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1998年(平成10年)

平成9年神審第117号
    件名
貨物船第五拾五宝来丸漁船豊栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年4月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、佐和明、長谷川峯清
    理事官
北野洋三

    受審人
A 職名:第五拾五宝来丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
宝来丸…船首部に擦過傷
豊栄丸…左舷船尾部を圧壊して転覆、船長死亡

    原因
宝来丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
豊栄丸…横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五拾五宝来丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る豊栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、豊栄丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月8日03時53分
兵庫県家島観音埼南方海域
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五拾五宝来丸 漁船豊栄丸
総トン数 496トン 4.99トン
全長 65.50メートル 13.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第五拾五宝来丸(以下「宝来丸」という。)は、主として兵庫県家島諸島と大阪港との間で石材の輸送に従事する砂利石材運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、同諸島の男鹿(たんが)島において石材1,200トンを積載し、平成8年11月7日19時ごろ同諸島の坊勢島と家島の間にあたる、坊勢港西ノ浦西1号防波堤灯台(以下「西ノ浦西1号防波堤灯台」という。)から007度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点で投錨仮泊した後、船首3.40メートル船尾5.40メートルの喫水をもって、翌8日03時40分抜錨して仮泊地を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、抜錨と同時に機関を2.5ノットの極微速力前進にかけ、間もなく針路を家島南端の観音埼と矢ノ島との間に向ける102度に定め、その後徐々に機関の回転を上げながら、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
03時43分A受審人は、機関を半速力前進に増速し、操舵室舵輪左横のレーダーの後方に立ち遠隔操舵により操船と見張りに当たり、8.0ノットの対地速力で続航した。
A受審人は、矢ノ島を右舷側に航過し、03時47分西ノ浦西1号防波堤灯台から040度1,600メートルの地点に差し掛かったとき、男鹿島の南端と、その南東方約1,000メートルにある加島との間を通航するよう、針路を男鹿島南端沖に向ける105度に転じた。
転針したときA受審人は、右舷船首60度800メートルのところに、前路を左方に横切る豊栄丸の白、紅2灯を視認できる状況となり、その後その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近した。しかし、同人は、前路の男鹿島及び加島両島各西側沿岸に設置されたのり養殖施設を示す灯火が視認できなかったことから、同施設が気がかりとなり、同施設の南北両端を確かめるためレーダーの調整に気をとられ、右方の見張りを十分に行っていなかったので、豊栄丸の灯火に気付かず、早期に右転して同船の進路を避けることなく進行した。
03時53分少し前、A受審人は、レーダーから目を離し、顔を上げ周囲を見回したとき、右方至近に迫った豊栄丸の白、紅2灯を初めて認め、衝突の危険を感じ、直ちに機関を停止するとともに右舵一杯をとり、続いて機関を全速力後進にかけたが間に合わず、03時53分西ノ浦西1号防波堤灯台から072度1.4海里の地点において、宝来丸は、110度を向いたその船首が豊栄丸の左舷船尾部に、後方から約37度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力1の北風が吹き、視程は約5海里で、潮候は上げ潮の初期であった。
また、豊栄丸は、音響信号の設備を有しない、小型底曳(そこびき)漁業に従事する木造漁船で、船長Bが1人で乗り組み、前日漁獲した魚を、兵庫県姫路港飾磨区にある魚市場に水揚げする目的で、同日03時37分同県坊勢漁港西ノ浦地区の漁船だまりを発し、航行中の動力船の灯火を表示して姫路港に向かった。
発航後、B船長は、操舵室舵輪の後方で操舵と見張りに当たり、03時41分西ノ浦西1号防波堤灯台を右舷側20メートルに航過したとき、針路を矢ノ島南方に向ける073度に定め、7.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
B船長は、矢ノ島を左舷側に航過し、03時47分西ノ浦西1号防波堤灯台から071度1,300メートルの地点に達したとき、左舷船首88度800メートルのところに、白、白、緑3灯を表示した宝来丸が前路を右方に横切る状況となり、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近していたが、同船と間近になったとき機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、豊栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、宝来丸は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、豊栄丸は左舷船尾部を圧壊して転覆し、B船長(昭和9年11月20日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が船内に取り残されて死亡し、船体はのち引き揚げられて坊勢漁港に引き付けられた。

(原因)
本件衝突は、夜間、兵庫県家島観音埼の南方海域において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、宝来丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る豊栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、豊栄丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、坊勢島坊埼東方の仮泊地を発し、家島観音埼の南方沖合に向けて東行する場合、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する豊栄丸を見落とすことのないよう、右方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路の男鹿島及び加島両島各西側沿岸に設置されたのり養殖区画を確かめるためレーダーの調整に気をとられ、右方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、豊栄丸の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、同船の左舷船尾部を圧壊させたほか転覆させ、また宝来丸の船首部に擦過傷を生じさせ、豊栄丸船長が船内に取り残されて死亡するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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