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1998年(平成10年)

平成9年長審第69号
    件名
漁船第八観音丸漁船智吉丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年5月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、原清澄、坂爪靖
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:第八観音丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:智吉丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン未満限定)
    指定海難関係人

    損害
観音丸…船首部に擦過傷
智吉丸…船尾部破損、操舵室圧壊、船長が耳介裂傷及び鼻骨骨折等

    原因
観音丸…見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
智吉丸…警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、智吉丸を追い越す態勢の第八観音丸が、見張り不十分で、智吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、智吉丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月24日05時10分
五島列島中通島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八観音丸 漁船智吉丸
総トン数 4.9トン 2.6トン
登録長 12.12メートル 8.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 50
3 事実の経過
第八観音丸(以下「観音丸」という。)は、はえ縄漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成8年10月24日04時40分法定の灯火を表示して長崎県伊福貴漁港を発し、五島列島中通島東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、04時51分五島棹埼灯台から252度(真方位、以下同じ。)3.8海里の地点に達したとき、4海里レンジとしたレーダーで船位を確かめ、針路を080度に定め、機関を全速力前進にかけて26.0ノットの対地速力とし、操舵室右舷側のいすに腰掛けて手動操舵にあたり、波で船首を少し左右に振られながら進行し、05時00分同灯台を左舷側に見てこれに並航したとき、レーダーのレンジを8海里に切り替えて続航した。
ところで、A受審人は、平素、レーダーを専ら船位確認のみに使用しており、機関を全速力前進にかけて航行すると船首が浮上し、いすに腰掛けて操船すると右舷約10度左舷約20度の範囲に死角を生ずることから、船首を時折左右に振って死角を補う見張りを行っていた。
05時05分A受審人は、五島棹埼灯台から091度2.4海里の地点に達したとき、正船首1海里のところに智吉丸の船尾灯を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で同船を追い越す状況にあったが、定針したとき近くに何も見かけなかったことから、前路に他船がいないものと思い、時折船首を左右に振ったり、レーダーのレンジを切り替えたりするなどの死角を補う見張りを十分に行うことなく進行し、智吉丸の存在に気付かないでいすに腰掛けたまま、同船の進路を避けずに続航した。
05時10分わずか前A受審人は、自船の右舷灯に照らされた智吉丸の航走波を船首至近に認めて同船の存在に気付き、急ぎ機関を中立としたが、及ばず、05時10分五島棹埼灯台から085度4.6海里の地点において、観音丸は、原針路、原速力のまま、その船首部か智吉丸の船尾中央部に、ほぼ平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、視界は良好であった。
また、智吉丸は、はえ縄漁業等に従事するFRP製漁船で、B受番人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.10メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同日04時00分法定の灯火を表示して伊福貴漁港を発し、五島列島中通島東方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、04時41分半五島棹埼灯台から252度3.8海里の地点に達したとき、針路を080度に定め、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの対地速力とし、操舵室右舷側に立って手動操舵にあたり、波で船首を少し左右に振られながら進行し、同時57分左舷側に五島長ナ瀬灯標を見てこれに並航したとき、漁場到着時刻を調整するため、機関を半速力に減じ、14.0ノットの対地速力として続航した。
05時03分B受審人は、1.5海里レンジとして使用中のレーダーの画面後方端に観音丸の映像を初めて認め、振り返って同船のマスト灯及び両舷灯を視認して同船が自船を追い越す態勢であること知り、同時05分五島棹埼灯台ら087度3.4海里の地点に達したとき、観音丸が船尾方1海里のところに接近し、その後同船が衝突のおそれがある態勢で、自船の進路を避けずに接近する状況となったが、やがて同船が自船の進路を避けるものと考え、原針路、原速力のまま進行した。
05時08分B受審人は、再び後方を振り返ったところ、観音丸が正船尾740メートルのところまで接近しているのを認めたものの、同船の左舷灯のみが見えたこともあって、自船の右舷側を追い越して行くものと思い、警告信号を行わずに続航中、前示のとおり衝突した。
衝突後、A受審人は、智吉丸が自船から離れていったので智吉丸に損傷がないものと思い、B受審人が気を失って機関を停止できなかったことを知らずにしばらく停船したのち漁場に向けて続航し、操業を終えて帰航したところ、智吉丸が付近の僚船により救助されたことを漁業組合関係者から聞いて知った。
衝突の結果、観音丸は、その船首か智吉丸に乗り上がり、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、智吉丸は、船尾部破損、操舵室圧壊のほか、B受審人が耳介裂傷及び鼻骨骨折等を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、五島列島中通島東方の広い海域において、両船が漁場に向けて東行中、智吉丸を追い越す態勢の観音丸が、見張り不十分で、智吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、智吉丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、五島列島中通島東方沖合漁場に向け、高速力の一定針路で航行する場合、船首が浮上して死角を生じ、前路に存在する他船を視認できないおそれがあったから、先航する智吉丸を見落とさないよう、船首を左右に振ったり、レーダーを活用したりするなどの死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、定針したとき近くに何も見かけなかったことから、前路に他船がいないものと思い、いすに腰掛けたまま、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、智吉丸の進路を避けずに同船との衝突を招き、智吉丸の船尾から操舵室にかけて大破させ、B受審人に耳介裂傷、鼻骨骨折等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、観音丸が正船尾から接近した際、警告信号を行わなかったことは本件発生の原因となる。しかし、B受審人の所為は、被追越し船において相当と認められる見張りを行っていた点に徴し、同人の職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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