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1998年(平成10年)

平成9年広審第55号
    件名
貨物船第五福神丸漁船きみ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷獎一、上野延之、横須賀勇一
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第五福神丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:きみ丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
福神丸…球状船首に擦過傷
きみ丸…船尾部に亀裂を伴う凹損、のち廃船、船長が肋骨骨折等

    原因
福神丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
きみ丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五福神丸が、見張り不十分で、前路に漂泊して1本釣りに従事するきみ丸を避けなかったことによって発生したが、きみ丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月20日11時28分
瀬戸内海大畠瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五福神丸 漁船きみ丸
総トン数 197トン 0.5トン
登録長 52.26メートル 6.38メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット
漁船法馬力数 18
3 事実の経過
第五福神丸(以下「福神丸」という。)は、主にチップ輸送に従事する球状船首を備えた船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト約90トンを載せ、船首0.6メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成8年6月19日18時15分島根県江津港を発し、山口県岩国港に向かった。
同船の船橋当直は、二等航海士が毎0時から4時まで、一等航海士が毎4時から8時まで、A受審人が毎8時から0時までの時間帯をそれぞれ単独で行うことになっていた。
A受審人は、翌20日08時00分山口県祝島の西方海域に差し掛かったころ船橋当直の引き継ぎを受け、その後、平郡水道を北東方へ航行して同県の下荷内島の西方を航過後、笠佐島と屋代島の中央付近に向けて北上し、大畠瀬戸を東航することにした。
ところで大畠瀬戸は、山口県玖珂郡大畠町とその南側にある屋代島との間の、幅約750メートル、東西方向に約1海里に渡って延びる水路で、その中間付近のところには、大島大橋が大畠町瀬戸山鼻と屋代島明神鼻との間に架けられていた。
大島大橋の中央には、水路の中央を示す大島大橋橋梁灯(C1灯)(以下「C1灯」という。)が設けられ、これを挟んでその北側約120メートルのところには大島大橋第3橋脚(以下、橋脚名中「大島大橋」を省略する。)が、その南側約120メートルのところには第4橋脚がそれぞれ構築されており、大畠瀬戸を航行する総トン数5トン以上の船舶は、西航の場合、同瀬戸の水路にほぼ合って設定された大畠瀬戸における経路の指定に関する告示で定めるC1灯を通る分離線の北側を航行して第3橋脚とC1灯の間の水域に向け、東航の場合は、同瀬戸西端付近の大磯灯台周辺に拡延する戒善寺礁北側を通航したのち、同分離線の南側を航行して第4橋脚とC1灯の間の水域に向け、それぞれ指定経路に従って航行するように定められていた。
一方、大畠瀬戸は、潮流の速い水路で、戒善寺礁の周辺は良好な漁場であることから、多数の漁船が密集し、周辺海域を移動しながら釣りを行う水域であった。
こうしてA受審人は、大畠瀬戸に向けて北上し、大磯灯台の西側水域に差し掛かったころ戒善寺礁周辺に多数の漁船が点在しているのを認め、これらを適宜回避しながら進行し、11時24分少し過ぎ大磯灯台から329度(真方位、以下同じ。)460メートルの地点に達したとき、わずかに前示分離線の北側に偏していたことから針路を085度に定め、大島大橋中央のC1灯を船首目標に操舵を手動とし、機関を全速力前進よりわずかに減じた8.0ノットにかけ、折からの0.4ノットばかりの順流に乗じて約8.4ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、このころから降雨がやや激しくなり、視程が約500メートルになったのを認め、前方の窓に装備したワイパーを作動させ、レーダーを監視しながら操舵操船にあたった。
A受審人は、11時26分少し過ぎ大磯灯台から022度440メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首450メートルのところに船尾に三角帆を揚げているきみ丸を視認し得る状況となり、その後衝突のおそれのある態勢となって接近したが、平素、同瀬戸を航行中、戒善寺礁周辺の漁船群を替わした後は、漁船を見かけたことはほとんどなかったことから、大島大橋の橋下付近に漁船が存在することはないと思い、見張りを十分に行うことなく続航し、この態勢に気付かなかった。
11時27分少し前A受審人は、きみ丸とほぼ同方位のまま300メートルに接近したとき、同船が北東方を向首して漂泊していることを認め得る状況となったが、このころレーダーを監視して操船にあたっていたものの、橋の虚像で同船を探知し得ず、依然、前方の見張り不十分で、このことに気付かずに同船を避けることなく進行し、同時28分少し前、ふと前方を見たとき、船首わずか右舷100メートルに迫った同船を初めて認めて驚き、あわてて右舵一杯をとったが及ばず、11時28分大磯灯台から054度810メートルの地点において船首が105度を向いたとき、原速力のまま、福神丸の球状船首が、きみ丸の船尾部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力1の北東風が吹き、潮候は高潮時で衝突地点付近には約0.4ノットの東流があり、視程は約500メートルであった。
A受審人は、転舵後間もなくして左舷船首方にきみ丸の船体を認め、同船が北東方に移動するのを見て衝突は避けられたものと思い、そのまま目的地に向け航行を続け、岩国港沖に停泊中、海上保安官から衝突した事実を知らされた。
また、きみ丸は、専らB受審人が1本釣りの遊漁用に使用する昭和61年5月に建造された登録長6.38メートルのFRP製漁船で、同人が1人で乗り組み、船首尾とも0.1メートルの喫水をもって、同日09時30分山口県大島郡大島町東三蒲の係留地を発し、1本釣りの目的で、大畠瀬戸西方の漁場に向かった。
B受審人は、適宜、漁場を移動した後、10時43分大磯灯台から303度450メートルの地点に達したころ、船尾に三角帆を揚げ、機関を中立運転とし、折からの東方に流れる潮流に圧流されながら、時々機関を使用しては船首を風に立て、釣り糸の張り具合を調整し、平均0.8ノットの対地速力をもって078度の方向に向け漂泊を開始した。
ところで大畠瀬戸の大島大橋付近は、第3橋脚と第4橋脚とに挟まれた水路幅の狭い水路で、同瀬戸は、広島湾方向に出入りする船舶の通航路となっており、多数の船舶がここに集中して航行する海域であった。
B受審人は、後部甲板の右舷側で前方を向いた姿勢となって右舷側に釣り糸を流しながら降雨がやや激しい中、視程が約500メートルとなった状況で1本釣りを行っていた。
B受審人は、11時26分少し過ぎ大磯灯台から054度800メートルの大島大橋の西方約100メートルの地点に達し、船首が045度に向いているとき左舷船尾50度450メートルのところに自船に向けて東進中の福神丸を視認し得る状況となり、その後衝突のおそれのある態勢となって接近したが、1本釣りに専念し、見張りを十分に行うことなく、この態勢に気付かなかった。
11時27分少し前、B受審人は、福神丸がほぼ同方位のまま300メートルに接近したが、依然、後方の見張りが不十分で、このことに気付かず、機関を使用するなどして同船を避けるための措置をとることなく漂泊中、同時28分少し前、後方に他船の機関音を聞いて振り返ったとき、至近に迫った福神丸を初めて認めたものの、どう対処することもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福神丸は、球状船首に擦過傷を生じ、きみ丸は、船尾部に亀(き)裂を伴う凹損を生じ、のち廃船とされた。またB受審人は、衝突の衝撃で、肋骨骨折等の傷を負った。

(原因)
本件衝突は、降雨のため視程がやや狭められた大畠瀬戸において、同瀬戸を東航中の福神丸が、見張り不十分で、前路に漂泊して1本釣りに従事するきみ丸を避けなかったことによって発生したが、きみ丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、降雨のため視程がやや狭められた大畠瀬戸を東航する場合、前路で漂泊して1本釣りを行っているきみ丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、平素、戒善寺礁周辺の漁船群を替わした後は、漁船を見かけたことがほとんどなかったことから、大島大橋の橋下付近に漁船は存在することはないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、きみ丸を避けることなく進行して衝突を招き、福神丸の球状船首に擦過傷並びにきみ丸の船尾部に亀裂を伴う凹損を生じせしめ、きみ丸乗組員に肋骨骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、降雨のため視程がやや狭められた大畠瀬戸の大島大橋付近で漂泊して1本釣りを行う場合、同水路は多数の船舶が集中して航行する海域であったから、自船に向け衝突のおそれのある態勢で接近する福神丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、1本釣りに専念し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も肋骨骨折を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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