|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年12月13日06時25分 友ケ島水道南方海域 2 船舶の要目 船種船名 貨物船明和丸
漁船住吉丸 総トン数 334トン 4.98トン 全長 52.76メートル 登録長
10.74メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 735キロワット 漁船法馬力数 15 3 事実の経過 明和丸は、苛性(かせい)ソーダや水酸化マグネシウムなどの輸送に従事する船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、A受審人、B指定海難関係人ほか2人が乗り組み、苛性ソーダ470立方メートルを積載し、船首3.1メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成7年12月12日11時40分三重県四日市港を発し、大阪港堺泉北区に向かった。 A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及び機関長の3人による単独4時間交替の三直制で行っており、翌13日04時ごろ和歌山県畑野埼西方4.5海里付近において、一等航海士と交替して当直に就き、成規の航海灯の点灯を確かめて紀伊半島西岸沿いに北上した。 04時35分A受審人は、紀伊日ノ御埼灯台から260度(真方位、以下同じ。)1海里の地点で、針路を353度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で、自動操舵により由良瀬戸に向けて進行した。 ところで、B指定海難関係人は、中学を卒業して内航船に乗船し、明和丸に乗り組んで1年余りで、甲板員としての経験が乏しく、A受審人から少しでも他の船橋当直者の当直に入って慣れるよう指示されており、平素、同受審人が当直のときによく昇橋して当直を見習うようにして、同日05時ごろいつもより早く目覚めたので自主的に昇橋し、A受審人の了解を得て見張りに当たった。 A受審人は、操舵室左舷側レーダーのそばで椅子に腰を掛け見張りに当たっていたところ、06時17分友ケ島灯台から182度6.4海里の地点に達したとき、急に強い便意を催し、このころ左舷船首22度1.4海里に住吉丸と、その東方に2隻の漁船らしき船の各灯火を初めて視認したが、便意が我慢できなかったので、一見しただけで用便に向かうこととした。 その際、A受審人は、これまでB指定海難関係人を単独で船橋に立たせたことがなかったのに、用を足すだけで短時間で済むから大丈夫と思い、住吉丸に対して動静監視を続けることができるよう、当直に慣れた他の乗組員を呼んで当直に当たらせることなく、同指定海難関係人に、左舷前方の漁船に気をつけるようにと告げただけで降橋した。 1人で船橋に立ったB指定海難関係人は、昇橋前、自室で7ないし8時間ほど休息をとり、特に睡眠不足や疲労が蓄積した状態ではなかったものの、時刻を間違えていつもより早く起きたせいか、脚立に腰を掛け操舵スタンドにもたれて見張りに当たっているうち、いつしか居眠りに陥った。 こうして、B指定海難関係人は、居眠りを続け、その後、住吉丸が前路を右方に横切り、方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で互いに接近したが、このことに気付かないで、A受審人に報告ができないまま進行した。そして、明和丸は、住吉丸に対して警告信号を行うことも、さらに間近に接近しても行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作もとることができないまま続航中、06時25分友ケ島灯台から184度5海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が住吉丸の右舷中央部やや船尾寄りに後方から約76度の角度で衝突した。 B指定海難関係人は、衝突したショックで目覚め、前方を見て左舷舷側付近に住吉丸を認め、衝突したことを知った。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、日出時刻は06時56分であった。 A受審人は、用を足し終えて昇橋したところで、B指定海難関係人から漁船と接触したとの報告を受けたものの、同指定海難関係人から漁船がそのまま航行していたと聞いたことから、大したことがないものと判断し、そのまま目的港に向けて続航中、大阪港に近づいたところで巡視艇に呼び止められて事情を聞かれた。 また、住吉丸は、小型機船底曳(そこびき)網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が息子の甲板員と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時30分兵庫県由良港の漁船だまりを発し、同港南方5海里付近の漁場に向かった。 06時10分C受審人は、友ケ島灯台から194度5.6海里の漁場に着き、長さ約450メートルの引綱の先端に、長さ約2.3メートルの2本のフライドルワイヤを介して幅2.3メートル高さ1.2メートルの桁枠と長さ約3.5メートルの底曳網とを取り付けて船尾から延出し、マスト灯、両舷灯及び船尾灯のほかマスト頂部に黄色回転灯、また船尾のブームに後部甲板上を照らす60ワットの作業灯3個をそれぞれ点灯し、トロールにより漁労に従事する船舶が表示しなければならない緑、白の全周灯を表示せず、他船から漁労に従事中であると判断されない状態のまま、針路を069度に定め、4ノットの曳網(えいもう)速力で進行した。 曳網を開始したころ、C受審人は、右舷船首82度2.6海里に明和丸の表示する灯火のうち白、紅2灯を初めて視認し、同船が友ケ島水道に向かって北上する船と思ったものの、まだ距離も離れていたので同船から目を離し、船首方約500メートルとその前を先航する各1隻の僚船の進行方向を見ながら、操舵室舵輪後方で操舵と見張りに当たって続航した。 06時17分C受審人は、友ケ島灯台から190度5.3海里の地点に達したとき、明和丸が同方位1.4海里となり、その後同船が前路を左方に横切り、方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で互いに接近したが、自船が黄色回転灯のほか作業灯を点灯して操業しているので、航行中の明和丸が避けてくれるものと思い、専ら前方の僚船に注意を払い、同船に対する動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、できる限り早期に右転するなど明和丸の進路を避けないまま進行した。 06時25分少し前、C受審人は、右舷船首方至近に明和丸を認め、急いで左舵一杯としたが効なく、住吉丸は、ほぼ原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、明和丸は、船首部に擦過傷を生じたほか、衝突後の接触で左舷側中央部付近のハンドレールを破損し、住吉丸は、右舷側中央部やや船尾寄りの外板及び機関室囲壁を圧壊したが、のちいずれも修理された。また、C受審人と甲板員が頚部捻挫(けいぶねんざ)などを負った。
(原因) 本件衝突は、日出前の薄明時、友ケ島水道南方の海域において、漁労に従事していることを示す灯火を掲げずに曳網中の住吉丸と北上中の明和丸の両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、住吉丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る明和丸の進路を避けなかったことによって発生したが、明和丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為) C受審人が、日出前の薄明時、友ケ島水道南方の海域において、漁労に従事中の灯火を掲げずに航行中の動力船の灯火を表示しただけで曳網中、前路を左方に横切る態勢で北上する明和丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が黄色回転灯のほか後部甲板上を照らす作業灯を点灯して曳網中であるから、航行中の明和丸が避けてくれるものと思い、引き続き動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けずに進行して衝突を招き、明和丸の船首に擦過傷と左舷側中央部付近のハンドレールに破損並びに住吉丸の右舷側中央部外板と機関室囲壁に圧壊を生じせしめ、自身と甲板員が頚部捻挫などを負うに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、日出前の薄明時、当直見習中の甲板員を見張りに就け、船橋当直に当たって友ケ島水道南方海域を由良瀬戸に向け北上中、左舷前方に住吉丸の灯火を認め、急に便意を催して用足しのため降橋する場合、同甲板員は経験が浅く、単独での当直が無理な状況であったから、当直に慣れた他の乗組員を呼んで当直に就けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、用を足す短時間の間降橋するだけなので大丈夫と思い、当直に慣れた他の乗組員を呼んで当直に就けなかった職務上の過失により、その後住吉丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとることができないまま進行して衝突を招き、両船に前示のとおり損傷及び住吉丸乗組員に負傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|