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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月8日11時15分 北海道苫小牧港東港 2 船舶の要目 船種船名 遊漁船幸運丸
プレジャーボートトアサ 総トン数 4.9トン 全長 15.80メートル 6.13メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 出力
279キロワット 110キロワット 3 事実の経過 幸運丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、遊漁客11人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成9年6月8日05時00分北海道鵡川漁港を発し、同漁港沖合の釣り場に至り、移動しながらかれい釣りをしていたが、釣果が思わしくなかったので、苫小牧港東港地区の防波堤内側の釣り場に移動することにした。 ところで、幸運丸は、約15ノットから船首が浮上し、17.0ノットでは船首方に左右で約25度の死角が生じて前方を見通すことができず、前方の死角を補うには船首を左右に振るなどしなければならなかった。 11時00分A受審人は、苫小牧港東港地区東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から143度(真方位、以下同じ。)5.8海里の釣り場を発し、針路を323度に定め、機関を17.0ノットの全速力にかけ、操舵室内の左舷寄りに立って当直に当たり、自動操舵として進行した。 11時13分A受審人は、東防波堤灯台から143度2.1海里の地点に達したとき、船首方1,050メートルのところに漂泊中のトアサを視認し得る状況であったが、前路に他船はいないと思い、電話で同業船と漁模様の連絡を始め、船首を左右に振るなどして前方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かず、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船を避けずに続航し、同時15分少し前同業船と交信していたのでトアサが吹鳴した電子ホーンの長音2回にも気付かずに進行中、11時15分東防波堤灯台から143度1.6海里の地点において原針路、原速力のままの幸運丸の船首が、トアサの左舷側前部に90度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。 また、トアサは、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣り仲間4人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水で、同日05時35分苫小牧港漁港区域の船揚げ場を発し、同港出光興産シーバース灯南西方の釣り場に至り、かれい釣りを始めたが釣果が思わしくなかったので、10時30分ごろ前示衝突地点付近の釣り場に移動し、機関を止め、パラシュート型シーアンカーを投入して漂泊し、再度釣りを始めた。 B受審人は、折からの南西風に船首を立てて、運転席左舷側の助手席に座って釣りをしていたところ、停船していた幸運丸がいつのまにか自船に向かって進行し始めているのを認め、11時13分なおも向首したまま左舷正横1,050メートルに衝突のおそれがある態勢で接近したが、普段近くに来てから停止する遊漁船が多いことから、近づけば止まるものと思い、動静監視を続けていたところ、更にそのまま接近したので、同時15分少し前同船との距離が約150メートルになったとき、注意喚起のため電子ホーンで長音を2回吹鳴したが、効なく、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、幸運丸は球状船首に擦過傷を生じ、トアサは左舷側前部外板に破口を生じて、同乗者2人が打撲傷を負った。
(原因) 本件衝突は、北海道苫小牧港東港において、幸運丸が、釣り場を移動するにあたり、見張り不十分で、前路で漂泊中のトアサを避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、単独で当直に当たり、北海道苫小牧港東港の釣り場を移動する場合、船首に死角があったから、前路で漂泊中のトアサを見落とさないよう、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りをすべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないと思い、船首死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、トアサと衝突のおそれがあることに気付かず、同船との衝突を避けないまま進行し、トアサとの衝突を招き、幸運丸の球状船首に擦過傷を及びトアサの左舷側前部外板に破口を生じさせ、トアサの同乗者2人に打撲傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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