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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年10月3日10時38分 島根県八束群島根町北北西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船たいせい丸
遊漁船第二重宝丸 総トン数 499トン 2.37トン 登録長 61.07メートル 8.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
735キロワット 59キロワット 3 事実の経過 たいせい丸は、船尾船橋型の液体化学薬品ばら積み船兼油タンカーで、A受審人ほか6人が乗り組み、酢酸ビニールモノマー1,000キロトンを積載し、船首3.7メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成7年10月2日12時10分大分港を発し、新潟港に向かった。 A受審人は、船橋当直を単独の4時間3直制とし、翌3日07時40分出雲日御碕灯台北西方沖合で前直の一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、08時33分同灯台から324度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点で、針路を065度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて11.3ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。 10時30分A受審人は、多古鼻灯台から282度4.0海里の地点に達したころ、レーダーで船位を測定し、同時33分船橋左舷後方の海図台に船首を背にして向かい海図を見始めた。 10時35分A受審人は、多古鼻灯台から291度3.3海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルに船首を270度に向けて錨泊中の第二重宝丸(以下「重宝丸」という。)がおり、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、同船の動静からとどまっていることが分かり、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況であったが、海図に気を奪われ、前路の見張りを十分に行うことなく、これに気付かず、同船を避けないまま続航中、10時38分わずか前ふと振り返って正船首至近に同船を認めたが、どうすることもできず、10時38分多古鼻灯台から300度3.0海里の地点において、たいせい丸は、原針路、原速力のまま、その船首が重宝丸の左舷船首部に前方から25度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の中央期で、衝突地点付近には弱い東流があった。 また、重宝丸は、木製の小型遊漁兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、釣客4人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同月3日06時00分島根県御津漁港を発し、多古鼻灯台北西方3海里の釣場に向かった。 06時50分B受審人は、多古鼻灯台から297度3.0海里の地点に至り、投錨して魚釣りを始めたが、09時30分釣果がなかったことから揚錨し、同時38分前示衝突地点付近に移動し、径20ミリメートルの合成繊維索と径15ミリメートルの錨鎖を連結した錨索に33キログラムの錨を左舷船首から海中に投入し、錨索を約90メートル海中に延出し、甲板上のたつに錨索を留めて折からの潮流で270度を向首し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま機関を止め、釣客を船首部両舷に各1人及び船尾部両舷に各1人を位置させて遊漁を始めさせ、操舵室左舷後方の甲板上で釣客の世話をしながら自らも魚釣りを始めた。 10時35分B受審人は、左舷船首25度1,000メートルのところにたいせい丸が衝突のおそれのある態勢で接近していたが、釣客の世話と魚釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま遊漁中、同時38分少し前釣客に言われて左舷船首至近に迫ったたいせい丸を初めて視認し、機関を全速力後進にかけたが及ばず、重宝丸は、270度に向首して錨泊したまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、たいせい丸は左舷船首部に擦過傷を生じ、重宝丸は左舷ブルワーク、前部・後部両マスト及びアンテナ2本に損傷を生じたが、のち両船とも修理された。また、釣客1人が海中転落したが、重宝丸に救助された。
(原因) 本件衝突は、島根町北北西方沖合において、たいせい丸が、見張り不十分で、錨泊中の重宝丸を避けなかったことによって発生したが、重宝丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、島根町北北西方沖合を東行する場合、前路に錨泊中の重宝丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、海図に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船を避けないまま進行して衝突を招き、たいせい丸の左舷船首部に擦過傷並びに重宝丸の左舷ブルワーク、前部・後部両マスト及びアンテナ2本に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、島根町北北西方沖合に錨泊して遊漁を行う場合、接近するたいせい丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣客の世話と魚釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、たいせい丸が接近してきたことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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