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1998年(平成10年)

平成9年神審第42号
    件名
貨物船第八丸岡丸漁船第三龍神丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、山本哲也、清重隆彦
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第八丸岡丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第三龍神丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
丸岡丸…船首部外板のペイント剥離
龍神丸…左舷船尾部のブルワーク破損

    原因
丸岡丸…見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
龍神丸…各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八丸岡丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している第三龍神丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三龍神丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月12日13時45分
神戸港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八丸岡丸 漁船第三龍神丸
総トン数 187トン 4.8トン
全長 41.73メートル
登録長 11.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第八丸岡丸(以下「丸岡丸」という。)は、船尾船橋型鋼製液体化学薬品ばら積船で、専ら瀬戸内海各港間の濃硫酸輸送に従事していたところ、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.7メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成7年11月12日13時00分大阪港を発し、兵庫県東播磨港に向かった。
A受審人は、発航時から単独で操舵操船に当たって大阪港内航航路を出航し、13時23分大阪灯台から140度(真方位、以下同じ。)760メートルの地点で、針路を264度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.7ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
13時41分A受審人は、神戸港第7防波堤東灯台(以下「第7防波堤東灯台」という。)から160度2.8海里の地点に差しかかったころ、便意を催し、神戸港域内で船舶が輻輳(ふくそう)する海域であったが、当日が日曜日で航行船も少なく、しばらくは船橋を離れても大丈夫と思い、交替の当直者を呼ぶなど適切な見張りが確保できる手段をとることなく、船橋を無人として階下の便所に降りた。
こうして丸岡丸は、同じ針路、速力で六甲アイランド沖合の神戸港域内を続航中、13時42分右舷船首17度1,080メートルのところに漁ろうに従事している第三龍神丸(以下「龍神丸」という。)が存在し、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、船橋が無人であったので、その進路を避けることができないでいるうち、13時45分第7防波堤東灯台から177度2.7海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が龍神丸の左舷船尾に後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、用便を済ませて船橋へ戻る途中、衝撃を感じて衝突を知り、事後の措置に当たった。
また、龍神丸は、小型底引き網漁業に従事する、全長が12メートルを超えるが、法定の汽笛設備を備えないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、エビケタ網漁業に従事する目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日12時30分神戸港青木船だまりを発し、六甲アイランド南方沖合の漁場に向かい、13時00分漁場に到着し、トロールにより漁ろうに従事する船舶が表示する形象物を掲げて曳網(えいもう)を開始した。
ところで、龍神丸の漁法は、縦0.5メートル、横4メートルの長方形の鉄製パイプ枠に長さ9メートルの網を取り付けたケタ網を、直径15ミリメートルの曳網用ワイヤロープに連結して船尾から投入し、同ワイヤロープを約83メートル繰り出したのち、3から4ノットの速力で曳網するものであった。このことから、曳網中、機関を中立とすれば、直ちに行き脚を止めることが可能であった。
13時40分B受審人は、第7防波堤東灯台から177度2.4海里の地点で針路を181度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、3.4ノットの曳網速力で第3回目の操業を開始したとき、左舷船首80度1,800メートルのところに自船の前路に向首接近する丸岡丸を初めて視認し、操舵室後部甲板で魚の選別作業を行いながら、同船に対する動静監視を続けた。
B受審人は、間もなく同作業を終えて操舵室に戻り、丸岡丸の動静を見守るうち、13時42分同船と1,080メートルとなり、その後方位に変化なく衝突のおそれがある態勢で接近したものの、警告信号を吹鳴することができず、さらに接近して丸岡丸の動作だけでは衝突を避けることができなくなったが、自船は漁ろうに従事中であるから相手船が避けるものと思い、機関を中立にして行き脚を停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとらず、同じ針路、速力で続航した。
13時45分少し前B受審人は、衝突の危険を感じて右舵一杯としたが及ばず、龍神丸は、右回頭を始めて244度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、丸岡丸は船首部外板にペイント剥離(はくり)を生じたのみであったが、龍神丸は左舷船尾部のブルワークを破損し、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、神戸港六甲アイランド南方において、丸岡丸が、船橋を無人として見張り不十分となり、トロールにより漁ろうに従事している龍神丸の進路を避けなかったことによって発生したが、龍神丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、神戸港において六甲アイランド南方を西行中、便意を催して船橋を離れようとする場合、船舶が輻輳する海域であったから、交替の当直者を呼ぶなど適切な見張りを確保できる手段をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、当日が日曜日で航行船も少なく、しばらくは船橋を離れても大丈夫と思い、適切な見張りが確保できる手段をとらなかった職務上の過失により、トロールにより漁ろうに従事中の龍神丸の進路を避けないまま進行して衝突を招き、丸岡丸の船首部外板にペイント剥離を生じ、龍神丸の左舷船尾部のブルワークを破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、神戸港六甲アイランド南方で、トロールにより漁ろうに従事する船舶が表示する形象物を掲げて曳網中、衝突のおそれがある態勢で接近する丸岡丸を認め、その後避航の気配が認められず、同船の動作だけでは衝突を避けることができなくなったことを知った場合、機関を中立にして行き脚を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、自船は漁ろうに従事中であるから相手船が避けるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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