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1998年(平成10年)

平成9年仙審第50号
    件名
漁船第5好栄丸漁船第5長栄丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年11月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、安藤周二、今泉豊光
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第5好栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:第5長栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
長栄丸乗組員1人が心臓破裂で死亡

    原因
好栄丸…音響信号の手段不備、見張り不十分、操船不適切(操業中の他船と著しく接近)
長栄丸…音響信号の手段不備、見張り不十分、操船不適切(操業中の他船と著しく接近)、作業中の乗組員に対して安全な場所への避難不指示

    主文
本件乗組員死亡は、両船が採介藻漁場で低速力で回頭しながら操業する際、第5好栄丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、見張り不十分で、第5長栄丸と著しく接近することを避けるための措置をとらなかったことと、第5長栄丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、見張り不十分で、第5好栄丸と著しく接近することを避けるための措置をとらなかったばかりか、甲板上で作業中の乗組員に対して速やかに安全な場所に避難するよう指示しなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月5日07時00分
青森県大間港南南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第5好栄丸 漁船第5長栄丸
総トン数 2.7トン 2.74トン
登録長 9.90メートル 9.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 35
3 事実の経過
第5好栄丸(以下「好栄丸」という。)は、採介藻漁業に従事するFRP製小型漁船で、まんけ曳き毘布漁の目的で、A受審人ほか両親が乗り組み、船首0.25メートル船尾0.90メートルの喫水をもって、平成8年8月5日04時00分大間港を発し、大間港根田内西防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)の南南西方1海里の地点を中心とする半径500メートルの指定漁場に向かった。
ところで、好栄丸は、全長11.80メートル最大幅2.82メートル深さ0.61メートルで、船首部が前方に反り上がった船型になっており、舷側上面から海面までの高さが船首部で1.66メートル、中央部で0.68メートル及び船尾端で0.90メートルあった。船体構造は、船首端から船尾方5.20メートルのところに長さ3.25メートル幅1.27メートル高さ2.21メートルの操舵室が、その前部には3個の魚倉がそれぞれ設けられており、船尾甲板上左舷側には漁具巻揚用ラインホーラ及び同右舷側には「まんけ」と称する海底を曵いて昆布を採る漁具(以下単に「漁具」という。)が配備されていた。また操舵装置が操舵室内のほか、曵綱作業の際に船尾甲板上で操舵できるよう同室後部外壁左舷側にも遠隔操縦装置が取り付けられていた。しかし、船尾甲板左舷側での揚綱作業位置からでは、右前方の見通しが操舵室に一部遮られた状態となり死角を生じる状況であった。
まんけ曳き毘布漁は、比較的水深の深い水中が濁った暗いところで行われ、漁具を海底に投下し曳綱を船尾に付けて低速力で曳き、毘布を漁具の爪と中心棒との間に挟み、さらに奥の狭い箇所に締め付け引き取るもので、一般に曳綱を水深の約3倍延出して曳きやすいように同じ水深のところを小舵角で曳綱舷側に回頭しながら適宜場所を変え、揚綱を繰り返し行う漁法である。漁具は、長さ1.15メートルで未端から間隔をもって4本の爪先が全長のほぼ半分まで達し、海底を曳きずる折に末端が浮き上がらないように先端には重りが装着され、約30キログラムの重さがあった。なお、多数の同業船が昆布の成育している限られた漁場で操業するので、各船が互いに異常に接近する状況となることもあったものの、操業中における各船間の航法及び優先権などの取決めがなく、見張りど注意喚起を行うことによって著しく接近することを回避するようにしていた。
A受審人は、発航に際して有効な音響信号を行うことができる手段を講じないまま、04時10分予定の漁場に至り、同時50分無線連絡による操業開始の合図で約30隻の同業船と共に左舷側船尾から漁具を投入し、機関を微速力前進にかけて2ノットの曵綱速力で操業を始め、用意した2本の漁具を5分間隔で入れ替え、魚群探知機(以下「魚探」という。)で水深14ないし15メートルのところを選びながら適宜場所を変えて操業を行った。
こうして、06時55分A受審人は、防波堤灯台から217度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの地点に至り、引き続き魚探で水深を監視しながら遠隔操舵により左舵10度ないし15度をとって半径約100メートルの大きな円弧をもって低速力で左回頭しながら操業を続けた。同時58分半024度を向いたとき、左舷船首51度70メートルのところに操業中の第5長栄丸(以下「長栄丸」という。)を認めることができ、その後互いに左回頭しながら著しく接近するおそれがある態勢で近づく状況であったが、魚探の監視に続いて父親と共に漁具の引き揚げにかかり、また母親も操舵室付近の左舷側甲板上で船尾方を向いて昆布の整理中で、各人がそれぞれの作業に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かなかった。同時59分少し過ぎ長栄丸がいったん自船の前路を右方に横切ったものの、互いにそのまま回頭を続けて同船が前路を右方から左方に向って引き続き著しく接近する態勢で近づく状況であったが、依然として同船に気付かず、速やかに機関を止めるなどして著しく接近することを避けるための措置をとらないまま続航中、突然右船首至近から大きな叫び声を聞き、長栄丸の左舷側中央部に迫っていることに初めて気付いたもののどうする暇もなく、07時00分防波堤灯台から213度1,450メートルの地点において、好栄丸は、323度を向いたとき、原速力のまま、その右舷船首部が長栄丸の左舷側中央部に後方から50度の角度で接触し、その際に作業中の長栄丸の乗組員が好栄丸の右舷船首部と長栄丸の操舵室左舷側壁との間に挟まれた。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、視界は良く海上は平穏であった。
また、長栄丸は、採介藻漁業に従事するFRP製小型漁船で、B受審人ほか妻及び息子の2人が乗り組み、まんけ曳き昆布漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日05時00分大間港を発し、前示漁場に向かった。
ところで、長栄丸は、全長9.70メートル最大幅2,50メートル深さ0.61メートルで好栄丸と同型船で、操舵装置が操舵室内のほかに船尾甲板上で作業しながら操舵できるよう長柄式手動操舵装置も設けられていた。
B受審人は、発航に際して有効な音響信号を行うことができる手段を講じないまま、いったん防波堤灯台付近で操業を行ったのち、前示指定漁場に向かった。
06時35分B受審人は、すでに多数の同業船が操業中の同漁場に至り、直ちに左舷側船尾から漁具を投入し、操業船の合間を小さな円弧をもって左回頭しながら機関を微速力前進にかけて2ノットの曳綱速力で長柄式手動操舵により操業を始めた。
その後、B受審人は、防波堤灯台から214度1,500メートルの地点を中心に直径約50メートルの小さな円弧をもって左回頭しながら曳綱中、06時58分半151度を向いたとき、ほぼ正船首70メートルのところに低速力で左回顕しながら操業中の好栄丸を認めることができ、その後互いに左回頭しながら著しく接近する態勢で近づく状況であったが、左舷側船尾甲板上で息子に手伝わせラインホーラを使用して漁具を巻き始めたばかりで、また妻は操舵室左舷側甲板上で引き揚げられた昆布の整理中でもあったので、各人がそれぞれの作業に気を取られて周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。同時59分少し過ぎ自船がいったん好栄丸の前路を右方に横切ったものの、互いにそのまま回頭を続けて同船が前路を左方から右方に向かって引き続き著しく接近する態勢で近づく状況であったが、依然として同船に気付かず、速やかに機関を止めるなどして著しく接近することを避けるための措置をとらず、更に左舷側操舵室付近の甲板上で作業中の妻に速やかに安全な場所に避難するよう指示しないまま続航中、突然そばで作業中の息子の危険を知らせる叫び声で左舷正横至近に迫った同船に初めて気付いたもののどうする暇もなく、前示のとおり妻が両船間に挟まれた。
B受審人は、急ぎ大間港に引き返して妻C(昭和26年2月22日生)を病院に運んだが、同人は両船に挟まれた際に心臓破裂で死亡したと検案された。

(原因)
本件乗組員死亡は、大間港沖合の採介藻漁場において、両船が多数の同業船と共に低速力で左回頭しながら操業する際、好栄丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、見張り不十分で、近くで操業中の長栄丸と著しく接近することを避けるための措置をとらなかったことと、長栄丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、見張り不十分で、近くで操業中の好栄丸と著しく接近することを避けるための措置をとらなかったばかりか、同船が著しく接近したとき甲板上で作業中の乗組員に対して速やかに安全な場所に避難するよう指示を与えなかったこととにより両船が接触した折に同乗組員が挟まれて発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、大間港沖合の採介藻漁場において、多数の同業船と共に低速力で左回頭しながら昆布漁に従事する場合、近くで操業する長栄丸と著しく接近することのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近する態勢で近づく長栄丸に気付かず、これを避けるための措置をとらないまま進行して接触を招き、その際長栄丸の乗組員が両船間に挟まれ死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、大間港沖合の採介藻漁場において、多数の同業船と共に低速力で左回頭しながら昆布漁に従事する場合、近くで操業する好栄丸と著しく接近することのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近する態勢で近づく好栄丸に気付かず、これを避けるための措置をとらないまま進行したばかりか、甲板上で作業中の自船の乗組員に対して速やかに安全な場所に避難するよう指示しなかったことにより、前示の乗組員死亡を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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