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1998年(平成10年)

平成10年仙審7号
    件名
油送船第十一霧島丸油送船興徳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

?橋昭雄、安藤周二、供田仁男
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:興徳丸船長 海技免状:四級海技士
    指定海難関係人

    損害
霧島丸…右舷船首部ブルワークに亀裂を伴う凹損及び球状船首に擦過傷
興徳丸…左舷端艇甲板に裂損及び救命筏架台に曲損

    原因
興徳丸…気象・海象(錨泊中の荒天措置不十分)

    主文
本件衝突は、興徳丸が、錨泊中の荒天措置が不十分で、走錨して風下で錨泊中の第十一霧島丸に向かって圧流されたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月4日02時05分
宮城県塩釜港塩釜区
2 船舶の要目
船種船名 油送船第十一霧島丸 油送船興徳丸
総トン数 1,495トン 696トン
全長 84.00メートル 74.84メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,206キロワット 1,323キロワット
3 事実の経過
第十一霧島丸(以下「霧島丸」という。)は、船尾船橋型の油送船で、船長B及び次席一等航海士Cほか9人が乗り組み、ガソリンなど3,170キロリットルを積載し、船首5.00メートル船尾5.80メートルの喫水をもって、平成9年2月2日11時20分千葉港を発し、塩釜港塩釜区に向かった。
翌3日08時45分B船長は、翌朝の着岸時刻まで待機する予定で、塩釜港塩釜区の検疫錨地付近に至り、花淵灯台から081度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点で、水深15メートルの底質が砂の混じった泥のところに左舷錨を投じ、錨鎖6節を水中まで延出し、甲板手を守錨当直に就けて単錨泊した。
このころ発達中の低気圧が千葉県房総半島東方沖合の海上を北東に進んで冬型の気圧配置が強まりつつあり、16時仙台管区気象台から宮城県平野に強風波浪注意報が発表され、塩釜港では同低気圧が東方沖合の海上に接近した19時ごろから西北西の季節風が吹き始め、その後次第は増勢する状況であった。
西北西風が吹き始めて間もなく、B船長は、時々最大瞬間風速が毎秒20メートルに達するようになったので、錨地が錨掻(か)きの悪いうえ風上側が松島湾湾口に向いた地形であることを考慮し、航海士を守錨当直に加え、機関をいつでも使用できるよう準備して荒天に備えた。
翌4日00時C次席一等航海士は、前直者と交代して甲板手とともに守錨当直に就き、間もなく、西北西風が風速毎秒23メートルに及び風浪が高まるのを認めて、レーダーで周囲の船舶との接近状況に注意していたところ、02時それまで風上側1,600メートルに錨泊していた興徳丸が前方1,100メートルに接近したことから、同船が走錨していることを知り、B船長に報告した。
B船長は、直ちに昇橋し、興徳丸に対して汽笛による注意喚起信号の吹鳴とサーチライトの照射を行い、更にVHF電話による呼出しや同船を替わそうとして錨鎖の延出を試みたが効なく、02時05分前示錨泊地点において、興徳丸の左舷側後部が、290度を向いた霧島丸の右舷船首に後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力9の西北西風が吹き、波高3メートルの風浪があり、潮候はほぼ高潮時であった。
また、興徳丸は、船尾船橋型の油送船で、A受審人ほか6人が乗り組み、灯油2,000キロリットルを積載し、船首3.90メートル船尾4.90メートルの喫水をもって、同月2日17時30分京浜港横浜区を発し、塩釜港塩釜区に向かった。
翌3日19時A受審人は翌朝の着岸時刻まで待機する予定で、塩釜港塩釜区の検疫錨地付近に至ったとき、風速毎秒10メートルの西北西風が吹き、同錨地近には5隻の船舶が錨泊しており、これら錨泊船のうち霧島丸から293度1,600メートル離れた風上側にあたる、花淵灯台から070度2.3海里の地点で、水深13メートルの底質が砂のところに左舷錨を投じ、8節備えていた錨鎖のうち4節を水中まで延出して単錨泊した。
錨泊後間もなく、A受審人は、西北西風が最大瞬間風速毎秒20メートルに達する状況となり、当時、強風波浪注意報が発表されて更に風勢が増大するおそれがあったが、在橋して様子を見守ったところ、状況が変わらなかったので、これ以上風勢が増大することはあるまいと思い、錨鎖を十分に延出して守錨当直を置くなどの荒天措置を十分にとることなく、翌4日00時降橋して自室に退き休息した。
その後、A受審人は、西北西風が風速毎秒23メートルに増勢する状況になったが、就寝していてこの状況に気付かず、興徳丸は、走錨を始め、霧島丸に向かって圧流され、船首が260度を向いて前示のとおり衝突した。
A受審人は、自室で就寝中、衝突の衝撃で目覚め、昇橋して事後の措置にあたった。
衝突の結果、霧島丸は、右舷船首部ブルワークに亀(き)裂を伴う凹損及び球状船首に擦過傷を生じ、興徳丸は、左舷端艇甲板に列損及び救命筏架台に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、塩釜港塩釜区において、発表された状況の下で、興徳丸が、錨泊中の荒天措置が不十分で、走錨して風下で錨泊中の霧島丸に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、夜間、塩釜港塩釜区において、錨泊後間もなく、西北西風が最大瞬間風速毎秒20メートル達する状況となった場合、当時、強風波浪注意報が発表されて更に風勢が増大するおそれがあったから、錨鎖を十分に延出して守錨当直を置くなどの荒天措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし、同人は、これ以上風勢が増大することはあるまいと思い、錨鎖を十分に延出して守錨当直を置くなどの荒天措置を十分にとらなかった職務上の過失により、走錨して風下で錨泊中の霧島丸との衝突を招き、同船の右舷船首部ブルワークに亀裂を伴う凹損及び球状船首に擦過傷並びに興徳丸の左舷機甲板に裂損及び救命筏架台に曲損を生じさせるに至った。
以上の受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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