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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月27日18時30分 京浜港川崎区 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートアイランドクルーズ?号 登録長
5.51メートル 機関の種類 電気点火機関 出力 108キロワット 3 事実の経過 アイランドクルーズ?号(以下「ア号」という。)は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、作業員2人を乗せ、帰港の目的で、船首0.20メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、平成8年9月27日17時50分京浜港東京区の有明を発し、係留地である同港横浜区新山下の横浜クルージングクラブハーバー(以下「マリーナ」という。)に向かった。 ところで、A受審人は、所属会社での仕事としてプレジャーボートの保護、管理、販売業務等のほか、ア号の運航にも従事しており、同号の運航を主に京浜港横浜区周辺で行い、時々有明まで航行していたが、それらを専ら昼間に行っていた。 しかしA受審人は、当日、顧客から解体するヨットの曳(えい)航を依頼され、横浜市金沢区から解体業者のある有明までの曳航業務に就くに当たり、帰りの航海において有明を出港後陸岸に沿って航行することとし、東京湾内で初めての夜間の航行となるうえ東京湾横断道路川崎浮島取付部の工事区域付近を航行することになったが、今までも有明からマリーナまで無事故で帰航していたので今回も大丈夫と思い、マリーナを出港する際、会社内にある東京湾横断道路建設工事に関する資料や海図に当たるなどして、航行水域である川崎浮島付近の水路状況を十分に調べることなく、同島付近が航泊禁止区域のうえ同工事の取付部となっており、同横断道路川崎浮島取付部斜路部北側に設置してある東京湾横断道路川崎浮島C灯標(以下、灯標の名称については「東京湾横断道路川崎浮島」を省略する。)と、その西方160メートルにあるD灯標の間には、ワイヤロープ式緩衝施設(以下「緩衝施設」という。)が取り付けられていて航行できないことに気付かなかった。 発航後、A受審人は、東京西航路を経由して南下し、羽田空港の東方沖合に至り、18時24分東京灯標から201度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点に達したとき、針路を215度に定め、機関を半速力前進にかけて14.3ノットの対地速力とし、操舵室の操縦席に腰掛けて手動操舵により進行した。 A受審人は、18時29分左舷船首5度440メートルにC灯標と、その西方にD灯標を視認できる状況になり、そのまま続航すれば両灯標間に設けられてある緩衝施設に衝突するおそれがあったが、周囲の灯火の明かりのために両灯標を見落としたまま、緩衝施設の存在する水域に向かって進行した。 18時30分少し前A受審人は、左舷船首20度110メートルにC灯標の黄色灯光を視認したが、事前の水路調査を行っていなかったことから、緩衝施設に気付かないまま、同一針路で進行中、突然船首部に衝撃を受け、18時30分C灯標から299度40メートルの地点において、ア号は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が緩衝施設に後方から84度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。 衝突の結果、ア号は、左舷船首部に擦過傷を生じ、緩衝施設に乗り揚がる状態となって垂直となり、船尾から沈没したが、翌28日引き揚げられ、海中に投げだされたA受審人と作業員2人は付近航行中の漁船に救助された。
(原因) 本件衝突は、夜間、京浜港川崎区において、東京湾横断道路川崎浮島取付部付近を航行するにあたり、水路調査が不十分で、川崎浮島沖合を航行せず、同川崎浮島取付部の緩衝施設を避けずに進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、京浜港川崎区において、陸岸に沿ってマリーナに向け南下し、東京湾横断道路川崎浮島取付部付近を航行する場合、初めての夜間の航行であったから、同川崎浮島取付部の緩衝施設に接近することのないよう、マリーナを出港する前に、東京湾横断道路建設工事にかかわる資料や海図にあたって同川崎浮島取付部付近の水路調査十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、今までも有明からマリーナまで無事故で帰航していたので今回も大丈夫と思い、関係資料や海図により水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同川崎浮島取付部に緩衝施設が設けられていることに気付かないまま進行して衝突を招き、ア号を沈没させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |