果、宝清丸は、前後部マストに曲損及び右舷外板及び上部構造物等に損傷を、恵比寿丸は、船首部に小破口を伴う亀裂をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、日没後間もない薄明時、東シナ海の広い海域において、第三恵比寿丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中の宝清丸を避けなかったことによって発生したものである。 第三恵比寿丸の運航が適切でなかったのは、船長が、居眠り運航防止のための具体的指示をしなかったことと、航海当直者が、居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによる。
(受審人の所為) C受審人は、東シナ海の広い海域を漁場移動のため単独航海当直中にいすに腰掛けた姿勢で眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、立って見張りに集中したり航海当直を交替するなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、まさか眠り込むことはないものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りして宝清丸を避けることができないまま進行して衝突を招き、宝清丸及び第三恵比寿丸に損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人が、東シナ海の広い海域において、操業の疲れが残るC受審人に単独航海当直を行わせる際、眠気を催したときは直ちに同当直を交替するよう居眠り運航防止のための具体的指示をしなかったことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、B受審人の所為は、乗組員に対して前路の見張りを励行するよう指導したり航海当直体制に配慮するなどしている点に徴し、職務上の過失とするまでもない。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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