日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年神審第65号
    件名
押船第八大興丸被押バージ28大興号橋脚衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年1月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

長谷川峯清、早川武彦、工藤民雄
    理事官
北野洋三

    受審人
A 職名:第八大興丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
28大興号…船首部を圧壊
橋脚…外周足場やネオン標識灯の一部が脱落し、橋脚のコンクリート表面が破損

    原因
居眠り運航の防止措置不十分

    主文
本件橋脚衝突は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月8日05時09分
明石海峡
2 船舶の要目
船種船名 押船第八大興丸 バージ28大興号
総トン数 100トン
積トン数 1,100トン
全長 26.00メートル 77.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
3 事実の経過
第八大興丸(以下「大興丸」という。)は、2基の主機と2軸2舵を装備した鋼製押船で、A受審人ほか5人が乗り組み、船首3.00メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、水滓(すいさい)2,300トンを積載して船首3.60メートル船尾4.90メートルの喫水となった、船首部にクレーンを有する無人の鋼製バージ28大興号の船尾凹部に、船首尾線が一線になるよう船首部を嵌合(かんごう)したのち油圧装置で固定し、一体となって全長約95メートルの大興丸被押バージ28大興号押船列(以下「大興丸押船列」という。)を構成し、平成8年3月7日10時15分広島県福山港を発し、目的地の神戸港に翌朝06時ごろ到着するよう時間調整と食料などの補給を行うため香川県高松港に向かい、13時15分に入港し、翌8日00時30分に出港した。
A受審人は、前任船長の休暇下船に伴って船長職を執ることとなり、1週間ばかり休暇で休養したのち前日7日朝山口県下関市の自宅から福山港に停泊中の大興丸押船列に向かい、同船長と交替したのち発航したもので、同受審人は、発航に際し、出入港操船を除く神戸港まで約9時間の航程を3分割して自らと甲板長及び甲板員の3人でそれぞれ単独の船橋当直に就くこととし、自らが神戸港入港までの最後の当直に就くこととした。また、同受審人は、高松港入港中に乗組員に休養を与えるため上陸させ、自らも20時ごろまで上陸したのち帰船し、身の回りの荷物や部屋を片付けたりしていて休息を取らないまま同港を出港し、港外に出てから甲板長に船橋当直を委ねて降橋したのち、自室で休息した。
ところで、明石海峡では、神戸市垂水区と兵庫県淡路島との間に明石海峡大橋の建設工事が施工されており、明石海峡航路の北側では、同大橋2Pケーソン(以下「橋脚」という。)と称する主塔の橋脚建設工事が行われていた。橋脚は、江埼灯台から058度(真方位、以下同じ。)2海里ばかりの地点を中心に、直径80メートル基準水面上10メートルの高さで円筒状に建設され、その頂部から約5メートル下方の周囲には、橋梁方向の左右にそれぞれ長さ約70メートル幅16ないし18メートルの交通船発着設備を含む作業基地が橋脚曲面に沿って設けられ、全周に幅約3メートルの外周作業足場及び長さ約5メートルの橙色ネオン標識灯が50個連続して設備されていた。また、橋脚周辺には航行禁止区域が設定され、同区域を示す10個の仮設灯浮標が設けられており、更に、同区域付近に3隻の警戒船が常時配備されていた。
A受審人は、同日03時ごろ播磨灘航路第4号灯浮標(以下、播磨灘航路灯浮標については「播磨灘航路」を省略する。)付近において、前直の甲板長から船橋当直を引き継ぎ、04時20分第6号灯浮標を左舷側50メートルばかりに見る、江埼灯台から253度7.5海里の地点に達したとき、針路を065度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進の約10ノットの押航速力にかけ、折からの東北東流に乗じて11.6ノットの対地速力で進行した。
その後、A受審人は、船橋前面中央のコンパスレピーターの後方に立ち、時々船橋内を左右に移動して28大興号のクレーンによる死角を補う前路の見張りに当たり、自動操舵のまま適宜進路を補正しながら続航した。やがて、同人は、慣れた航路で周囲に航行の障害になる他船を認めなかったことから気が緩み、同レピーターにもたれかかっているうち、昇橋前に短時間休息したものの、前日からの生活環境の変化と乗船した日のうちに何度も出入港操船に当たった緊張感もあって十分な休息が取れなかったこともあり、眠気を催すようになったが、間もなく明石海峡に入航する時機であったから居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置として、他の乗組員を昇橋させて見張りに当たらせることなく、そのまま当直を続けているうち、いつしか同レピーターにもたれかかったまま居眠りに陥った。
こうして、大興丸押船列は、当直者が居眠りに陥っていて前路の見張りが行なわれないまま、04時48分明石海峡航路西方灯浮標(以下、明石海峡航路灯浮標については「明石海峡航路」を省略する。)付近の江埼灯台から272度2.4海里の地点にさしかかったころから、折からの潮流により右方に約3度圧流されながら12.6ノットの対地速力で明石海峡航路に向かって進行した。
そして、A受審人は、04時58分中央第1号灯浮標を左方に見る江埼灯台から328度0.9海里の地点で明石海峡航路に入り、折からの約2ノットの東南東流により、11.5ノットの対地速力で同航路を斜航し、明石海峡航路の中央から左の部分を横切って前示航行禁止区域に近づいていたが、依然居眠りを続けていたので、前路に点灯している仮設灯浮標やネオン標識灯にも、警戒船からの警告信号にも気づかず、05時09分江埼灯台から058度2海里の地点において、大興丸押船列は、船首が原針路に向いたまま約095度方向に圧流されながら続航中、28大興号の船首部が、橋脚の南西都にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には約2ノットの東南東流があった。
衝撃で目覚めたA受審人は、周囲に橋脚建設工事の多数の照明灯を認めて直ちに機関を停止した。その後平磯灯標の沖合に移動して投錨し、損傷状況の確認等を行ったのち自力で目的地に向かった。
衝突の結果、28大興号は船首部を圧壊し、また、橋脚は外周足場やネオン標識灯の一部が脱落し、橋脚のコンクリート表面が破損するなどの損傷を受けたが、のちそれぞれ修理された。

(原因)
本件橋脚衝突は、夜間、明石海峡において、居眠り運航の防止措置が不十分で、工事中の明石海峡大橋北側橋脚にむかって潮流に圧流されながら進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、夜間、単独の船橋当直に就き、神戸港に向けて播磨灘を東行中、眠気を催した場合、間もなく明石海峡航路入航となる時機でもあったから、居眠り運航の防止措置として、他の乗組員を昇橋させて見張りに当たらせるべき注意義務があった。しかるに、同人は、居眠りすることはあるまいと思い、他の乗組員を昇橋させて、見張りに当たらせなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、工事中の明石海峡大橋北側橋脚への衝突を招き、同橋脚のネオン標識灯、コンクリート表面及び外周足場などを破損し、28大興号の船首部に圧壊を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION