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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年10月26日01時30分 天草灘 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第五天山丸
漁船秀栄丸 総トン数 499トン 4.3トン 全長 76.55メートル 登録長
10.86メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 735キロワット 漁船法馬力数 15 3 事実の経過 第五天山丸(以下「天山丸」という。)は、航行区域を沿海区域とする鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、オイルコークス1,580トンを積載し、船首3.50メートル船尾4.75メートルの喫水をもって、平成7年10月25日12時15分関門港若松区を発し、鹿児島県宮之浦港に向かったが、乗組員の休養のため、途中、早崎瀬戸経由で熊本県天草郡松島町に寄せることにしていた。 A受審人は、船橋当直を同人とB受審人及び甲板員の3人で単独4時間の交替制とし、法定の灯火を点灯して自ら船橋当直中、23時50分ごろ長崎県野母埼西方沖合に達したとき、平成5年5月の竣工時からともに乗り組んでいて、熊本県四季咲岬沖合付近での夜間単独船橋当直の経験が十分にあるB受審人に同当直を任せることとし、その際、同岬沖合には漁船が出漁しているかも知れないので、周囲の状況に十分注意して操船に当たるよう指示し、降橋して自室で休息した。 船橋当直を引き継いだB受審人は、航行を続けて翌26日00時38分少し過ぎ樺島灯台から183度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、針路を079度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力とし、早崎瀬戸に向けて自動操舵で進行した。 01時16分少し前B受審人は、四季咲岬灯台(以下「岬灯台」という。)から284度5.8海里の地点に達したとき、四季咲岬から野母埼にかけて多数の操業中の漁船の灯火を認めたところから、取りあえず前路の漁船群を避けることとし、針路を左方に転じて067度の針路とし、レーダーのレンジを6海里として同速力で続航した。 01時20分B受審人は、ほぼ正船首2.1海里のところに、自船に向首して接近するトロールにより漁ろうに従事している秀栄丸を認めることができ、その後、同船がその方位に変化のないまま、著しく接近する状況となったものの、レーダーのレンジを適宜切り替えたり、船首輝線を一時消したり、あるいはレーダーから目を離して十分な時間肉眼で前路の状況を確認するなど見張りを十分に行っていなかったので、秀栄丸の存在に気付かないまま進行した。 01時25分B受審人は、岬灯台から296度4.6海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1.0海里まで迫った秀栄丸の灯火を視認することができる状況となったが、周囲を取り巻く他船の状況に気をとられ、レーダーを6海里レンジとしたまま使用し、依然として前路の見張りを十分に行っていなかったので、他の漁船の灯火のため、幾分視認することを妨げられた状態の秀栄丸の灯火に気付かなかった。 天山丸は、秀栄丸の進路を避けることなく続航中、01時30分岬灯台から305.5度4.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が秀栄丸の左舷船首部に前方からほぼ平行に衝突した。 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、付近海域の潮流はほぼ西南西方向で、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。 また、秀栄丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、えびの底引き網漁を行う目的で、船首0.50メートル船尾0.85メートルの喫水をもって、同月25日11時00分長崎県茂木港を発し、四季咲岬北西方沖合の漁場に向かった。 ところで、秀栄丸は、汽笛を備えてなく、また、設置したサーチライトも故障中で、接近する他船に対して警告する手段がなかったところから、前部マストに黄色回転灯を設置し、同灯を点灯することにより他船が自船を避航するのを期待する状況にあった。 同日12時ごろC受審人は、前示の漁場に至り、多数の同業船と同様に投網して操業を始め、日没とともにトロールにより漁ろうに従事している船舶が表示する法定灯火を点灯し、同時に黄色回転灯も点灯して操業を続行した。 翌26日00時00分C受審人は、岬灯台から351度3.5海里の地点で5回目の投網を行い、針路を249度に定めて自動操舵とし、機関の毎分回転数を2ノットの曳(えい)網速力となるように整定し、再び曳網を開始した。 01時20分C受審人は、前路を一瞥(いちべつ)してほぼ正船首2.1海里のところに、天山丸の白、白、緑、紅4灯を初認したが、同船が漁ろうに従事している自船の進路を避けて行くものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その後の同船の動静監視を行うことなく、燃料油の移送作業を行うため、操舵室を離れて機関室に入った。 秀栄丸は、01時25分岬灯台から307.5度4.0海里の地点に達したとき、天山丸がほぼ正船首1海里のところにあって、その後、その方位に変化なく、著しく接近する状況にあったが、B受審人が機関室で燃料油を移送中で、速やかに衝突を避けるための措置がとられず、原針路、原速力のまま続航中、前示のとおり衝突した。 B受審人は、秀栄丸と衝突したことに気付かないまま航行を続け、その後、松島町沖合で仮泊中、海上保安部からの連絡により、A受審人とともに初めて衝突の事実を知った。 衝突の結果、天山丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じただけであったが、秀栄丸は左舷船首部外板に亀裂などを生じ、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、熊本県四季咲岬北西方沖合おいて、天山丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している秀栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、秀栄丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、四季咲岬北西方沖合において、単独の船橋当直に当たって早崎瀬戸に向けて航行中、前方に多数の漁船の灯火を認めた場合、ほぼ正船首方から接近する秀栄丸の灯火を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を取り巻く他船の状況に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路でトロールにより漁ろうに従事している秀栄丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船の左舷船首部に擦過傷を、秀栄丸の左舷船首部に亀裂などを生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、夜間、四季咲岬西方沖合において、トロールにより漁ろうに従事している際、前方に天山丸の灯火を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、天山丸が漁ろうに従事している自船の進路を避けて行くものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、機関室内で燃料油の移送作業に従事し、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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