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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年7月23日18時00分 青森県むつ小川原港南東沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第五十二昭徳丸
漁船第十八昇龍丸 総トン数 19.93トン 18トン 登録長 16.90メートル 17.99メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
253キロワット 360キロワット 3 事実の経過 第五十二昭徳丸(以下「昭徳丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、平成8年6月下旬から約1箇月間にわたる青森県八戸港を基地とした同県東岸沖合での操業を終え、回航する目的で、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、翌7月23日16時00分八戸港を発し、函館港に向かった。 16時20分A受審人は、八戸港外に至り、八戸港外港中央防波堤北灯台から270度(真方位、以下同じ。)300メートルの地点で、当時、まだ同港から下北半島にかけての沖合ではいか釣り船が操業中であったので、レーダーにより同漁船の存在状況を確認し、これら操業中の漁船がいない水域に向け、針路を同沖合を北上する008度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で自動操舵により進行した。 定針後、A受審人は、窓及び入口扉などを閉めたままの操舵室内で時折レーダーで見張りながら当直にあたり、17時10分陸奥塩釜灯台から132度9.5海里の地点に達したころ、24マイルレンジにしたレーダーで前方を見張ったが、正船首8.3海里のところに漂泊中の第十八昇龍丸(以下「昇龍丸」という。)を探知できず、前方に他船の映像を認めなかったので、その後はレーダーによる見張りを行わないまま同一針路で続航した。 17時30分A受審人は、前方を一見しただけでレーダーによる見張りも行わなかったので、ほぼ正船首5海里に接近した昇龍丸の存在に気付かないまま、しばらくの間他船に出会うことはないものと思って、その後、回航後の操業についていろいろと思案しながら進行中、やがて北海道恵山岬から苫小牧にかけての範囲で操業することを計画し、操舵室後部の床上に北海道南東沿岸沖合の海底地形図を広げて、操業地点の選定を始めた。 17時58分半少し前A受審人は、正船首500メートルのところに引き続き漂泊中の昇龍丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、回航後の操業の検討などに気を取られてその存在に気付かず、同船を避けないまま進行中、18時00分陸奥塩釜灯台から077度8.4海里の地点において、原針路、原速力のままの昭徳丸の船首が、昇龍丸の右舷側中央部にほぼ直角に衝突した。 当時、天候は曇で風力2の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で視界は良好であった。 また、昇龍丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、八戸港北東方沖合の漁場で連日操業を行い、操業の目的で、船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同日15時00分八戸港を発し、むつ小川原港南東方約10海里沖合の漁場に向かった。 17時ごろB受審人は、前示衝突地点付近に至り、機関を停止回転にしたうえで、船首部からパラシュート型シーアンカーを投入し、同アンカーロープ約60メートルを延出して船首のたつにとり漂泊した。 B受審人は、操業の準備に取り掛かり15台の自動いか釣り機を稼働させたが、日没までにはかなりの時間があったので、集魚灯のうち6個だけを点灯して操業を開始した。 こうして、B受審人は、日没後の本格的な操業に備えて全員で上甲板後部に位置する炊事室で夕食をとりながら過ごした。 17時58分半少し前B受審人は、折からの東南東風を受けて船首が098度を向いて漂泊していたころ、右舷正横500メートルのところに昭徳丸を認めることができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、自船が漂泊していることから、航行船の方で避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かず、昭徳丸に対して避航を促す警告信号を行うことも、更に接近したとき機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けていた。 こうして、18時00分少し前B受審人は、夕食を終えて先に甲板に出た甲板員の叫び声で右舷側甲板に飛び出したところ、右舷正横100メートルのところに迫った昭徳丸を初認して衝突の危険を感じ、急いで昇橋して電気ホーンを吹鳴したが及ばず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、昭徳丸は、船首部のシーアンカー用ガイドパイプに曲損を生じ、昇龍丸は、右舷中央部外板に破口及び操舵室に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、むつ小川原港南東方沖合において、航行中の昭徳丸が、見張り不十分で、漂泊中の昇龍丸を避けなかったことによって発生したが、昇龍丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、青森県東岸沖合での操業を終えて八戸港から函館港へ回航する場合、まだ多数のいか釣り船が操業する同沖合を航行するのであるから、漂泊して操業中の昇龍丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。 しかし、同人は、レーダーで操業中のいか釣り船がいない水域に向けたので、しばらくの間他船に出会うことはないものと思い、回航後の操業の検討などを行っているうちに、これに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の昇龍丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、昭徳丸の船首部シーアンカー用ガイドパイプに曲損を、昇龍丸の右舷中央部外板に破口及び操舵室に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、むつ小川原港南東方沖合で漂泊していか一本釣り漁を行う場合、付近海域は青森県東岸に沿って航行する船舶の多いところであるから、漂泊中の自船に向かって接近する昭徳丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、航行船の方で漂泊していか一本釣り漁を行っている自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する昭徳丸に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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