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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月17日15時22分 長崎県厳原港 2 船舶の要目 船種船名 漁船漁栄丸
漁船忠吉丸 総トン数 4.90トン 4.59トン 登録長 10.95メートル 9.90メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 40 60 3 事実の経過 漁栄丸は、一本釣り漁業に従事する木製漁船で、A受審が1人で乗り組み、いか釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成9年5月17日15時17分長崎県厳原港の厳原大橋南東側に位置する東ノ浜物揚場岸壁を発し、耶良埼南方沖合の漁場に向かった。 A受審人は、操舵室に立ち、舵輪を操作して見張りに当たり、機関を微速力前進にかけ、3.8ノットの対地速力として港口に向かい、15時19分少し前、カーフェリーが着岸する1号岸壁の西側の角から40メートル西方にあたる、厳原港外防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から328度(真方位、以下同じ。)390メートルの地点で、針路を153度に定めて進行した。 15時20分少し過ぎA受審人は、志賀ノ鼻の手前に差し掛かったころ、後続船がいるかどうか後方を振り返って見たところ他船を認めなかったので、その後、後方の見張りを行わないまま航行した。 15時21分A受審人は、防波堤灯台から318度130メートルの地点に達したとき、左舷船尾11度100メートルのところに、忠吉丸が自船を追い越す態勢で来航しているのを認められる状況にあったが、後方から接近する船舶はいないものと思い、依然、後方の見張りを行うことなく、そのころ防波堤入口付近に近付いていたので、専ら前方の見張りに当たり、忠吉丸に気付かなかった。 そして、A受審人は、その後忠吉丸が急速に衝突のおそれのある態勢で接近してきたが、このことに気付かないで、もはや、同船との衝突を避けるための協力動作をとることができないまま、同船に対して有効な音響による信号を行うことなく続航中、突然、船尾に衝撃を感じ、15時22分防波堤灯台から270度30メートルの地点において、漁栄丸は、原針路、原速力のまま、その船尾に、忠吉丸の船首が左舷側後方から5度の角度で衝突して乗り上げた。 当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。 A受審人は、衝撃で初めて衝突したことを知り、通り掛かった他船に救援を依頼し、船体を引き離す作業などの事後措置に当たった。 また、忠吉丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いか釣りの目的で、船首0.25メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、同日15時15分厳原港の厳原大橋西側に位置する、船溜りの係留地を発し、耶良埼南方沖合の漁場に向かった。 B受審人は、操舵室に立ち、舵輪を操作して見張りに当たり、機関を微速力前進としてゆっくり厳原大橋の橋梁に向かい、同橋梁下を通過したところで、機関を半速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力として港口に向かい、1号岸壁の西側の角を左舷側近くに付け回したのち、15時20分半少し前、防波堤灯台から333度380メートルの地点で、針路を158度に定めて進行した。 定針したころ、B受審人は、前方を一瞥(べつ)したが、1号岸壁に着岸しているカーフェリーの方向にあたる左方だけを見て、他船を見掛けなかったことから、前方に他船がいないものと思い、以後、船尾甲板に天日干ししていた操舵室の床板を同室に敷く作業に取り掛かり、前方の見張りを十分に行わなかったので、先航する漁栄丸に気付かなかった。 15時21分B受審人は、防波堤灯台から329度230メートルの地点に達したとき、右舷船首5度100メートルのところに、漁栄丸を追い越す態勢で接近し、衝突のおそれがあるのを認められる状況にあったが、依然、床板を敷く作業に専念して前方の見張りを行わなかったので、これに気付かず、右転するなどして同船を確実に追い越し、かつ十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく続航中、突然、船首に衝撃を受け、忠吉丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突して漁栄丸の船尾部に乗り上げた。 B受審人は、衝撃で初めて漁栄丸に衝突したことを知り、以後、船体を引き離す作業などの事後措置に当たった。 衝突の結果、漁栄丸は、船尾部を損壊し、忠吉丸は、船首部のかんぬきを折損するなどの軽損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、両船が長崎県厳原港の防波堤付近を出航中、漁栄丸を追い越す態勢で接近する忠吉丸が、見張り不十分で、漁栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、漁栄丸が、見張り不十分で、接近する忠吉丸に対し、有効な音響による信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、長崎県厳原港を出航する場合、出入港する船舶がふくそうする防波堤入口近くを航行中であったから、自船が追い越す態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、左前方を一瞥して他船がいないものと思い、船尾甲板に天日干ししていた操舵室の床板を敷く作業に当たり、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船が追い越す態勢で漁栄丸に接近していることに気付かず、右転するなどして漁栄丸の進路を避けないで同船との衝突を招き、漁栄丸の船尾部を損壊し、忠吉丸の船首部のかんぬきを折損するなどの軽損を生じさせるに至った。 A受審人は、長崎県厳原港を出航中、後方の見張りを十分に行わず、自船を追い越す態勢で接近してきた忠吉丸に気付かないで、有効な音響による信号を行わなかったことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、このことは、A受審人が衝突の約2分前、後方を見て接近する船舶がいないことを確かめていた点、衝突の約1分半前、忠吉丸が見通しがきかない1号岸壁の北方の水域から、初めてその船影を同岸壁近くに見せて接近してきた点、及び当時漁栄丸が防波堤入口付近に近付き、同受審人が前方の見張りに専念する必要があった点に徴し、同人の職務上の過失とするまでもない。
参考図
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