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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月5日16時45分 壱岐島北方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船豊栄丸
漁船白王丸 総トン数 4.2トン 1.4トン 登録長 11.15メートル 7.43メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 80 12 3 事実の経過 豊栄丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製小型遊漁兼用漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成9年3月5日07時長崎県壱岐郡恵美須漁港を発し、同時30分壱岐島北方7海里の漁場に至り、操業して32キログラムばかりのいさきを漁獲したところで、16時30分帰港の途についた。 A受審人は、16時35分魚釣埼灯台から007度(真方位、以下同じ。)3海里の地点に達したとき、針路を魚釣埼東沖合に向首する181度に定め、機関を全速力前進にかけて15.5ノットの対地速力で、操舵室の中央から少し右舷寄りの舵輪の後方で見張りにあたり、自動操舵によって進行した。 16時43分A受審人は、魚釣埼灯台から021度1海里の地点に至ったとき、正船首960メートルの魚釣埼沖合に船首をほぼ東に向けて漂泊中の白王丸を視認できる状況にあったが、そのころ右舷船首方に壱岐島北岸に沿って東行中の3隻の漁船を見掛け、それら漁船群の動静監視に気をとられ、折から西に傾いた太陽の光でまぶしく、前方の見張りを十分に行わなかったので、白王丸に気づかないまま同船を避けずに続航中、16時45分魚釣埼灯台から039度980メートルの地点において、豊栄丸は、原針路・原速力のまま、その船首が白王丸の左舷船尾に後方から80度の角度で衝突し、同船船尾に乗り上げた。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。 また、白王丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、有効な音響信号手段を講じないまま、B受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、引き縄漁操業のため同日14時壱岐郡諸津漁港を発し、魚釣埼沖合の漁場に向かい、同時15分漁場に到着後、直ちに全長90メートルに及ぶ縄を投入してひらまさ漁の操業を開始した。 B受審人は、16時15分魚釣埼灯台から328度1,300メートルの地点において、針路を102度に定め、縄を引きながら3.0ノットの対地速力で進行しているうち、同時30分ごろ幹縄の先のテグスが切断し、テグスの先端に取り付けていた潜航板が紛失したので、引き返して海面を捜索したところ、同時40分海上に浮かんでいた同潜航板を探し当てたので、前示衝突地点付近に達したところで、機関を中立回転にしたまま行きあしを止めて漂泊を開始した。 B受審人は、周囲を見渡したところ、付近に接近する他の船舶を見掛けなかったので安心し、船首で潜航板をたも網ですくって船内に取り入れ、船尾甲板に移ってテグスの先端に同板を取り付ける作業に取りかかっているうち、折からの南西風と潮の影響で船首の向きが変わり、16時43分船首が101度を向いていたころ、左舷船尾80度960メートルのところから豊栄丸が自船に向首して来航していたが、作業に熱中してこれに気づかず、主機クラッチを入れて前方に移動するなど、衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続け、潜航板の取り付けを終えて同板を海中に投入したとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、豊栄丸は、船首端に破口を生じたほか、船首船底に擦過傷を生じたが、のち修理され、白王丸は、船尾部が大破して沈没し、B受審人は、衝突時の衝撃で海中に転落して海上に浮いていたところを付近航行中の漁船の支援を得て豊栄丸に救助され、最寄りの芦辺港瀬戸から病院に運ばれたものの、頭部及び右足に11日間の入院治療を要する打撲傷を負った。
(原因) 本件衝突は、壱岐島北方沖合において、豊栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の白王丸を避けなかったことによって発生したが、白王丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、壱岐島北方の漁場から帰港中、魚釣埼沖合に差しかかる場合、岬の沖合には漁船などが漂泊していることが多いから、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、右舷船首方から接近していた他の漁船の動静に気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前方で漂泊中の白王丸に気づかず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、豊栄丸の船首端に破口を生じさせたほか、白王丸の船尾を大破させて沈没に至らしめたうえ、B受審人の頭部及び右足に打撲傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人は、魚釣埼沖合で漂泊して漁具の手入れをする場合、岬に接近して航行する船舶があるから、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、漁具の手入れに熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷正横方から接近する豊栄丸に気づかず、衝突を避けるための措置をとらないまま同船との衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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