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1998年(平成10年)

平成10年函審第13号
    件名
漁船第拾三陽丸貨物船ザラタヤ・ズベズダ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕、大石義朗、大山繁樹
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第拾三陽丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第拾三陽丸一等航海士兼漁労長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
三陽丸…船首外板に破口を伴う凹損及び球状船首に凹損
ザラタヤ号…左舷側中央部外板に破口を生じて浸水、のち全損

    原因
三陽丸…動静監視不十分、船員の常務(新たな危険・衝突回避措置)不遵守(主因)
ザラタヤ号…警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
理事官熊谷孝徳

    主文
本件衝突は、第拾三陽丸が、動静監視不十分で、無難に航過する態勢のザラタヤ・ズベズダに対し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ザラタヤ・ズベズダが、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすのもである。
受番人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受番人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月14日10時33分
北海道稚内港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第拾三陽丸 貨物船ザラタヤ・ズベズダ
総トン数 124.92トン 480トン
全長 37.90メートル 44.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 753キロワット 990キロワット
3 事実の経過
第拾三陽丸(以下「三陽丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A及びB両受審人ほか12人が乗り組み、いかなご漁をする目的で、船首1.6メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成9年8月14日03時30分稚内港を発し、宗谷岬東方沖合の漁場に至って操業を行い、いかなご約70トンを漁獲したところで操業を終え、07時50分宗谷岬灯台から087度(真方位、以下同じ。)15.6海里の地点を発進し、帰航の途に就いた。
10時10分A受審人は、揚網後破損した網の修理を終えたあと、稚内港まで4海里ばかり手前の地点で昇橋し、漁場に到着してから引き続いて船橋当直に当たっていたB受審人と交代し操船の指揮を執った。そして、同人を船長補佐に当たらせ、自らは操舵室中央の舵輪後方に位置し、稚内港北副防波堤東灯台(以下、航路標識名には「稚内港」を省略する。)に向首する220度となっていた針路を、左舷方からの風波による圧流分を加減して少しずつ左転しながら、機関を全速力前進にかけて10.8ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
10時29分わずか前A受審人は、215度の針路で北副防波堤東灯台を右舷側210メートルに通過したとき、自動操舵のまま針路を防波堤入口のほぼ中央に向く240度としたあと、同時31分北防波堤灯台から110度210メートルの地点において、針路を250度とした直後に右舷船首27度770メートルのところに北防波堤の陰から姿を現わした前路を左方に横切る態勢のザラタヤ・ズベズダ(以下「ザラタヤ号」という。)を初めて認めた。そして、自船は、ザラタヤ号の前路100メートルのところを無難に航過できる態勢にあったものの、同船は北防波堤沿いに出港する船で右舷側に替わるものと思い、その動静を監視してその行動を十分に確かめないまま、着岸予定の北洋ふとう西岸壁に向かおうとして、10時31分わずか過ぎ同船が700メートルばかりとなったとき、10度右転して針路を260度に転じたところ、同船との間に新たな衝突のおそれが生じた。
A受審人は、その後ザラタヤ号は直進を続けて衝突のおそれのある態勢で接近したが、前方を先航する同業船に気をとられ、依然ザラタヤ号の動静を監視していなかったので、そのことに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく自動操舵のまま続航した。
B受審人は、昇橋してきたA受審人に操船指揮を引き継いだのち、操舵室左舷側の主機遠隔操縦装置の後方で見張りに当たり、10時23分半北副防波堤の1海里ばかり手前で入港スタンバイをかけたあと、入港に備えて甲板上に出てきた乗組員の作業の様子を操舵室左舷側の窓から顔を出して眺め、右舷前方の見張りを行っていなかったので、ザラタヤ号が存在することも、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していたことにも気付かず、A受審人に対し、同船のことについて適切な報告ができなかった。
A受審人は、B受審人から何ら報告が得られないまま、10時32分半ザラタヤ号が行った汽笛音にも気付かずに進行中、同時33分わずか前手動操舵に切り替えようとして切替えレバーに手を掛けたとき、操舵室右舷側でプロッターを見ていた通信士の叫び声で右舷前方を見たところ、至近に迫った相手船を認め、自動操舵のまま左舵一杯とし、また、B受審人は、同叫び声で相手船を初めて認め、機関を後進としたが、間に合わず、10時33分北防波堤灯台から247度510メートルの地点において、原針路、原速力のままの三陽丸の船首がザラタヤ号の左舷側中央部に前方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、ザラタヤ号は、鋼製の冷凍運搬船で、船長Cほか16人が乗り組み、冷凍かに約50トンを載せ、同月13日23時00分(現地時間)ロシア連邦サハリン州ホルムスク港を発航のうえ、翌14日08時30分稚内港に到着し、中央ふとう北岸壁に入船状態で係留していたところ、代理店からの要請で天北1号ふとう北岸壁に転係することとなり、船首2.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、10時15分中央ふとうを離岸し、天北1号ふとうに向かった。
C船長は、後退して岸壁から離れたあと、機関を極微速力前進として右回頭を行い、10時29分北防波堤灯台から290度710メートルの地点に達したとき、針路を天北1号ふとうに向首する155度に定め、機関を微速力前進にかけて4.0ノットの対地速力とし、一等航海士を見張り及び三等航海士に手動で操舵に当たらせて進行した。
10時31分C船長は、左舷船首58度770メートルのところに前路を右方に横切る態勢で入港してくる三陽丸を初めて認め、その直後の同時31分わずか過ぎ同船は右転して新たな衝突のおそれが生じ、その後同船は衝突を避けるための措置をとらずに接近を続けたが、そのうち自船を右方に見る相手船側において避航の措置をとるものと思い、警告信号を行わず、同時32分半ようやく一等航海士に命じて汽笛を吹鳴させたものの、速やかに行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとることなく続航中、原針路、原速力のまま前記のとおり衝突した。
C船長は、機関長からの報告で衝突により機関室に大量の浸水があることを知り、沈没の危険を感じて総員退船を決意し、投錨のうえ無線電話で遭難信号を発して間もなく、港内で給油作業中に衝突を知り、救助に駆け付けた給油船に乗組員全員を移乗させた。
衝突の結果、三陽丸は船首外板に破口を伴う凹損及び球状船首に凹損を生じたが、のち修理され、ザラタヤ号は左舷則中央部外板に破口を生じて浸水し、三陽丸に曳航(えいこう)されて北洋ふとう南岸壁に接岸したが、のち横転して全損となった。

(原因)
本件衝突は、稚内港において、入港中の三陽丸が、動静監視が不十分で、無難に航過する態勢のザラタヤ号に対し、右転して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、転係中のザラタヤ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
三陽丸の運航が適切でなかったのは、船長の動静監視が十分でなかったことと、船長を補佐する一等航海士の見張りが十分でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、自ら操船指揮のもとに稚内港に入港中、右舷前方にザラタヤ号を認めた場合、その行動を確かめ、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静を監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、同船は北防波堤沿いに出港し、右舷側に替わるものと思い、その動静を監視しなかった職務上の過失により、同船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船と衝突を招き、三陽丸の船首外板に破口を伴う凹損及び球状船首に凹損並びにザラタヤ号の左舷側中央部外板に破口を生じさせ、浸水横転させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、船長を補佐して稚内港に入港する場合、船長に対して適切な報告をするため転係中のザラタヤ号を見落とすことのないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、入港に備えて甲板上に出てきた組合員の作業の様子を操舵室左舷側の窓から顔を出して眺め、右舷前方の見張りを行っていなかった職務上の過失により、ザラタヤ号が存在することも、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気付かず、船長に対して同船のことについて適切な報告ができずに同船と衝突を招き、前記の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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