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1998年(平成10年)

平成9年神審第85号
    件名
貨物船第二十五天神丸押船幸丸被押バージKG-3衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年5月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、佐和明、清重隆彦
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:第二十五天神丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:幸丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
天神丸…右舷船首部に破口を伴う凹損
KG-3…左舷船尾部に凹損、搭載していたボートが損傷

    原因
天神丸…船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、大阪港木津川の狭い水路において、第二十五天神丸が、先航する幸丸被押バージKG-3を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成6年10月14日08時30分
大阪港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十五天神丸
総トン数 498トン
全長 65.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 押船幸丸 バージKG-3
総トン数 99トン
積容量 2,000立方メートル
全長 23.80メートル 68.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット
3 事実の経過
第二十五天神丸(以下「天神丸」という。)は、瀬戸内海において土砂などの輸送に従事する、船尾船橋型の砂、砂利、石材運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、山砂1,600トンを積載し、船首3.70メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成6年10月13日17時00分広島県東能美島を発し、大阪港大阪区第4区津守の木津川左岸にある丸一産業株式会社岸壁に向かった。
A受審人は、翌14日06時ごろ明石海峡の西口付近で単独の船橋当直に就き、同海峡を通峡して大阪湾北部を東行し、その後大阪港に入り、内港航路から港大橋を抜け、舵輪後方で操船と見張りに当たって木津川河口に向け南下した。
ところで、木津川は、少しずつ湾曲しながら東から北方に延びる狭い水路であり、河口部の幅が約400メートルで、上流に行くに従って川幅が徐々に狭くなっており、河口から約500メートル奥に入った左岸の関西電力大阪火力発電所の揚炭桟橋付近で、水路が北方に約30度屈曲していた。また、同揚炭桟橋からその上流約900メートルにある新木津川大橋に至る川幅は270ないし230メートルあるものの、右岸の随所に浅所が存在し、5メートル等深線が右岸から40ないし50メートル離れたところにほぼ平行に走っており、木津川を航行する天神丸にとって可航幅が200ないし130メートルに狭められていた。
A受審人は、これまで木津川を何度も航行した経験を有し、関西電力大阪火力発電所の揚炭桟橋から上流域の右岸際が浅くなっていたので、平素、荷を積んで喫水が深いとき、いつも同所付近から上流にかけては水路の中央付近をこれに沿って航行するように、また先航する他船があるときにはこれに後続するように上航していた。
08時17分半A受審人は、大阪鶴浜通り船だまり北波除堤北灯台から166度(真方位、以下同じ。)1,090メートルの位置にある、木津川運河信号所(以下「信号所」という。)からさらに287度890メートルの地点で、針路を177度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したころA受審人は、左舷船首13度1,100メートルの木津川河口に、同川に入る態勢となって東行する幸丸被押バージKG-3(以下「幸丸被押バージKG-3」については「幸丸押船列」、「被押バージKG-3」については「KG-3」という。)を初めて視認し、間もなくそれが押船列で、自船よりかなり速力が遅く、急速に接近することを知った。
08時22分半A受審人は、木津川河口付近に至り、信号所から230度1,040メートルのところで左舵をとって徐々に左回頭したのち、同時24分半信号所から210度1,020メートルの地点で、針路を木津川右岸に接航する096度に転じ、幸丸押船列に注意しながら続航した。
A受審人は、08時26分先航する幸丸押船例を右舷船首22度430メートルに見るようになったとき、同押船列が揚炭桟橋付近の水路屈曲部に達し、左転して水路の中央部をこれに沿って進行するようになったのを認め、そのまま進行すれば、これを屈曲部付近の可航幅の狭いところで、自船が右岸に著しく接近する状況となってその左舷側至近に追いつくことになることを知った。しかし、同人は、折から反航船も見当たらず、入港時刻が遅れていたことから着岸を急ぐあまり、このまま幸丸押船列の左舷側をなんとか航過できるものと思い、自船としては安全にかわりゆく余地がなかったが、減速して後続するなどの同押船列を避けるための措置をとることなく、そのまま続航した。
その後、A受審人は、幸丸押船列の左舷側を航過するよう、木津川右岸と同押船列の間に向けて保針に留意しながら進行していたところ、同川の屈曲部付近に近づいたころ舵効きが悪くなったことを感じているうち、08時29分少し過ぎ信号所から160度1,040メートルの地点に達し、幸丸押船列が右舷船首39度100メートルに接近したとき、木津川右岸寄りの浅所に船底が接触したため、右舷に傾斜するとともに、船首が急に右に振り始め、右回頭しながら同押船列に向け進出する状況となった。
A受審人は、衝突の危険を感じ、直ちに左舵一杯をとったものの、舵効が得られなかったので、機関を微速力に落として続航中、08時30分信号所から155度1,150メートルの地点において、天神丸は、120度を向いたその右舷船首が、ほぼ原速力のまま、KG-3の左舷船尾部に後方から約48度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
また、幸丸は、2基の主機と2軸2舵を装備した鋼製押船兼引船で、B受審人ほか3人が乗り組み、船首2.00メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、残土1,470立方メートルを積載して船首4.40メートル船尾4.60メートルの喫水となった、鋼製バージKG-3の船尾凹部に幸丸の船首部を入れ、幸丸の両舷船尾から出した径75ミリメートルの各ロープで結合して全長82.50メートルの幸丸押船列とし、同日07時30分兵庫県尼崎西宮芦屋港鳴尾浜沖合の、西宮防波堤東灯台から323度1,400メートルの仮泊地を発し、大阪港の前示丸一産業株式会社岸壁に向かった。
B受審人は、発航操船に引き続き舵輪後方で操舵と見張りに当たり、機関長を見張りに就けて尼崎西宮芦屋港内を南下し、やがて大阪港に入り、内港航路から港大橋を抜け、木津川河口に向けて進行した。
そして、B受審人は、木津川河口に至ったとき、折から反航船を認めず、KG-3が満載状態で喫水が深かったことから、木津川の水路の中央寄りに東行することにし、08時17分信号所から217度970メートルの地点で、針路を115度に定め、機関を微速力前進にかけ、3.0ノットの対地速力で同水路の中央部付近を東行した。
B受審人は、08時25分半少し過ぎ信号所から174度1,120メートルの地点に達したとき、正船尾少し左460メートルに天神丸を初めて視認し、間もなくの同時26分信号所から173度1,130メートルの、関西電力大阪火力発電所の揚炭桟橋北側に差し掛かったとき、針路を077度に転じ、水路の中央部をこれに沿って進行した。
転針したころB受審人は、天神丸を左舷船尾41度430メートルに見るようになり、その後、時々後方を振り向いて天神丸の動静を監視し、同船が木津川の右岸寄りに接航する態勢で、同川右岸と自船との間に向ける態勢で急速に接近することを知り、自船の左舷側を航過するものと思って続航した。
08時29分少し過ぎB受審人は、操舵室外左舷側に見張りに当たっていた機関長から天神丸が自船に向けて近寄ってくるとの報告を受け、左舷後方を見たところ、左舷船尾58度100メートルに接近した天神丸が右舷に傾きながら自船に向け接近してくるのを認め、衝突の危険を感じ、両舷機を全速力後進とし、機関長と2人で両手を振って避航するよう合図を行ったものの、なおも迫ってくるので、幸丸との衝突を避けようと思い、右舷機を前進としたが効なく、KG-3は、072度を向首し、1.0ノットの対地速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天神丸は右舷船首部に破口を伴う凹損を生じ、KG-3は左舷船尾部に凹損を生じたほか、搭載していたボートが損傷したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、天神丸及び幸丸押船列が、大阪港大阪区第4区の木津川の狭い水路を相前後して東行中、天神丸が、減速して後続するなどの先航する同押船列を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、木津川の狭い水路を満載状態で右岸に接航する針路として上航中、低速力で先航する幸丸押船列が左転して水路の中央部をこれに沿って進行するようになったのを認め、そのまま進行すれば、これを水路屈曲部付近の可航幅の狭いところで、自船が右岸に著しく接近する状況となってその左舷側至近に追いつくことになることを知った場合、右岸際には浅所が存在し、同押船列の左舷側を安全にかわりゆく余地がなかったから、速やかに減速して後続するなどの幸丸押船列を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、反航船も見当たらず、入港時刻が遅れていたことから着岸を急ぐあまり、木津川の右岸寄りに接航して幸丸押船列の左舷側をなんとか航過できるものと思い、速やかに減速して後続するなどの同押船列を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同川右岸際の浅所に底触し、右回頭して幸丸押船列に向けて進行して衝突を招き、KG-3の左舷船尾部に凹損及び搭載していたボートに損傷並びに天神丸の右舷船首部に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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