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1998年(平成10年)

平成9年広審第13号
    件名
貨物船とくひろ漁船第三漁吉丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年1月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、畑中美秀、平田照彦
    理事官
道前羊志

    受審人
A 職名:とくひろ次席一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第三漁吉丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
とくひろ…船首部外板に擦過傷
漁吉丸…右舷側外板及び船体上部構造物が破損

    原因
とくひろ…居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
漁吉丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、とくひろが、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の第三漁吉丸を避けなかったことによって発生したが、第三漁吉丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aに対しては懲戒を免除する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月7日10時20分
瀬戸内海 平郡水道
2 船舶の要目
船種船名 貨物船とくひろ 漁船第三漁吉丸
総トン数 499トン 4.3トン
全長 59.99メートル
登録長 10.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
とくひろは、専ら徳山下松港で積んだセメントを西日本各港に輸送する船尾船橋型セメントタンカーで、A受審人ほか5人が乗り組み、セメント1,008トンを積み、船首3.47メートル船尾4.65メートルの喫水をもって、平成8年8月7日06時25分徳山下松港を発し、松山港に向かった。
ところで、A受審人は、とくひろの所有会社の一つである有限会社Aの社長を務め、同船の甲板部職員が休暇下船したときは、その交代として月に20日ほど次席一等航海士の職名で乗り組み、長年、自社船の船長も兼務していたことから、実質的船長として船内の指揮を執っており、停泊中の荷役当直には就かなかったものの、航海中の船橋当直のほか、出入港や狭水道通過時には昇橋して自ら操船を行い、当時、夜間の出入港が多く、まとまった休息がとれない状況が続いていたこともあって、多少疲労が蓄積していた。
A受審人は、出港後2時間ばかり休息しただけで、08時40分ごろ平郡水道第1号灯浮標(以下、灯浮標名については「平郡水道」を省略する。)の南方で昇橋して単独で船橋当直に就き、海図記載の平郡水道推薦航路線の右側をこれに沿って東行し、09時27分下荷内島灯台から179度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点に達して第2号灯浮標に並航したとき、針路を084度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、船橋内を左右に移動しながら見張りを続けているうち、視界も良く、付近に気になる他船も見当たらなかったことから気が緩み、09時50分掛津島(かけづしま)を右舷側1,000メートルに並航したころ、操舵スタンド後方のいすに座り、同スタンドに両腕を乗せて当直を続けていたところ、軽い眠気を催したが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、立ち上がって操舵を手動に切り換え、気を引き締めて当直を続けるなど眠気を払う措置をとることなく続航し、10時04分半センガイ瀬灯標から276度3.6海里の地点に至って第3号灯浮標に並航したとき、自動操舵のまま針路を086度に転じ、その後まもなく居眠りに陥った。
10時13分少し過ぎA受審人は、センガイ瀬灯標から287度2.3海里の地点に達したとき、正船首方1海里に僚船3隻を左舷側に横付けし、右舷側を見せて漂泊中の第三漁吉丸(以下「漁吉丸」という。)を認め得る状況にあったが、居眠りしていたのでこのことに気付かず、その後衝突のおそれがある態勢で接近したものの、同船を避けないまま続航し、とくひろは、10時20分センガイ瀬灯標から293度1.4海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、漁吉丸の右舷前部に前方から30度の角度で衝突した。
当時天候は晴で風はほとんどなく、潮高は上げ潮の初期で、付近には微弱な南西流があった。
また、漁吉丸は、小型底びき網漁業に従事する汽笛を装備しないFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.15メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日05時30分山口県上関港を発し、センガイ瀬付近の漁場に向かった。
B受審人は、06時40分ごろ漁場に着いて直ちに操業にかかり、10時ごろ潮が変わったため僚船3隻とともに潮待ちをすることとし、前示衝突地点付近において、それぞれ南西方を向いて互いに係船した僚船群の右舷端に、自船の左舷側を接舷させた態勢でもやいを取って漂泊を始め、その後左隣の僚船に移乗し、各船から集まった仲間とともに食事を始めた。
B受審人は漂泊地点が平郡水道推薦航路線のわずか南で、船舶交通が輻輳(ふくそう)する海域であったものの、航行船が避けてくれるものと思い、仲間との談笑にふけり、10時13分少し過ぎ、ほぼ221度を向首していたとき、右舷船首45度1海里に自船に向首して来航するとくひろを認め得る状況となったが、周囲の見張りをしていなかったので、このことに気付かず、仲間にとくひろの接近を伝えるとともに自船に戻って係船索を解き、機関をかけて移動するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、同時20分少し前、とくひろの接近に気付いた仲間の一人が、とっさに移乗していた僚船の機関を後進にかけたが及ばず、漁吉丸は、船首を15度ほど右に振り、236度を向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、とくひろは、船首部外板に擦過傷を生じ、漁吉丸は、右舷側外板及び船体上部構造物が破損したが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、伊予灘北部において、航行中のとくひろが、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の漁吉丸を避けなかったことによって発生したが、漁吉丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、伊予灘北部において、数隻の僚船を横付けして漂泊する場合、船舶交通の輻輳する海域であったから、接近するとくひろを見落とさないよう、周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、とくひろの接近に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き、とくひろの船首部外板に擦過傷並びに漁吉丸の右舷側外板及び船橋上部構造物に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、伊予灘北部を単独で当直に就いて航行中、いすに腰を掛けて軽い眠気を催した場合、居眠り運航の防止措置として、いすから立ち上がって手動操舵に切り換え、気を引き締めて当直を続けるなど、眠気を払う措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、眠気を払う措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、漁吉丸を避けることができないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止すべきところ、同人が多年にわたり海運関係事業の振興に寄与した功績によって平成2年7月20日運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用してその懲戒を免除する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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