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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年12月4日20時20分 大阪府阪南港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第二十三あき丸 総トン数 397トン 全長 60.98メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 第二十三あき丸は、船尾船橋型の鋼製砂利石材等運搬船であり、主として香川県詫間港から大阪湾の諸港へ砕石及び砂の輸送に従事していたもので、A受審人ほか3人が乗り組み、真砂土約700立方メートルを載せ、船首3.60メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成7年12月4日11時30分詫間港を発し、阪南港に向かった。 A受審人は、17時00分明石海峡航路西口で一等航海土と交替して単独の船橋当直に就き、同航路を経て大阪湾を東行し、19時57分少し前阪南港泉佐野沖防波堤灯台(以下「沖防波堤灯台」という。)から330度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの地点に達したとき、針路を136度に定めるとともに、主機遠隔操縦ハンドル(以下「操縦ハンドル」という。)を操作して全速力前進から5.0ノットの微速力前進にかけ、阪南港第3区内を手動操舵により進行した。 ところで、操縦ハンドルは、操舵室前部中央の操縦盤に設けられた1本ハンドル式のもので、これをクラッチが中立となる中央位置から前又は後ろに各40度の範囲に移動させることができ、操作の際は同ハンドル上部の握りを手指で軽く持ち上げて移動させ、これを放せばその位置にロックされる機構になっていた。そして、操縦ハンドル際には、中央位置にNの表示のほか、その前進側及び後進側にそれぞれ等間隔の20目盛りが付されているものの、停止、微速力前進などの表示はなかったが、操縦盤には、クラッチの状態に応じ、前進、中立、後進を示す表示灯が点灯するようになっていた。 やがてA受審人は、一等航海士及び甲板員を船首に、機関長を船尾にそれぞれ配置し、20時05分半沖防波堤灯台から016度450メートルの地点に至り、針路を180度に転じ、3.0ノットの極微速力に減速し、同時10分同灯台を右舷側130メートルに通過したとき、針路を188度に転じるとともに、操縦ハンドルを適宜操作しながら2.5ノットの速力で続航した。 A受審人は、着岸時刻の都合により、港奥に至る手前の幅250メートルの水路内で、その中間よりやや南西寄りに仮泊することとし20時14分予定錨地に向けて徐々に左転を始め、間もなく予定錨地に近づいたので、機関を微速力後進に次いで全速力後進にかけ、同時17分半沖防波堤灯台から157度600メートルの地点で、船首が172度を向いて前進行き脚が止まったとき、操縦ハンドルを中央位置に戻すつもりでこれを操作するとともに、直ちに一等航海士に命じて右舷錨を投じ、錨鎖を1節半延出させた。このとき、A受審人は、操縦ハンドルが中央位置になっているものと思い、その操作位置を確認しなかったので、同ハンドルがわずかに前進側で目盛1ないし2の位置に入ったまま機関が前進に運転されていることも、操縦盤の表示灯が前進を示していることにも気付かず、尿意を催していたので、だれにも告げないで上甲板の便所へ急いで降り、船橋を無人状態とした。 そのため、船体がゆっくりと前進を始め、右舷錨を引きずり、徐々に右に回頭しながら不二製油株式会社阪南工場の専用岸壁に接近していたものの、船首では一等航海士がこの状況に気付かずに甲板員と着岸に備えて係船索を整えているうち、20時20分少し前A受審人は、用足しを終えて船橋に戻ったとき、船首至近に迫った同岸壁を認め、機関を全速力後進にかけたが効なく、20時20分沖防波堤灯台から163度700メートルの地点において、第二十三あき丸は、船首が220度を向き、ほぼ1.0ノットの速力で同岸壁に直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 衝突の結果、船首に凹傷を生じ、前示岸壁が一部損壊したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件岸壁衝突は、夜間、阪南港第3区において投錨した際、操縦ハンドルの操作位置の確認が不十分で、機関が前進のまま運転され、錨を引きずりながら岸壁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、阪南港第3区において前進行き脚を止めて投錨し、操縦ハンドルを中央位置に戻すつもりで全速力後進の位置からこれを操作した場合、同ハンドルの操作位置を十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、中央位置になっているものと思い、同ハンドルの操作位置を十分に確認しなかった職務上の過失により、これがわずかに前進側に入っていることに気付かず、機関が前進のまま運転され、錨を引きずりながら不二製油株式会社阪南工場の専用岸壁と衝突を招き、船首に凹傷を生じさせ、同岸壁を一部損壊させるに至った。 |