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1998年(平成10年)

平成9年仙審第42号
    件名
漁船盛幸丸漁船瑞宝丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年1月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

葉山忠雄、釜谷獎一、半間俊士
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:盛幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:瑞宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
盛幸丸…船首部外板に破口を伴う凹損
瑞宝丸…左舷中央部の破口からの多量の浸水で沈没、船長が頚部に負傷

    原因
盛幸丸…動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
瑞宝丸…動静監親不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、盛幸丸が、動静監視不十分で、漁労に従事している瑞宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、瑞宝丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月12日03時55分
福島県鵜ノ尾埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船盛幸丸 漁船瑞宝丸
総トン数 18トン 18トン
登録長 16.40メートル 15.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 257キロワット 481キロワット
3 事実の経過
盛幸丸は、船体のほぼ中央部に船橋を有し、沖合底びき網漁に従事するFRP製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.70メートル船尾2.30メートルの喫水をもって、平成8年9月12日02時20分福島松川浦漁港を発し、鵜ノ尾埼東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、自ら操舵操船に従事し、航行中の動力船の灯火に加えて後部甲板を照明する作業灯6個を点灯して港外に向かい、相馬港松川浦南防波堤灯台を右舷至近に過ぎてしばらく東行したのち、B指定海難関係人に船橋当直を行わせることとしたが、同指定海難関係人がいつも漁場までの同当直を行っていたところから、運航を任せていても大丈夫と思い、同指定海難関係人に対して他船を確認したら、その動静監視を十分にすること及び同業船が集中する漁場において、他船と接近したら、A受審人自らが操船に当たることができるように報告することなどの指示を行うことなく、操舵室後部のベッドで休息した。
同当直についたB指定海難関係人は、02時30分ごろ鵜ノ尾埼灯台から024度(真方位、以下同じ。)1海里の地点に達したとき、針路を099度に定め、機関を9ノットの全速力前進にかけ、操舵を自動とし、操舵輪の後方に立って見張りを行って進行した。
03時45分ごろ同灯台から095度11.5海里の地点に達したとき、B指定海難関係人は、右舷船首18度1.6海里ばかりのところに緑色、白色の各全周灯を表示してトロールによる漁労に従事している瑞宝丸の灯火を確認しうる状況となり、その後衝突のおそれある態勢で接近していたものの、これに気付かないで続航した。同時50分ごろ同指定海難関係人は、同方位1,530メートルのところに瑞宝丸の掲げた作業灯の灯火を初めて視認し、その後、同船と方位が変わらず接近していることが分かる状況であったが、一見しただけで同灯火の点灯模様から同業船で、同航していると思い、その動静を十分に監視しないで、この状況を船長に報告せず、漁場に近づいたので操舵室を出て炊事室に赴き作業用カッパを着用するなど操業の身支度を行った。
こうして、A受審人が、B指定海難関係人から報告が得られず、休息していたので、03時51分半ごろ瑞宝丸と1,000メートルばかりに接近しても、漁労に従事している同船の進路を避ける動作をとることができないでいるうち、同時55分わずか前B指定海難関係人が身支度を済ませて操舵室に戻ったとき、船首至近に同船を認めたもののどうすることもできず、03時55分鵜ノ尾埼灯台から096度12.9海里の地点において、盛幸丸は、原針路、原速力のまま、その船首が瑞宝丸の左舷中央部に前方から84度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好であった。
A受審人は、衝突の衝撃で目を覚まし、事後の措置に当たった。
また、瑞宝丸は、船体のほぼ中央部に船橋を有し、沖合底びき網漁に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、同日02時15分松川浦漁港を発し、鵜ノ尾埼東方沖合の漁場に向かった。
C受審人は、自ら操舵操船に従事し、航行中の動力船の灯火を表示して港外に向かい、相馬港松川浦南防波堤灯台を右舷至近に過ぎ、しばらく東に向け航行したのち、いつものとおり、甲板員Dに船橋当直を行わせ、操舵室後部のベッドで休息した。
その後、D甲板員は、漁場に向かって東行し、03時35分ごろC受審人は、同甲板員から漁場に近づいたことを知らされ、操舵室に赴いて一人で操舵操船に当たり、同時40分ごろ引き索を約460メートル延出して投網を開始し、前示灯火に加え、トロールによる漁労に従事していることを示す緑色、白色の各全周灯を表示し、後部甲板を照明する作業灯9個を点じて進行した。
03時45分ごろ鵜ノ尾埼灯台から098度13海里の地点で、同受審人は、針路を003度に定め、機関を約3ノットのえい網速力とし、手動操舵で続航し、そのとき、左舷船首66度1.6海里ばかりに盛幸丸の表示する作業灯を初めて視認し、その後、同船と衝突のおそれある態勢で接近したが、自船はトロールによる漁労に従事していることを示す灯火を表示しているので、無難に航行できると思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく進行した。
C受審人は、航海日誌に福島県水産試験場から依頼を受けていた操業資料の記入を始め、03時50分ごろ盛幸丸が方位が変わらずに1,530メートルに接近していたものの、依然、動静を十分に監視しないで続航し、同時53分ごろ同船と約500メートルに接近しても、この状況に気付かず、警告信号を行わないで進行中、同時55分わずか前同資料の記入を終え、左舷前方を見て、至近のところに作業灯に照らされた同船を初めて視認し、急ぎ右舵を取り、機関を微速力前進としたものの及ばず、瑞宝丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、盛幸丸は船首部外板に破口を伴う凹損を生じて、のち修理されたが、瑞宝丸は左舷中央部の破口からの多量の浸水で衝突地点付近において沈没し、C受審人が頚部に負傷したが、他の乗組員と共に盛幸丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、夜間、トロールによる漁労に従事する船舶が集中する福島県鵜ノ尾埼東方沖合において、東行中の盛幸丸が、動静監視不十分で、トロールによる漁労に従事している北上中の瑞宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、瑞宝丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
盛幸丸の運航が適切でなかったのは、船長が、当直者に対して他船を視認したら、その動静監視を十分にすること及び他船と接近したとき報告することの指示が十分でなかったことと、当直者が、瑞宝丸の動静監視を十分に行わなかったこと及び同船と接近したことを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、船橋当直に当たり福島県鵜ノ尾埼東方沖合を東行中、甲板員に船橋当直を行わせる場合、他船を視認したら、その動静監視を十分に行うこと及び他船と接近したとき、報告することの指示を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、甲板員がいつも漁場までの同当直を行っていたところから、運航を任ていても大丈夫と思い、他船を視認したら、その動静監視を十分に行うこと及び他船と接近したとき、報告することの指示を十分にしなかった職務上の過失により、瑞宝丸の進路を避けることができないまま進行して同船との衝突を招き、瑞宝丸を沈没させ、盛幸丸の船首部外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、一人で船橋当直に当たりトロールによる漁労に従事して福島県鵜ノ尾埼東方沖合を北上中、盛幸丸の表示する作業灯を視認した場合、衝突のおそれのあることを判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、無難に航行できると思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、盛幸丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自身も頚部を負傷するに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、一人で船橋当直に当たり福島県鵜ノ尾埼東方沖合を東行中、瑞宝丸の表示する灯火を視認した際、同船の動静監視を十分に行わなかったこと及び同船との接近を船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後同人が安全運航に努めている点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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