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1998年(平成10年)

平成9年横審第88号
    件名
貨物船第八朝日丸漁船宝富丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、河本和夫、半間俊士
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:第八朝日丸機関長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:宝富丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
朝日丸…左舷船首外板に擦過傷
宝富丸…舷側後部に亀裂を伴う凹損、衝突の衝撃で左舷側に転覆

    原因
宝富丸…見張り不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(主因)
朝日丸…警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、宝富丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第八朝日丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八朝日丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受番人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年2月5日12時27分
伊豆半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八朝日丸 漁船宝富丸
総トン数 198トン 3.83トン
全長 53.83メートル
登録長 50.46メートル 8.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット 154キロワット
3 事実の経過
第八朝日丸(以下「朝日丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長C、A受審人ほか1人が乗り組み、鋼材606トンを積載し、船首2.7メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成8年2月5日06時千葉県木更津港を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、12時00分稲取岬灯台から066度(真方位、以下同じ。)9.2海里の地点において、船長から引き継いで単独の船橋当直につき、針路を220度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、12時22分半稲取岬灯台から080度6.1海里の地点に達したとき、左舷船首47度1,000メートルに前路を右方に横切る宝富丸を初めて視認し、その後その方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近するも、同船に避航の気配が認められないことを知ったが、いずれ避航動作をとるものと思い、警告信号を行わずに続航した。
A受審人は、12時26分宝富丸を同方位220メートルに認めて手動操舵に切り替えたものの、間近に接近する状況となっても、依然同船が避航動作をとるものと思い、速やかに大角度の右転をするなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行し、同時27分わずか前至近に迫った同船を認めて危険を感じ、右舵7度をとり、機関を中立、続いて後進全速とした。
しかし、その効なく、12時27分稲取岬灯台から085度5.6海里の地点において、朝日丸は、原針路、原速力のまま、その船首が宝富丸の右舷側後部に後方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、視界は良好であった。
また、宝富丸は、底延(はえ)縄漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日04時静岡県稲取漁港を発し、同港東方沖合の漁場に至って操業を開始した。
B受審人は、きんめだい50キログラムを獲って操業を終え、12時10分稲取岬灯台から087度7.6海里の地点において、稲取漁港に向け発進し、針路を270度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.1ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
ところで、B受審人は、操舵室の窓が一段高い上部に設けられていたことから、床に直接立った状態では周囲を見渡すことができないため、日ごろ舵輪後方の踏台に立って周囲の見張りを行っていた。
B受審人は、12時22分半稲取岬灯台ら086度6.1海里の地点に達したとき、右舷船首83度1,000メートルに前路を左方に横切る朝日丸を視認し得る状況であったが、漁場発進時に周囲を一瞥(べつ)しただけで他船はいないものと思い、踏台に腰掛けて漁具の片付けにあたり、踏台に立って操舵室上部の窓から周囲を見渡すなどの見張りを行わず、同船の存在に気付かなかった。
こうして、B受審人は、その後朝日丸がその方位に変化なく衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然踏台に腰掛けて漁具の片付けを続け、このことに気付かず、同船を避けないまま、原針路、原速力で進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、朝日丸は、左舷船首外板に擦過傷を生じ、宝富丸は、右舷側後部に亀(き)裂を伴う凹損を生じ、衝突の衝撃で左舷側に転覆したが、僚船により稲取漁港に引き付けられ、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、伊豆半島東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、宝富丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る朝日丸の進路を避けなかったことによって発生したが、朝日丸が、避航の気配が認められないまま接近する宝富丸に対して警告信号を行わず、間近に接近した際、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、伊豆半島東方沖合を稲取漁港に向け西行する場合、前路を左方に横切る他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、漁場発進時周囲を一瞥しただけで他船はいないものと思い、その後漁具の片付けに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、朝日丸に気付かず、衝突のおそれのある態勢で接近する同船を避けることなく進行して衝突を招き、朝日丸の左舷船首に擦過傷を、宝富丸の右舷側後部に亀裂をそれぞれ生じさせ、宝富丸を転覆させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、伊豆半島東方沖合を南下中、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で間近に接近する宝富丸を認めた場合、速やかに大角度の右転をするなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、宝富丸が避航動作をとるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、宝富丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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