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1998年(平成10年)

平成8年神審第90号
    件名
引船第十小鳴門丸引船列漁船春日丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年5月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄
    理事官
副理事官 山本茂

    受審人
A 職名:第十小鳴門丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:春日丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大鳴門号…損傷なし
春日丸…船首部に破損、甲板員が右肩に軽い打撲傷

    原因
小鳴門丸引船列…動静監視不十分で、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
春日丸…見張り不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十小鳴門丸引船列が、動静監視不十分で、漁労に従事している春日丸の進路を避けなかったことによって発生したが、春日丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月13日12時56分
徳島県折野港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 引船第十小鳴門丸
総トン数 19トン
全長 13.45メートル
幅 4.97メートル
深さ 2.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 起重機船大鳴門号 作業船第五小鳴門丸
総トン数 15.66トン
全長 40.00メートル
登録長 11.90メートル
幅 15.00メートル 4.00メートル
深さ 2.70メートル 1.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 121キロワット
船種船名 漁船春日丸
総トン数 漁 4.98トン
登録長 10.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第十小鳴門丸は、鋼製引船兼押船で、徳島県折野港において鋼製非自航の起重機船大鳴門号及び鋼製作業船第五小鳴門丸とともに、港湾工事に従事していたところ、平成7年12月13日10時00分ごろ同港内の、引田鼻灯台から110度(真方位、以下同じ。)3.5海里の港湾工事現場に至って消波ブロックの設置作業を行った。
第十小鳴門丸は、同作業を終えたのち、A受審人が1人で乗り組み、大鳴門号の作業員1人を同乗させ、船首0.60メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、喫水が船首1.00メートル船尾1.20メートルで、作業員6人が乗った大鳴門号の左舷側船尾部に自船の右舷を接舷させ、直径46ミリメートルのホーサーで船首尾を係止し、さらに大鳴門号の右舷船尾部に、喫水が船首0.40メートル船尾1.60メートルとなった無人の第五小鳴門丸の左舷を係止して引船列(以下「小鳴門丸引船列」という。)を構成し、同日12時20分同工事現場を発し、同県亀浦港に向かった。
発航後、A受審人は、舵輪の後方で立って操船と見張りに当たり、工事現場の西側沿岸一帯に設置されているわかめなどの養殖施設を避けるため、針路を沖合に向ける0.02度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
12時33分半A審人は、引出鼻灯台から090度3.3海里の地点に達し、予定の転針地点となったとき、右舵をとって針路を島田島の瀬ノ肩鼻沖合に向く071度に転じ、同一速力で折野港沖合を東行した。
A受審人は、12時40分引出鼻灯台から087度4.0海里の地点に達したとき、右舷首11度2.0海里のところに漁労に従事している春日丸を初めて視認した。しかし、同人は、同船が一べつして自船の右舷方に向首しているように見えたことから、右舷を対して替わるものと思い、引き続き動静監視を十分に行うことなく、左舷前方に散在する漁船の動静に気をとられ、その後、春日丸と針路が互いに交差し、その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していたが、このことに気付かず、早期に同船の進路を避けないで続航中、12時56分引田鼻灯台から083度5.3海里の地点において、大鳴門号は、原針路のままその右舷首部に、春日丸の船首が前方から29度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、春日丸は、音響信号を有しない、底曳(びき)網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が実父の甲板員と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾0.68メートルの喫水をもって、同日07時20分徳島県北泊漁港を発し、折野港沖合の漁場に向かった。
B受審人は、07時35分ごろ折野港北方の漁場に至り、長さ約300メートルの引綱の先端に、長さ約3メートルの2本のブライドルワイヤを介して桁枠(けたわく)に取り付けられた長さ約4.5メートルの底曳網を船尾から延出し、操舵室上部から船首甲板上にとった索の中間に漁労に従事していることを示す鼓型形象物を掲げ、戦車まんが漁と称するトロールによる漁法で操業を開始した。
こうしてB受審人は、曳網と揚網を繰り返して操業を続け、12時40分引田鼻灯台から085度6.0海里の地点において、投網を終えるとともに、針路を280度に定め、機関を回転数毎分2,500にかけ、3.0ノットの対地速力で進行した。
定針したときB受審人は、左舷船首18度2.0海里のところに、東行する小鳴門丸引船列を視認できる状況にあり、その後同引船列と互いに針路が交差し、その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、一べつして周りには2隻の僚船が同じ方向に向けて曳網しているだけで、前路に支障となる他船がいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかったので、小鳴門丸引船列の接近に気付かなかった。
B受審人は、間もなく船尾甲板の右舷側で、甲板員とともにしゃがんで漁獲物の選別に当たっていたので、依然小鳴門丸引列の接近に気付かず、間近に接近しても機関を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないで続航中、春日丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大鳴門号には損傷がなく、春日丸は船首部に破損を生じたが、のち修理され、春日丸の甲板員が右肩に軽い打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、徳島県折野港北東方沖合において、東行中の小鳴門丸引船列が、動静監視不十分で、前路で漁労に従事している春日丸の進路を避けなかったことによって発生したが、春日丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、操船と見張りに当たって折野港北東方海域を東行中、右舷前方に漁労に従事している春日丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、一べつして右舷を対して替わるものと思い、左舷前方に散在する漁船の動静に気をとられ、引き続き春日丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けずに進行して衝突を招き、春日丸の船首に損傷を生じせしめ、同船の甲板員に右肩打撲傷を負わせるに至った。
B受審人は、折野港北東方海域において底曳網漁に従事中、針路を定めて底曳網の曳網を開始した場合、左舷船首方から衝突のおそれのある態勢で接近する小鳴門丸引船列を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、一べつして周りには2隻の僚船が同じ方向に向けて曳網しているだけで、前路に支障となる他船がいないものと思い、船尾甲板で漁獲物の選別に専念し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、小鳴門丸引船列の接近に気付かず、間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航して衝突を招き、前示のとおり春日丸に損傷及び自船の乗組員を負傷させるに至った。

参考図






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