日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年門審第11号
    件名
漁船金比羅丸漁船新勝丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、吉川進、岩渕三穂
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
金比羅丸…右舷船首の船底部に小破口
新勝丸…左舷中央部の外板及び操舵室等を破損、船長が肋軟骨骨折など、甲板員が約1年の入院を要する脳幹部挫傷など

    原因
金比羅丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
新勝丸…灯火・形象物(法定灯火を表示せず)、見張り不十分、信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、薄明時、金比羅丸が、見張り不十分で、漂泊中の新勝丸を避けなかったことによって発生したが、新勝丸が、有資格者を乗り組ませず、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月4日06時39分
長崎県壱岐島東方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船金比羅丸 漁船新勝丸
総トン数 3.6トン 2.17トン
全長 11.57メートル 8.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 40
3 事実の経過
金比羅丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、鯛釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成9年3月4日06時20分長崎県壱岐郡芦辺町八幡浦漁港柏崎地区を発し、壱岐島魚釣埼北東方沖合の漁場に向かった。
発航時、A受審人は、前部マストに設置された、甲板上の高さ約3メートルのところにある白色全周灯1個、操舵室上のマストに設置された、甲板上の高さ約2.5メートルのところにある両色灯及び船尾灯をそれぞれ点灯し、操舵室に立って見張りと操舵に当たり、機関を微速力前進にかけ、徐々に増速して12.0ノットの全速力前進とし、青島及び赤島を右方に見て航過したのち、長者原埼沖灯浮標を左方近くに離して付け回し、06時32分金城岩灯台から323度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点に達したとき、針路を000度に定め、折からの北寄りのうねりで船体の上下動が激しくなり、操舵室の前窓にしぶきがかかるようになったので、機関の回転を少し下げて、11.5ノットの対地速力で進行した。
06時36分A受審人は、金城岩灯台から342度1.3海里の地点に至ったとき、正船首1,000メートルのところに、漂泊中の新勝丸の掲げる黄色回転灯を認められる状況にあったが、前日から海上がしけていて当日は自船が一番先に出漁したものと推測して、前路に出漁している他船はいないものと思い、しぶきで前窓から前方が見えにくい状態であったのに、常時右側の回転窓から前方を見張ることも、レーダーを起動して監視することもせず、前方の見張りを十分に行わなかったので、新勝丸に気付かなかった。
A受審人は、その後自船が衝突のおそれがある態勢で新勝丸に接近し、06時38分半同船に170メートルの距離に近付き、周囲が日出時刻近くで明るくなり、同船の船体も認められる状況であったが、依然、見張りが不十分で、このことに気付かないまま、右転するなどして新勝丸を避ける措置をとることなく続航中、06時39分わずか前、前方至近に新勝丸の船体を初めて認め、急いで機関のクラッチを後進に切り替えたが及ばず、06時39分金城岩灯台から348度1.8海里の地点において、金比羅丸は、原針路、原速力のまま、その船首が新勝丸の左舷中央部に後方から87度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西寄りの風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、日出時刻は06時46分であった。
A受審人は、新勝丸を八幡浦漁港八幡浦地区に曳(えい)航し、同船の乗組員2人を救急車で病院に搬送するなど事後の措置に当たった。
また、新勝丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B指定海難関係人が同人の妻の甲板員と2人で乗り組み、前日設置した刺網の揚網の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同4日06時10分八幡浦漁港八幡浦地区を発し、壱岐島左京鼻北東方沖合の漁場に向かった。
ところで、B指定海難関係人は、旧小型船舶操縦士の海技免状を受有し、京浜港において、非自航のはしけに乗り組んでいたが、昭和49年5月26日から新しく適用された船舶職員法の免許に切り替える手続をとらないで、これを無効として昭和63年壱岐島に帰郷したが、平成2年から7年まで、近所の友人の漁船に乗り組んで操業を手伝い、その間に漁業の仕方を覚えたので、自分1人で漁業を行うこととし、地元のA漁業協同組合に加入して平成7年7月に中古の新勝丸を購入し、漁船登録を済ませたのち、海技免状を受有しないで船舶に職員として乗り組んではならないことを知っていたが、生活のために致し方ないものと思い、有資格者を乗り組ませないまま、同船に自ら船長として乗り組み、操業を続けていた。
発航時、B指定海難関係人は、夜明け前であったが、いつも昼夜にかかわりなく掲げている、操舵室上のマストの頂端に設置された、甲板上の高さ約3メートルのところにある黄色回転灯を点灯すれば、他船から見えるので大丈夫と思い、白色全周灯、両色灯及び船尾灯を表示せず、黄色回転灯1個を点灯し、また、同マスト近くに約7メートルの竹竿を立て、その先端に縦1メートル横1.2メートルの三角の赤旗を揚げ、操舵室の後ろに立って甲板員を左側に座らせ、見張りと舵柄による操舵に当たり、長者原埼を左方近くに離して付け回し、北上したのち、06時36分前示衝突地点付近に着き、設置した刺網の浮標を見付けるため、機関を中立回転とし、いったん後進をかけて行きあしを止め、船首を315度に向けて漂泊した。
そのころ、B指定海難関係人は、左舷船尾45度1,000メートルのところから、金比羅丸が自船に向けて接近し、同船の白、緑及び紅灯を認められる状況であったが、黄色回転灯を掲げているから接近する他船は自船を認めて避けてくれるものと思い、刺網の浮標を見付けるのに専念して、周囲の見張りを行うことなく、同船に気付かなかった。
B指定海難関係人は、その後、金比羅丸の方位が変わらないまま、衝突のおそれがある態勢で自船に接近してきたものの、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、機関をかけて衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続け、操舵室後側の右舷側に立ち、甲板員に、船体中央の右舷側で刺網の浮標を引き上げさせていたとき、新勝丸は、船首を273度に向けて前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金比羅丸は、右舷船首の船底部に小破口を生じ、新勝丸は、左舷中央部の外板及び操舵室等を破損し、B指定海難関係人が肋軟骨骨折などを、甲板員Cが約1年の入院を要する脳幹部挫傷などを負った。

(原因)
本件衝突は、日出前の薄明時、壱岐島東方沖合において、漁場に向けて航行中の金比羅丸が、前方の見張り不十分で、前路で漂泊中の新勝丸を避けなかったことによって発生したが、新勝丸が、有資格者を乗り組ませず、かつ、黄色回転灯だけを点灯して法定灯火を表示しなかったばかりか、周囲の見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、日出前の薄明時、壱岐島東方沖合を漁場に向けて航行する場合、前路で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、当日は自船が一番最初に出漁したものと推測して、前路に他船はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の新勝丸に気付かず、同船を避けることができずに衝突を招き、金比羅丸の右舷船首部船底に小破口を、新勝丸の左舷中央部外板及び操舵室などに破損を生じさせ、B指定海難関係人に肋軟骨骨折などを、C甲板員に約1年の入院を要する脳幹部挫傷などを、それぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、新勝丸に有資格者を乗り組ませず、無資格でありながら、自ら船長として乗り組み、日出前の薄明時、黄色回転灯だけを点灯して法定灯火を表示しないで航行したばかりか、漁場で漂泊中、周囲の見張りを行わず、衝突のおそれのある態勢で接近する金比羅丸に気付かないで、同船に対して避航を促すための有効な音響による信号を行うことができず、衝突を避けるための措置をとることもできなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後、自船を売却し、高齢のため船舶に乗り組まないことにした点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION