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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月15日10時15分 大阪湾 2 船舶の要目 船種船名 押船第三十六関西丸
バージ(大)B-3355 総トン数 198トン
1,216トン 全長 31.00メートル
60.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 1,471キロワット 船種船名
漁船住吉丸 総トン数 4.8トン 登録長 11.90メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 15 3 事実の経過 第三十六関西丸(以下「関西丸」という。)は、主機2基を装備した2軸の鋼製押船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉で船首0.70メートル船尾0.75メートルの喫水となった、無人の被押鋼製バージ(大)B-3355(以下「バージ3355」という。)の船尾中央の凹部に船首を押し付け、直径100ミリメートル長さ10メートルのナイロンロープを先端に連結した直径60ミリメートルのワイヤロープを、自船の船尾両舷から各1本出してバージ3355の船尾部両舷にあるビットにそれぞれ止めて張り合わせ、両船で全長約89メートルを成し、船首2.2メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成8年10月15日09時10分兵庫県津名港を発し、同県尼崎西宮芦屋港に向かった。 A受審人は、出港時の操船に引き続いて船橋当直に当たり、折から淡路島東岸沖合一帯に漁船が多数出漁していたので、これらを適宜避航しながら大阪湾を同島東岸沿いに北上し、09時55分浦港南防波堤灯台から129度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき、針路を035度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。 10時05分半A受審人は、同灯台から090度2.3海里の地点に至り、針路を操業中の漁船の一群と他の一群との間に向ける070度に転じたとき、右舷船首28度2海里のところに北上する住吉丸を初めて視認したが、その前路を無難に航過できるものと思い、付近にいた曳(えい)網中の漁船に気をとられ、動静監視を十分に行わなかったので、その後住吉丸が進路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、速やかにその進路を避けることなく東行した。 A受審人は、10時07分甲板上の整備作業を終えて昇橋してきた一等航海土を手動操舵に就かせ、自らは舵輪の右舷側に立って見張りをしていたところ、やがて同航海士から住吉丸を避航するよう促されたが、依然同船の前路を航過できるものと思い、同じ針路及び速力で続航中、同時15分少し前往吉丸が右舷船首至近に迫ったとき、危険を感じて両舷機のクラッチを中立にしたが効なく、10時15分浦港南防波堤灯台から083度3.6海里の地点において、関西丸被押バージ3355は、原針路、原速力のまま、関西丸の右舷側後部に住吉丸の船首が前方から67度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。 また、住吉丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人のみが乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日04時00分兵庫県岩屋漁港を発し、同漁港南東方5海里付近の漁場に向かった。 B受審人は、05時00分ごろ漁場に到着し、その後4回の操業により雑魚5キログラムを獲(え)て漁を切り上げ、09時55分浦港南防波堤灯台から102度5.2海里の漁場を発進するとともに針路を317度に定め、機関を半速力前進にかけて帰途に就き、6.3ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。 発進したときB受審人は、左舷船首49度3.5海里に関西丸被押バージ3355を初めて視認したが、まだ距離があるので注意するまでもないと思い、船尾右舷側甲板上において漁網に掛かったごみを取り除いたり、漁獲物の選別作業に取り掛かった。 10時05分半B受審人は、同灯台から094度4.3海里の地点に至り、ふと左舷前方を見たとき、東行する関西丸被押バージ3355を左舷船首39度2海里に認めたが、これが自船の前路を無難に航過するものと思い、同作業に気をとられ、動静監視を十分に行わなかったので、その後同船が進路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかった。 こうしてB受審人は、同じ針路及び速力で続航し、10時11分周囲を見渡したとき、左舷船首39度1、550メートルに関西丸被押バージ3355を視認したが、依然動静監視が不十分で、自船の前路を替わるものと思い、速やかに警告信号を行わず、更に接近するに及んで行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないでいるうち、同時15分わずか前漁獲物の選別作業を終えて前方を見たところ、船首至近に関西丸被押バージ3355を認め、危険を感じて機関を全速力後進にかけたが効なく、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、関西丸は右舷側後部外板に擦過傷を生じ、住吉丸は船首部を圧壊したが後に修理され、B受審人は衝突の衝撃で頚椎捻挫を負った。
(原因) 本件衝突は、大阪湾において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、関西丸被押バージ3355が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る住吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、住吉丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、大阪湾において、バージ3355を押して東行中、前路を左方に横切る態勢の住吉丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、住吉丸の前路を無難に航過できるものと思い、付近にいた曳網中の漁船に気をとられ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、住吉丸の進路を避けずに進行して衝突を招き、関西丸の右舷側後部外板に擦過傷を、住吉丸に船首部圧壊の損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に頚椎捻挫を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、大阪湾において、岩屋漁港に向けて北上中、前路を右方に横切る態勢の関西丸被押バージ3355を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、関西丸被押バージ3355が前路を無難に航過するものと思い、漁獲物の選別作業に気をとられ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、間近に接近したとき、行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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