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1998年(平成10年)

平成9年広審第26号
    件名
貨物船第三万栄丸漁船第一庚丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、釜谷奬一、織戸孝治
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第三万栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第三万栄丸機関長 海技免状:六級海技士(航海)
C 職名:第一庚丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士 
    指定海難関係人

    損害
万栄丸…船橋右舷側ハンドレールの折損及びブルワークに凹傷
庚丸…船首の漁労設備等を損傷

    原因
万栄丸…動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
庚丸…動静監視不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三万栄丸が、動静監視不十分で、漁労に従事する第一庚丸を避けなかったことによって発生したが、第一庚丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月17日02時32分
瀬戸内海 備讃瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三万栄丸 漁船第一庚丸
総トン数 199.90トン 19トン
登録長 39.34メートル 19.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
第三万栄丸(以下「万栄丸」という。)は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、A、B両受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.6メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成8年8月16日13時40分三田尻中関港を発し、日没後は法定の灯火を表示して東播磨港に向かった。
A受審人は、伯方瀬戸から備讃瀬戸南、東名航路を通航し、男木島北方から同東航路を出て豊島と小豊島の間を通り、小豆島北方経由で目的港へ向かうこととし、航海当直についてはB受審人と単独3時間交代制をとって順次交代しながら東行し、翌17日00時30分高見島南方の備讃瀬戸南航路内でB受審人に当直を引き継いだが、その際、同人が機関長ではあったものの、航海士免状を受有し、瀬戸内海の単独当直にも慣れていたので、漁船が多くなったら報告するよう指示し、降橋して休息した。
02時24分B受審人は、男木島北方の備讃瀬戸東航路中央第4号灯浮標(以下「第4号灯浮標」という。)に並航し、航路を出る予定地点に達したが、西行航路内に反航船を認めてそのまま航路に沿って右転し、同時27分少し過ぎ男木島灯台から037度(真方位、以下同じ。)1,200メートルの地点に達したとき、針路を豊島と小豊島の間に向く044度に定め、機関を9.5ノットの全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて11.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
B受審人は、第4号灯浮標に並航したころから豊島の礼田埼南方にほとんど動きのない2隻の漁船の灯火を認めていたが、定針したころ1隻を左舷船首4度1,700メートルに、他の1隻である第一庚丸(以下「庚丸」という。)を右舷船首5度同距離に見るようになり、同船については航海灯のほか、操舵室上部に紅色回転灯と白灯を上下に連掲し、漁労に従事する船舶が掲げる灯火とは一部異なっていたものの、多数の作業灯を点灯していたこともあって、漁労に従事していると認めることができ、左舷船首方の漁船については漁労中かどうかを確認できないまま、両船の間を通行するつもりで続航した。
B受審人は、まもなく左舷船首方の漁船が南下するように見えたことから、同船を避けようと02時30分少し過ぎ男木島灯台から040度2,300メートルの地点で14度右転し、058度の針路としたところ、庚丸が正船首600メートルとなり、同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、左舷船首方の漁船に気を取られ、庚丸に対する動静監視を十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、漁労に従事する同船を避けないまま続航中、同時32分少し前ふと前方を見たところ、正船首わずか前に庚丸の灯火を認め、左舵一杯、全速力行進としたが及ばず、万栄丸は、02時32分男木島灯台から044度2,900メートルの地点において、ほぼ原針路、原速力のまま、その右舷側後部が、庚丸の船首に前方から32度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、衝突地点付近には2ノットの東流があった。
A受審人は、衝撃で衝突に気付き、昇橋して事後の措置に当たった。
また、庚丸は2隻式魚込網漁船の親船として従事するFRP製漁船で、C受審人ほか2人が乗り組み、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、子船とともに同月16日10時00分香川県庵冶漁港を発し、男木島北東方の漁場に向かった。
ところで、魚込綱漁業は、袋網の両脇に袖網を取り付けた漁網を、袋網の網口が潮流に向くよう、流れに対し袖網を直角に広げてその両端を錨で固定し、魚が入るのを待つ袋待網漁業の一種で、潮がたるみのころ投網し、次のたるみで揚網して魚を取り入れ、再び投網するという順序で1日3回ほど操業するものであった。また、敷設した網の両端は、上部に白色点滅灯を付けた発泡スチロール製の標識をロープで錨に繋ぎ、水面に浮かせて表示し、2隻式の場合、投網から揚網までの間、1隻は、網口を広げる目的で、その上部に繋いだロープに係留し、他の1隻は標識の1つに係留してそれぞれ待機するが、両船の間隔が広く、前示漁場ように水深が40メートル以上の場合、小型船であれば、両船の間を通行することも十分可能であった。
C受審人は、漁場到着後ただちに操業にかかり、日没後は子船とともに航海灯の他、船橋上部に紅色回転灯及びその下方に白色全周灯を連掲し、作業灯10灯ばかりを点灯して操業を繰り返し、翌17日00時ごろ3回目の操業にかかることとし、折からの東流に対応するため、男木島灯台から039度2,900メートルの地点に北側の、同灯台から044度2,600メートルの地点に南側の各錨をそれぞれ投入し、袋網の位置を両錨を結ぶ線より約200メートル東方に、また、袋網と両標識との間隔をそれぞれ250メートルとなるよう網口を西方に向けで漁網を敷設し、子船は北側の標識に係留索をとり、自船は網口からのロープを船首にとり、潮流の影響でほぼ270度を向首し、前示衝突地点付近で待機した。
C受審人は、休息しながら時々周囲の見張りを行い、02時29分左舷船首38度1,000メートルに自船と子船の間を抜ける態勢の万栄丸の灯火を認めたものの、一瞥(べつ)しただけで何とか通航していくものと思い、動静監視を十分に行っていなかったので、同時30分少し過ぎ同船が針路を058度に転じて自船に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったことに気付かず、警告信号を行うことも、係留ロープを解いて移動するなど、万栄丸との衝突を避けるための措置をとることもなく、同時32分少し前至近に機関音を聞き、その方角に万栄丸の黒い船体を見て驚き、あわててサーチライトのスイッチを探すうち、庚丸は、270度を向首したまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、万栄丸は、船橋右舷側ハンドレールの折損及びブルワークに凹傷を生じ、庚丸は、船首の漁労設備等を損傷したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、備讃瀬戸東航路北方において、万栄丸が、動静監視不十分で、漁労に従事する庚丸を避けなかったことによって発生したが、庚丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、備讃瀬戸東航路を出て豊島と小豊島との水路に向け航行中、船首方に漁労に従事する庚丸の灯火を認めた場合、衝突の有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、付近にいた庚丸の僚船が移動しているように見えたことからその動静に気を取られ、庚丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船のブルワーク及び庚丸の船首漁具にそれぞれ損傷を生じせしめるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路北方において漁労に従事中、自船と僚船との間を通航する態勢の万栄丸の灯火を認めた場合、同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一瞥しただけで何とか通航していくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとることもなく、万栄丸との衝突を招き、自船及び万栄丸に前示の損傷を生じせしめるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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