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1998年(平成10年)

平成10年長審第7号
    件名
漁船啓将丸導流堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:啓将丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
左舷側中央部外板に大破口、推進器が岩礁に接触して損傷

    原因
気象・海象(潮流)配慮不十分

    主文
本件導流堤衝突は、潮流に対する配慮が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月27日23時30分
長崎県平戸瀬戸広瀬導流堤
2 船舶の要目
船種船名 漁船啓将丸
総トン数 19トン
登録長 19.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190
3 事実の経過
啓将丸は、中型施網漁業船団付属のFRP製運搬船で、A受審人ほか2人が乗り組み、平成9年2月27日11時00分長崎県神崎漁港を発し、平戸島南端西方の漁場において、網船からあじ約1.5トンを積み込み、水揚げの目的で、船首1.45メートル船尾1.70メートルの喫水をもって、20時30分尾上島灯台から296度(真方位、以下同じ。)6海里の地点を発進して同県松浦港に向かった。
A受審人は、一人で手動操舵に当たり、レーダーや肉眼による見張りを行い、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対水速力で平戸島を左舷側に見ながら進行し、23時23分平戸大橋下に達したころ、右舷側約100メートルのところに小型の油送船(以下「タンカー」という。)が並航するようになるとともに、GPSプロッターによって強い北流があることを知り、23時27分広瀬灯台から193度1,380メートルの地点に達したとき、針路を002度に定め、折からの潮流に乗じて14.0ノットの対地速力でタンカーと並航しながら平戸瀬戸を北上した。
ところで、平戸瀬戸は、平戸大橋付近から広瀬にかけて、水路が狭まってS字型に湾曲し、広瀬及び広瀬から南西方に延びる約100メートルの導流堤により、広瀬、牛ヶ首間の東水道と、広瀬、獅子駒埼間の西水道とに隔てられ、強潮流時の航行には注意を要するところであった。
A受審人は、東水道を通航するつもりでタンカーと並航しながら進行するうち、23時29分広瀬灯台から215度510メートルの転針予定地点に達したとき、折からの北流を考慮して速やかに右転しなければならない状況となったが、自船と同じくタンカーも東水道に向けて転針するだろうから、同船が東水道に向けたのちに自船も転針すればよいものと思い、一時減速して早期にタンカーを先航させるなどの潮流に対する配慮を十分に行うことなく、原針路、原速力のまま続航した。
23時29分半少し前A受審人は、広瀬灯台から235度370メートルの地点に達したとき、タンカーが東水道ではなく西水道に向けて進行することに気付き、東水道に向けて転針する時機を既に失していたものの、東水道を通航するため、遅ればせながら一時減速してタンカーを先航させ、広瀬導流堤先端を左舷側に50メートルばかり隔てて航過するつもりで、針路を075度に転じた。
23時30分わずか前A受審人は、潮流に圧流されて広瀬導流堤に著しく接近するに及んで右舵一杯をとり、23時30分30度ばかり右転して船首が105度を向いたとき、広瀬灯台から227度155メートルの地点において、啓将丸の左舷側中央部が同導流堤下の岩礁に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は北流のほぼ最盛期で付近には約3ノットの潮流があった。
衝突の結果、左舷側中央部外板に大破口を生じ、また、衝突後、右舵一杯として機関を全速力前進にかけて広瀬導流堤から離れる際、推進器が岩礁に接触して損傷したが、付近の長崎県田平港に自力緊急入航し、のち修理された。

(原因)
本件導流堤衝突は、夜間、強い北流がある平戸瀬戸北部海域を北上中、東水道に向けて転針する際、潮流に対する配慮が不十分で、転針時機が遅れ、広瀬導流堤に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、強い北流がある平戸瀬戸北部海域において、右舷側に並航するタンカーとともに北上中、東水道への転針予定地点に達する状況となった場合、広瀬導流堤に向かって圧流されるおそれがあったから、同堤に著しく接近しないよう、一時減速して早期にタンカーを先航させるなどの潮流に対する配慮を十分に行うべき注意義務あった。しかし、同人は、右舷側を北上するタンカーが東水道に向けたのちに転針すればよいものと思い、潮流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、転針時機が遅れて広瀬導流堤に著しく接近し、圧流されて同堤との衝突を招き、船体に大破口などの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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