日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成8年第二審第40号
    件名
ケミカルタンカー弘翔丸貨物船金光丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月29日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審神戸

養田重興、松井武、山崎重勝、平田照彦、吉澤和彦
    理事官
亀井龍雄

    受審人
A 職名:弘翔丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:金光丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
弘翔丸…左舷船尾上部外板に凹傷
金光丸…船首部に破口を伴う凹傷

    原因
金光丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    二審請求者
理事官綱島記康

    主文
本件衝突は、航行中の金光丸が、見張り不十分で、錨泊中の弘翔丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成6年1月27日02時40分
大阪港港外
2 船舶の要目
船種船名 ケミカルタンカー弘翔丸 貨物船金光丸
総トン数 446トン 198トン
全長 59.19メートル 51.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 882キロワット 441キロワット
3 事実の経過
弘翔丸は、船尾船橋型の油タンカー兼引火性液体物質ばら積船兼液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか5人が乗り組み、液体化学薬品フェノール603トンを積載し、船首2.80メートル船尾3.90メートルの喫水をもって、平成6年1月25日15時30分千葉港を発し、大阪港に向かった。
翌々27日01時15分A受審人は、大阪港堺南航路沖合の数隻の船舶がほぼ一塊となって錨泊している付近に至り、大阪灯台から244度(真方位、以下同じ。)2海里の大阪港港外の地点で、日出を待って入港するため、右舷錨を投じ錨鎖5節を延出して錨泊した。
そしてA受審人は、錨泊中を表示する白色全周灯2個及び危険物積載中を表示する赤色全周灯1個を掲げ、前部マスト及び船僑前壁から作業灯で甲板上を照射したほか、ボートデッキ及び後部甲板の照明灯等を点灯して錨泊作業を終え、その後の入港作業や荷役作業に備え乗組員を休養させ、自らも休養していたところ、02時40分前示錨泊地点において、弘翔丸が023度に向首していたとき、同船の左舷後部に、金光丸の船首が、後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
A受審人は、衝撃を感じて直ちに昇橋し、金光丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、金光丸は、愛媛県三島川之江港と大阪港との間を月に10回ばかり往復する船尾船橋型貨物船で、B受審人が機関長と2人で乗り組み、新聞用巻取り紙406トンを載せ、船首2.00メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同月26日15時10分三島川之江港を発し、大阪港に向かった。
B受審人は、船橋当直を2人で単独6時間ずつ行うこととしており、同日21時45分ごろ瀬戸内海の小豆島大角鼻の沖合で同当直に就き、明石海峡航路を東行し、翌27日01時14分ごろ平磯灯標から215度1.6海里ばかりの地点に達したとき、針路を大阪港内港航路入口付近に向く083度に定め、機関を10.4ノットの全速力前進にかけ、折から航行船が少なかったので、船橋内右舷側の高さ80センチメートルばまかりの台上にあるテレビをつけ、放映中の映画を見ながら手動操舵により進行した。
02時34分少し過ぎB受審人は、大阪灯台から250度3海里ばかりの地点に達したとき、ほぼ正船首1海里のところに弘翔丸の錨泊灯、赤灯そして作業灯で照らし出された船体等を初認したほか、同船の北側に数隻の錨泊船の灯火を認めたが、もう少し接近してから右転して替わそうと思い、そのまま続航した。
B受審人は、02時35分急にテレビの映像が映らなくなったところから、テレビの前で映像調整を行っているうち、前路の見張りがおろそかとなり、同時38分弘翔丸まで650メートルに接近したが、依然テレビの調整を行っていてこれに気付かず、同船を避ける措置をとらないまま進行し、同時40分少し前ふと前方を見て至近に迫った弘翔丸に気付き、急いで機関を中立としたが及ばず、金光丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、弘翔丸は、左舷船尾上部外板に凹傷を生じ、金光丸は、船首部に破口を伴う凹傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因に対する判断)
本件は、夜間、大阪港港外において、航行中の金光丸が、見張り不十分で、海上衝突予防法に規定する成規の灯火及び危険物積載船が表示する赤色灯を掲げて錨泊していた弘翔丸に衝突した事件である。
金光丸の当直者が、テレビの調整に気をとられ、見張り不十分となって、錨泊中の弘翔丸を避けなかったことは、本件発生の原因である。
次に、弘翔丸は危険物積載船であり、錨泊中といえども、船員法施行規則第3条の5に基づいて定められた航海当直基準(昭和58年4月21日運輸省告示第188号)により、航海当直を維持することが求められている。しかるに、乗組員全員が休息していたものであり、このことが本件発生の原因をなすかどうか以下検討する。
弘翔丸は、大阪港港界線外に数隻の船舶とともに錨泊していたものであり、付近は同港を出入航する航行船の多い水域である。かかる水域においては、錨泊船に向首して来航し、近距離になってから、転針する船舶もある。
仮に、弘翔丸が航海当直体制を維持し、当直者が自船に向け来航する金光丸を視認し得たとしても、自船に向首する金光丸が見張り不十分かどうかの判断はできず、同当直者が危険を感ずる時機は、金光丸が自船を避け得る限界に近く、その時機に注意喚起信号を行ったとしても、確実に避け得たとは認められない。
よって、錨泊中の弘翔丸が航海当直を維持していなかったことは、本件発生の原因と認めない。

(原因)
本衝突は、夜間、大阪港の港外において、航海中の金光丸が、見張り不十分で、前路に成規の灯火を掲げて錨泊している弘翔丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、大阪港に向けて航行中、ほぼ正船首1海里に成規の灯火を掲げて錨泊している弘翔丸を認め、もう少し接近してから替わすつもりで航行している場合、継続して見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、テレビの調整に気をとられ、見張りを行わなかった職務上の過失により、避航時機が遅れて弘翔丸との衝突を招き、同船の左舷船尾上部外板に凹傷及び自船の船首に破口を伴う凹傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成8年10月24日神審言渡(原文縦書き)
本件衝突は、金光丸が、動静監視不十分で、錨泊中の弘翔丸を避けなかったことに因って発生したものである。
受審人Bを戒告する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION