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1998年(平成10年)

平成10年横審第4号
    件名
プレジャーボート630乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年10月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、半間俊士、長浜義昭
    理事官
西田克史

    受審人
A 職名:630船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
乗組員1人溺水により死亡

    原因
落水防止の安全措置不十分(セール収納作業時)

    主文
本件乗組員死亡は、セール収納作業時の落水防止に関する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月9日10時40分
東京湾海獺島(あしかじま)沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート630
総トン数 10トン
全長 13.08メートル
幅 3.98メートル
深さ 1.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 17キロワット
3 事実の経過
630は、中古購入されたスワン43型と称されるFRP製プレジャーヨットで、オーナー兼船長のA受審人及び乗組員としてBほか8人が乗り組み、横浜市小柴埼沖と海獺島間往復のヨットレースに参加する目的で、キール下部の深さ2.30メートルをもって、平成9年11月9日08時00分京浜港横浜区内の横浜市民ヨットハーバーを発し、小柴埼東方1.2海里のスタート地点に向かった。
ところで、630の上甲板構造は、中央部やや前方にキャビンがあり、その中央付近に甲板上高さ約15メートルのマストを備え、後方にキャビンに通じるコンパニオンウェイとコックピットが設けられており、船首から船尾にわたり両舷側に設置されたスタンションにステンレスワイヤーロープのライフラインを張り巡らし、チーク材が甲板に張られ、コックピットに舵輪を備えていて、A受審人が舵輪後方に位置して操舵操船及び帆走の指揮に当たっていた。
B乗組員は、平成8年4月に横浜市民ヨットハーバー管理委員会の主催するヨット教室に入会し、630で訓練を受けたのち、引き続き乗組員として同船に乗り組み、クルージングを数多く経験していたが、ヨットレースの経験か少なかった。また、同人は、平素A受審人からセールの収納作業中は甲板上に降ろされたセールやシートの上に乗らないよう指導されていた。
こうして、A受審人は、08時40分ごろスタート地点付近に至り、メインセールとジブセールを展帆して帆走状態とし、スタートに合わせるため付近を周航したのち、09時00分スタートし、その後ジブセールをフット幅約10メートルの高さ約15メートルのスピンネーカーに替えて横須賀港内を南東進し、10時16分半観音埼灯台から101度(真方位、以下同じ。)430メートルの地点に達したとき、針路を196度に定め、折からの風力5の北北東風を左舷船尾から受け、7.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、南下するに従い時折風力6の突風が吹くようになったが、追風の状態で帆走していたことからこのことに気付かぬまま続航し、10時38分少し過ぎ海獺島灯台から286度50メートルの、海獺島を反時計回りで回航する折り返し地点に達したので、B乗組員ほか2人にジブセールの展帆とスピンネーカーの収納作業を命じたが、海上は時化(しけ)膜様ではないので命綱と救命胴衣の着用は必要ないものと思い、同乗組員に対しそれらを着用するよう指示するなど落水防止の安全措置をとらずに同作業に当たらせた。
A受審人は、ジブセールの展帆を終え、B乗組員とほかの2人の乗組員が甲板上でスピンネーカーの収納作業にかかったのを認め、スピンネーカーが甲板上に約3分の1ほど降ろされたころ突風が吹き、同作業がメインセールの風下側ご容易に行えるよう右転をしてアビームからの風を受けながらポートタックで帆走し、約20度の右舷傾斜の状況のなか同作業が続けられ、しばらくして前方に釣船を認めたのでこれを避けるため左転をした。
一方、B乗組員は、船体傾斜が伴い突風が吹くなかでの収納作業であったが、命綱と救命胴衣を着用せずに同作業を続け、スピンネーカーか残り約3メートルまで降ろされたものの、時折吹く突風のため収納に手間取り、ほかの2人とともにスピンネーカーを直接手で掴(つか)んで引き降ろすこととし、そのとき、不用意に甲板上に降ろされているスピンネーカーの上に乗り、同作業を再開した。
A受審人は、針路をほぼ90度に向け、左舷側から風を受けるようにしてポートタックで帆走中、10時40分海獺島灯台から155度250メートルの地点に達したとき、突風が吹いてスピンネーカーの展帆部分と甲板上に降ろされた部分に風がはらみ、収納作業中の3人のうち、1人はとっさにスピンネーカー上から離れたものの、B乗組員ともう1人の乗組員が吹き流されたスピンネーカーに乗せられて右舷方に落水した。
当時、天候は晴で風力5の北北東風と時折突風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、B乗組員ともう1人の乗組員が落水したのに気付いて救助活動を開始し、フェンダーと救命浮環を投下し、B乗組員が海上に流れ出たスピンネーカーのシートに掴まり、顔に水をかぶりながら630に引きずられる状態になっていたので手を離すよう大声で指示したが、630の行きあしを止めないまましばらくの間引きずり、その後事故に気付いたヨットレースの警戒船朝風が付近にいた釣船の協力を得て海上に浮いていた同乗組員を救助したのを認め、救命浮環に掴まっていたもう1人の乗組員を救助した。
その結果、B乗組員(昭和26年11月15日生)は、朝風によって横須賀港久里浜に急送され、救急車により横須賀市内の病院に搬入されたが、3日後に溺(でき)水により死亡した。

(原因)
本件乗組員死亡は、東京湾海獺島沖合において、ヨットレース中、スピンネーカーの収納作業を行う際、落水防止の安全措置が不十分で、スピンネーカーが突風にあおられ、同作業中の乗組員が落水したことによって発生したものである。
落水防止の安全措置が不十分であったのは、船長が乗組員に対し命綱及び救命胴衣の着用について指示しなかったことと、乗組員が収納中のスピンネーカーの上に乗って収納作業を行ったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、東京湾海獺島沖合において、ヨットレース中、スピンネーカーの収納作業を乗組員に行わせる場合、甲板上に降ろされたスピンネーカーの上に不用意に乗った乗組員が、突風が吹けばスピンネーカーに乗せられて落水するおそれがあったから、同作業を行う乗組員に対し命綱と救命胴衣の着用を指示するなど落水防止の安全措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、海上は時化模様ではないので命綱と救命胴衣の着用は必要ないものと思い、落水防止の安全措置をとらなかった職務上の過失により、収納中のスピンネーカーの甲板上に降ろされた部分の上で作業に当たっていた乗組員2人が突風の吹き込みによりスピンネーカーに乗せられて落水し、うちB乗組員が溺水により死亡するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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