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1998年(平成10年)

平成10年仙審第33号
    件名
漁船第八宝来丸・潜水者死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年11月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

供田仁男、高橋昭雄、安藤周二
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第八宝来丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
潜水者1人脳挫傷により死亡

    原因
素潜りしている潜水者の所在に対する確認不十分

    主文
本件潜水者死亡は、第八宝来丸が、素潜りによるうに漁を終えて帰途に就く際、潜水者の所在に対する確認が十分でなかったことによって発生したが、潜水者が、潜水地点を示さなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月23日09時55分
福島県塩屋埼北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八宝来丸
総トン数 0.5トン
登録長 5.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 26キロワット
3 事実の経過
第八宝来丸(以下「宝来丸」という。)は、採介藻漁業に従事する船外機付きのFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、うに漁の目的をもって、船首0.05メートル船尾0.45メートルの喫水で、平成9年5月23日08時30分福島県豊間漁港薄磯地区を発し、同地区から北東方500メートルの島磯と呼ばれる千出岩周辺の漁場に向かった。
うに漁は、縦横の長さがそれぞれ40センチメートル(以下「センチ」という。)及び厚さ20センチの発泡スチロール製の浮標にスカリと呼ばれる網袋を吊り下げて海面に浮かべ浮標に取り付けた綱の端をフックで海底に止め、その周囲に最長で1分15秒間ほど息の続く限り素潜りして海底のうにを採捕し、同綱に沿っで浮上してスカリにうにを入れ、浮標につかまって休憩したのち、再び潜水と浮上とを繰り返すものであった。
うに漁に従事する漁業者は、薄磯地区に14人おり、朝の決められた時刻に一斉に出漁して漁場で錨泊し、浮標とスカリとを持って適宜移動しながら操業を続け、1人あたり1日20キログラムの割当量に達した者から順次帰途に就き、漁場を航行するにあたっては、他の漁業者の浮標を迂回し、また、潜水者の所在が分からないときには、停止して同潜水者が浮上するのを待つようにしていた。
08時35分A受審人は、漁場に着き、島磯西縁の西方に開口した幅20メートル、奥行き35メートル、水深4メートルの入江に進入し、北側に寄って船首錨を投じ、錨索を10メートル延ばして折からの北東風により南西方に後退し、入江のほぼ中央部にあたる、塩屋埼灯台から052.5度(真方位、以下同じ。)520メートルの地点に船体を停止させて錨泊した。
A受審人は、直ちに操業を開始し、09時30分予定量のうにを採捕して宝来丸に戻り、甲板上で殻径3.5センチ以下の採捕することを禁じられているうにをより分ける作業を開始した。
09時50分A受審人は、自船の西方20メートルに寿丸、その西方1メートルに第1達丸の各僚船が並んで錨泊して、自船と同様に船首を北東方に向けて錨索を同方向に延ばし、寿丸船長Bが第1達丸の西方7メートルのところを寿丸に向かっで泳いでいるのを認めた。そして、採捕の禁じられた分と割当量を超えた分のうにを海中に放流し、09時54分少し過ぎ帰途に就くこととして錨を揚げたところ、船首方の岩に近づいたので前示停止地点に戻り、同時54分半わずか過ぎ船首を入江の外に向けた。
このとき、A受審人は、左舷前方の寿丸とその周囲海面にB船長(以下「B潜水者」という。)の姿を認めなかったことから、同人が再び付近に潜水していることを知ったが、潜水地点を示す浮標が見当たらないまま、前日までの荒天により海底の砂がかき交ぜられて海水が濁っていたので、同人の所在が分からなかった。
しかし、A受審人は、潜水水域か寿丸の船尾付近で同浮標が同船の陰に隠れて見えないものと思い、B潜水者の浮上を待つなどして所在を確認することなく、船体のほぼ中央部で立って操船にあたり、針路を寿丸の前方10メートルに向く288度に定め、機関を極微速力前進にかけて発進し、2.0ノットの対地速力で進行した。
こうして、宝来丸は、09時55分塩屋埼灯台から052度520メートルの地点において、原針路、原速力のまま、推進器翼がB潜水者に接触した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
A受審人は、衝撃を感じて後方を振り返り、海上に浮いているB潜水者を認め、海中に飛び込んで同人を僚船に収容し、薄磯地区に急行して救急車で病院に搬送するなどの事後措置にあたった。
また、B潜水者は、薄磯地区のうに漁に従事する漁業者で、寿丸に1人で乗り組み、うに漁の目的をもって、同日08時30分同地区を発し、同時35分島磯の入江に錨泊したのち、いずれも黒色で上下のウェットスーツ、フード、フィン及び水中眼鏡を装着し、黄色のウェイトベルトを巻き、かぎ棒と呼ばれるうにの採補用器具、腰たもと呼ばれる採補したうにを入れる網袋及びスカリを吊り下げた浮標を持ち、自船の近くから入江の外に徐々に移動して操業を行った。
09時50分B潜水者は、予定量のうにの採捕を終えて浮上し、同時51分泳いで自船に戻り、かぎ棒と腰たもとを船上に置き、浮標につかまって休憩したのち、浮標を自船と第1達丸との間の海面に残し、同時54分再び潜水して両船の北東方に延びた錨索を伝い、潜水地点を示さないまま錨まで進み、両錨が絡んでいないかどうかを確かめて浮上途中、前示のとおり、頭部に宝来丸の推進器翼が接触した。
その結果、宝来丸は損傷がなかったが、B潜水者(昭和28年4月4日生)は脳挫傷により死亡した。

(原因)
本件潜水者死亡は、塩屋埼北東方沖合のうに漁の漁場において、操業を終えて帰途に就く第八宝来丸が、付近でまだ素潜りしている潜水者の所在に対する確認が不十分で、潜水水域を発進したことによって発生したが、潜水者が、浮標を海面に浮かべるなどして潜水地点を示さなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、塩屋埼北東方沖合のうに漁の漁場において、操業を終えて帰途に就く場合、付近でまだ素潜りしている潜水者の所在が分からなかったから、同潜水者の浮上を待つなどして所在を確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、潜水水域が左舷前方の僚船の船尾付近で浮標が同船の陰に隠れているものと思い、潜水者の浮上を待つなどして所在を確認しなかった職務上の過失により、潜水水域を発進し、浮上してきた同潜水者との接触を招き、脳挫傷を負わせて死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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