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1998年(平成10年)

平成9年広審第47号
    件名
旅客船フェリーみしま貨物船新旭洋丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年5月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之、杉?忠志、織戸孝治
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:フェリーみしま船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:新旭洋丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
フェリーみしま…左舷船首部に破口を伴う凹損及び左舷後部に亀裂を伴う凹損
新旭洋丸…右舷船首部及び右舷尾部に凹損

    原因
新旭洋丸…狭視界時の航法(信号・速力)不遵守(主因)
フェリーみしま…狭視界時の航法(速力)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、新旭洋丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、フェリーみしまが、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月31日10時10分
瀬戸内海大三島南方沖
2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリーみしま 貨物船新旭洋丸
総トン数 213トン 199トン
全長 42.50メートル 56.118メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 698キロワット 735キロワット
3 事実の経過
フェリーみしまは、広島県木ノ江港、愛媛県宗方漁港及び同県今治港間の定期航路に就航する船首船橋型の旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客8人及び車両3台を載せ、船首1.1メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成8年5月31日09時50分宗方漁港を発し、今治港に向かった。
A受審人は、発航時から操舵操船に就き、機関長及び甲板員を船橋両舷に配して見張りに当たらせ、09時57分アゴノ鼻灯台から057度(真方位、以下同じ。)1,350メートルの地点で、針路を152度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
09時58分A受審人は、アゴノ鼻灯台から071度1,350メートルの地点に達したころ、急に霧がかかり視程が約200メートルとなったので霧中信号を開始して航行中の動力船が表示する灯火を点灯し、機関を操作して徐々に減速し、1.5海里レンジのレーダー監視に当たりながら続航し、10時00分少し過ぎアゴノ鼻灯台から084度1,450メートルの地点で、停止してレーダーを監視していたところ、前路に数隻の漁船を探知したので、同時01分少し過ぎ同漁船群を避航するため機関を5.0ノットの微速力前進にかけて右転し、同時04分アゴノ鼻灯台から101度1,450メートルの地点に至り、同漁船群を左舷側に替わしたので針路を158度に戻したところ、レーダーで左舷船首72度1,700メートルに新旭洋丸の映像を初めて探知し、同時06分アゴノ鼻灯台から107度1,570メートルの地点に達したとき、同船の映像が左舷船首72度1,000メートルに接近してきたので機関を3.0ノットの極微速力前進に落とし、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが、減速したので自船の前路を替わると思い、必要に応じて停止しないで進行した。
10時10分わずか前A受審人は、左舷正横至近に迫った新旭洋丸を視認し、全速力後進としたが及ばず、10時10分アゴノ鼻灯台から115度1,800メートルの地点において、フェリーみしまは、162度に向いてほぼ停止したが、その左舷船首部に新旭洋丸の右舷船首が後方から38度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は200メートルで、潮候は下げ潮の初期であった。
また、新旭洋丸は、鋼材の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか1人が乗り組み、鋼材680トンを載せ、船首2.7メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同日09時00分愛媛県伯方港を発し、関門港に向かった。
B受審人は、船橋当直をC指定海難関係人、機関長及び自らによる単独3時間交替の輪番制とし、発航操船したのち船橋当直に当たり、09時30分愛媛県伯方島と同県大島に架かる大島大橋下を航過後、C指定海難関係人に船橋当直を引き継ぐこととしたが、晴れていたので視界制限状態になることはないと思い、視界制限状態になったとき船長が自ら指揮がとれるようC指定海難関係人に視界制限状態になったことを報告するよう指示しないで、同人に船橋当直を引き継いで降橋した。
C指定海難関係人は、単独の船橋当直に就き、09時45分カヤトマリ鼻灯台から352度750メートルの地点で、針路を250度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの速力で進行した。
09時58分C指定海難関係人は、カヤトマリ鼻灯台から260度2.2海里の地点に達したとき、三ツ子島付近から前路にかけて霧がかかり視界制限状態になったが、B受審人から指示されていなかったことからこのことを報告せず、同人は、報告を受けられず、自ら指揮をとることなく、霧中信号を行うことも、また、安全な速力に減ずることもできなかった。
10時06分C指定海難関係人は、アゴノ鼻灯台から099度1.3海里の地点に至り、霧堤に入ったとき、航行中の動力船が表示する灯火を、点灯し、機関を7.5ノットの半速力前進に落として0.5海里レンジにしたレーダーを監視しながら続航した。
10時07分B受審人は、機関の回転数が落ちたので目が覚めて昇橋して他船の霧中信号を聞いたが、C指定海難関係人から右舷後方に同航船が航行していることの報告を受けて同航船のものと思い込み、周囲の状況を把握しようとしていたところ、フェリーみしまが右舷船首15度700メートルとなり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となっていたが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止しないで、その後同航船を視認しようと右舷後方を見ていた。
10時08分C指定海難関係人は、レーダーで右舷船首15度500メートルのところにフェリーみしまの映像を初めて探知したが、B受審人に報告しないまま続航し、同時10分少し前正船首至近に迫ったフェリーみしまを視認し、直ちに左舵一杯にとったが及ばず、新旭洋丸は、200度を向いたその船首が、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、フェリーみしまは左舷船首部に破口を伴う凹損及び左舷後部に亀裂を伴う凹損を生じ、新旭洋丸は右舷船首部及び右舷船尾部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、両船が、霧による視界制限状態の大三島南方沖を航行中、西行する新旭洋丸が、霧中信号を行わず、かつ、フェリーみしまと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかったことによって発生したが、南下するフェリーみしまが、レーダーにより左舷船首方近距離に探知した新旭洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、必要に応じて停止しなかったことも一因をなすものである。
新旭洋丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の部下に船橋当直を行わせる際、自ら指揮がとれるよう視界制限状態になったことを報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が船長に視界制限状態になったことを報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
B受審人は、大三島南方沖を西行中、無資格の部下に船橋当直を行わせる場合、視界制限状態になったとき船長が自ら指揮がとれるようC指定海難関係人に視界制限状態になったことを報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船橋当直を引き継ぐ際に晴れていたので視界制限状態になることはないと思い、報告するよう指示しなかった職務上の過失により、報告を受けられず、自ら指揮をとることなく進行してフェリーみしまと衝突を招き、フェリーみしまの左舷船首部に破口及び左舷後部に亀裂並びに新旭洋丸の右舷船首部に右舷船尾部に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、視界制限状態の大三島南方沖を南下中、レーダーで左舷船首方近距離に新旭洋丸の映像を探知し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った場合、必要に応じて停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、減速したので自船の前路を替わると思い、必要に応じて停止しないで進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、視界制限状態になった際、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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