日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成8年第二審第20号
    件名
貨物船月星丸引船第一三幸丸引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月27日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審神戸

松井武、葉山忠雄、養田重興、平田照彦、吉澤和彦
    理事官
金城隆支

    受審人
A 職名:月星丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第一三幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
月星丸…船首部の左舷側上部外板に小さな亀裂
台船…左舷船首部外板に破口を伴う凹損

    原因
三幸丸引船列…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
月星丸…動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    二審請求者
理事官綱島記康

    主文
本件衝突は、第一三幸丸引船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切る月星丸の進路を避けなかったことによって発生したが、月星丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成6年1月5日07時10分
大阪港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船月星丸
総トン数 995トン
全長 83.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,691キロワット
船種船名 引船第一三幸丸 台船S-357
総トン数 16トン
全長 13.53メートル 35.00メートル
幅 13.00メートル
深さ 2.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 228キロワット
3 事実の経過
月星丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか10人が乗り組み、鋼材3,012トンを載せ、船首5.00メートル船尾5.64メートルの喫水をもって、平成6年1月4日14時05分広島県呉港を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、翌5日早朝大阪港外に到着し、同港は夜間の入港が禁止されていたことから、大阪港大和川南防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)の西方1.2海里付近において漂泊待機し、堺信号所から日出時刻が07時06分であるので、その後に堺南航路に入るよう指示を受け、07時00分一等航海士を見張りに、甲板手を手動操舵に当たらせ、自ら操船の指揮をとり、大阪港堺泉北第2区の日新製鋼岸壁に着岸するため、機関を極微速力前進にかけて航行を再開した。
07時05分A受審人は、北灯台から291度(真方位、以下同じ。)1,840メートルの地点に達したとき、堺南航路第6号と同第8号灯浮標の間から堺南航路に入るつもりで、針路を堺北航路第1号灯浮標に向首する096度に定め、機関を半速力前進に増速し、6.4ノットの対地速力で進行した。
定針したころA受審人は、左舷前方0.8海里ばかりのところに針路が交差する態勢で南下中の第一三幸丸(以下「三幸丸」という。)と同船に曳(えい)航された台船S-357(以下「台船」という。)を初めて視認した。
ところで、付近海域には堺南航路が東西に設定され、これを横切って南下する船舶は、同航路を航行する船舶若しくは右舷船首方に見る東行船を避航するため、適宜、転針する状況にあった。
したがって、A受審人としては、三幸丸と無難に航過するまでは、その動静を監視しなければならなかったが、三幸丸が台船を引いているので速力が遅く、自船がその前路を航過できるものと思い、その動静監視を行うことなく、船首方200メートルばかりを先航する速力の速いコンテナ船や堺南航路と堺北航路の接続部付近の状況を見ながら続航した。
A受審人は、07時07分三幸丸が左舷船首30度1,000メートルのところで針路を右に転じ、その後同引船列とほとんど方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢となり、同時08分三幸丸引船列が衝突のおそれのある態勢のまま660メートルに接近したが、依然、同引船列の動静を監視していなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わないで進行した。
A受審人は、07時09分左舷船首23度380メートルに接近した三幸丸にようやく気付いたが、速やかに機関を停止するなどの衝突を避けるための適切な協力動作をとることなく、同船の動向を確認しないまま左舵一杯を令し、一等航海士が汽笛で短音2回を吹鳴したので、そのまま同船を見守っていたところ、同時09分半三幸丸に向首したとき、同船が右転中であることを知り、急いで右舵一杯にとり直し、機関を全速力後進にかけた。しかし、その効なく、月星丸は、三幸丸を左舷側に替わしたものの、07時10分北灯台から310度865メートルの地点において、船首が080度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その左舷船首部が台船の左舷前部に前方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、三幸丸は、主として大阪湾内の各港間で台船などの曳航に従事する鋼製引船で、B受審人が1人で乗り組み、船首尾とも0.40メートルの等喫水で空倉無人の台船を長さ約30メートルの曳索で船尾に引き、全長78メートルの引船列とし、船首0.80メートル船尾2.30メートルの喫水をもって、同日06時25分大阪港大阪第2区安治川河口の桜島入堀を発し、同港堺泉北第5区の塩見埠(ふ)頭1号岸壁に向かった。
06時58分少し前B受審人は、大阪南港南防波堤灯台から284度140メートルの地点に達したとき、針路を194度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.6ノットの曳航速力で手動操舵により進行した。
07時07分B受審人は、堺南航路にさしかかったとき、前方を東行するコンテナ船との航過距離をとるため20度右転して214度とし、このとき、右舷船首33度1,000メートルのところに東行中の月星丸を視認でき、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが、自船が替わした前路のコンテナ船に気を奪われ、見張りを十分に行っていなかったので、月星丸に気付かず、早期に同船の進路を避けないで続航した。
B受審人は、0708分コンテナ船が前方300メートルばかりを航過したとき、右舷船首33660メートルに月星丸を初めて視認したが、自船が台船を引いているので、その後方を替わしてくれるものと思い、原針路の194度に戻して月星丸の様子を見ていたところ、同船に替わしてくれる気配がなく、至近に迫る状況であったことから、同時09分右舵20度をとって右転中、月星丸が左転しているのを認めたものの、どうすることもできず、そのまま回頭を続け、三幸丸が北北西方に向き、台船が305度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、月星丸は、船首部の左舷側上部外板に小さな亀(き)裂を生じ、台船は、左舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、大阪港大阪第7区において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、三幸丸引船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切る月星丸の進路を避けなかったことによって発生したが、月星丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が適切でなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、台船を引き単独で操船に当たって大阪港内を南下し、堺南航路にさしかかった場合、入航船舶が日出と同時に同航路付近を東行する状況であったから、東行して接近する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を横切って行くコンテナ船に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船首方から接近する月星丸の視認が遅れ、早期に同船の進路を避けないで進行して月星丸との衝突を招き、同船の船首部左舷側上部外板に小亀裂及び台船の左舷船首部外板に破口を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、先航するコンテナ船に続いて堺南航路に向けて東行中、左舷前方に針路が交差する態勢で南下中の三幸丸引船列を認めた場合、同引船列が東行船との関係で転針することが予想されたから、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が三幸丸引船列の前路を航過できるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、適切な協力動作をとらないで進行して台船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成8年6月20日神審言渡(原文縦書き)
本件衝突は、第一三幸丸引船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切る月星丸の進路を避けなかったことに因って発生したが、月星丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこともその一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION