|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年10月13日16時10分 青森県尻屋埼沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第六十八善栄丸
漁船敬寳丸 総トン数 19トン 3.4トン 登録長 17.67メートル 11.05メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 190 70 3 事実の経過 第六十八善栄丸(以下善栄丸という。)は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、青森県八戸港を基地とした同港沖合での操業を終え、北海道岩内沖合での操業の目的で船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成7年10月13日11時00分八戸港を発し、北海道岩内漁港に向かった。 A受審人は、発航から単独でレーダーによる見張りを行いながら船橋当直にあたり、時折床に腰を下ろすなどして脚の疲れをほぐして当直を続けた。15時40分尻屋埼灯台から174度(真方位、以下同じ。)6.7海里の地点で、針路を005度に定め、機関を全速力前進にかけて10.3ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で自動操舵により進行した。 16時08分半少し過ぎ、A受審人は、尻屋埼灯台から150度2.1海里の地点で、正船首500メートルのところに波間に浮き沈みしながら船首を右方に向いた状態の敬寳丸を視認し、さらに船首部に人が立っているのを認めたが、同船が船首を右方に向いた状態であることから、自船の前路を右方に変わるものと思い、注視してその動静監視を行わなかった。その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船が停留して漁労に従事していることを示す形象物を表示しないで揚網中であることに気付かず、同船を避けないまま続航中、正船首至近に迫った同船を認め、左舵一杯としたが及ばず、16時10分尻屋埼灯台から145度1.9海里の地点において、ほぼ原針路、原速力のままの善栄丸が、敬寳丸の右舷中央部外板に前方から60度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、波高約1.5メートルの北東寄りのうねりがあり、視界は良好であった。 また、敬寳丸は、底建網漁業に従事するFRP製漁船で、操業の目的で、B受審人ほか1人が乗り組み、船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同日13時00分青森県尻屋漁港を発し、前示衝突地点付近の漁場に向かった。 B受審人は、出航に先立ち、漁労に従事していることを示す形象物を備えず、有効な音響信号を行うことができる手段も講じていなかった。 ところで、底建網漁は、運動場、根だまり・中だまり及びたまりと称する3つのブロツクからなる網で構成された簡易の定置網を、その底部に錨を、頂部に浮子及び竹竿を取り付けて、水深40ないし50メートルの比較的陸岸に近いところに定置し、日に一度たまりと称する袋網部分(以下「袋網」という。)を引き揚げて漁獲するものであった。したがって、袋網を引き揚げている際には、船上に中だまりの一部も揚網されており、機関を使用するなどして船体を移動させることができない状態であった。 13時15分B受審人は、前示漁場に至り、定置していた7ヶ統の底建網を、1ヶ統に付き約30分を要しながら順次引き揚げ始めた。 16時08分半少し過ぎB受審人は、折から北東方からのうねりの影響を受けながら125度を向首して袋網を引き揚げていたとき、右舷船首60度500メートルのところに善栄丸を初めて認め、その後同船が自船に向かって接近する状況であったが、音響信号装置を備えていなかったので、避航を促す音響信号を行うこともできないまま、自船が漁労に従事中であるから、善栄丸が避けるものと思っているうちに、同時10分少し前同船が至近に迫ったのを見て危険を感じ、船首部にいた甲板員がフック付き棒の先端に合羽を引っかけて振り回しながら、2人で大声で叫んだが効なく、2人が海中に飛び込んだ直後に前示のとおり衝突した。 衝突の結果、善栄丸はほとんど損傷を生じなかったが、敬寳丸は右舷中央部外板に破口を伴う亀裂を生じた。
(原因) 本件衝突は、下北半島東方沖合において、航行中の善栄丸が、動静監視不十分で、停留して漁労に従事していることを示す形象物を表示しないまま揚網中の敬寳丸を避けなかったことによって発生したが、敬寳丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、接近する善栄丸に対して避航を促す音響信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、八戸港から次の漁場の北海道岩内沖に向かって下北半島東方沖合を北上中、正船首近距離に波間に浮き沈みしながら船首を右方に向いて船首部に人が立っている敬寳丸を認めた場合、同船が停留して漁労に従事中か航行中かを判断できるよう、注視してその動静監視を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同船の船首が右方を向いた状態であることから、自船の前路を右方に替わるものと思い、注視してその動静監視を行わなかった職務上の過失により、同船が停留して揚網中であることに気付かず、これを避けないまま進行して衝突を招き、同船の右舷中央部外板に破口を伴う亀裂を生じさせるに至った。 B受審人は、下北半島東方沖合漁場で底建網漁業に従事する場合、衝突のおそれがある態勢で接近する航行船に避航の気配が認められないとき、速やかに音響による避航を促す信号を行うことができる手段を講じるべき注意義務があった。しかし、同人は、有効な音響信号を行うことができる手段を講じなかった職務上の過失により衝突を招き、敬寳丸に前示の損傷を生じさせるに至った。
参考図
|