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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月7日18時35分ごろ 北海道小樽港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十五満丸 総トン数 127トン 全長 36.07メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 882キロワット 3 事実の経過 第三十五満丸(以下「満丸」という。)は、長船尾楼型の鋼製漁船で、A受審人及び甲板員Bほか9人が乗り組み、利尻島南西方の漁場において、えびかご漁に従事したのち、平成9年11月7日01時30分小樽港高島北防波堤灯台から真方位338度530メートルの地点の小樽港高島岸壁に、中央部及び船尾部に幅0.4メートル、外径2メートルのタイヤフェンダー各1個をそれぞれ配して右舷付けで係留し、02時30分水湯げを終え、船首1.8メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、出港予定時刻を同日21時00分として時間調整と乗組員の休養を兼ねてそれまで係留したまま待機することとした。 ところで、満丸の右舷には、揚かごを行うために、船体中央部付近の船尾楼前端から船首側へ2メートルのところに、ビットを兼ねた支柱が設けられ、その船首側のブルワークが2メートルの長さで、ブルワーク頂部から80センチメートル(以下「センチ」という。)下方の漁労甲板面に合わせて切り開けられ、その下端に横ローラが、前端に縦ローラがそれぞれ設けられていた。また、同支柱より船尾側のブルワークには、20センチ幅のブルワーク頂部から約30センチ下方内側に、上部をモルタルで滑り止め加工した幅約70センチで踏みしろ約50センチの足場を兼用するブラケット囲いが設けられ、ブルワーク上には、同支柱の船尾側約1メートルのところから船尾楼前端まで、ブルワークに沿わせてハンドレールが取り付けられていた。そして、乗組員は、船外との通行を同支柱とハンドレールとの間のブルワークを越えて行っていた。 A受審人は、満丸を係留したとき、うねりで船体が上下動していたが岸壁と舷側との間がさほど開いておらず、岸壁面とブルワーク頂部との高低差も少なかったことから通行に支障はないものと思い、船と岸壁との間に歩み板を設置のうえ、夜間は照明を施すなどの、船外との通行の安全を確保する措置をとらなかった。 A受審人は、水揚げ終了後間もなく下船して自宅で休養をとったのち、日没時刻を過ぎた同日18時30分ごろ帰船したが、右舷側のブルワーク周辺を照らすことができる操舵室前部壁の作業灯を点灯することなく、出港に備えてジャイロコンパスを始動し、操舵室の掃除を始めた。 B甲板員は、水揚げ終了後、下船して陸上で所用を済ませ、18時90分係留地点に近い商店で買い物を終えたのち帰船し、乗船しようとして照明がなく足元が暗くて見えにくい状況のもとで、横ローラの船尾側支柱付近のブルワーク頂部舷側に足をかけたところ、足を踏み外すかして、19時35分ごろ前示係留地点において、舷側と岸壁の間から海中に転落した。 当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、防波堤入口から侵入する弱いうねりがあり、潮候は上げ潮の中央期で、日没時刻は16時21分であった。 19時少し前帰船した機関員が前示支柱付近の漁労申板上に置かれてあったビニール製買物袋と洗面道具入れを認め、このことをA受審人に報告した。 19時ごろA受審人は、置かれていた洗面道具入れからB甲板員が海中に転落したものと判断し、甲板上の作業灯を点灯のうえ、機関員とともにB甲板員の捜索を開始し、20時少し前その後捜索に加わった甲板員が右舷船首部付近の海面に浮いていたB甲板員(昭和6年4月21日生)を発見し、同人は引き上げられて救急車で病院に搬送されたが、溺死したものと診断された。
(原因) 本件乗組員死亡は、夜間、小樽港高島岸壁に右舷付けで係留して出航待機中、船外との通行の安全を確保する措置が不十分で、帰船した乗組員が舷側からブルワークを越えて船内に乗り込もうとした際、海中に転落したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、時間調整と乗組員の休養を兼ねて小樽港高島岸壁に係留し、出航待機をする場合、乗下船する乗組員が海中に転落しないよう、歩み板を設置したうえ夜間は照明を施すなど、船外との通行の安全を確保する措置をとるべき注意義務 あった。しかるに、同受審人は、岸壁と舷側との間がさほど開いておらず、岸壁面とブルワーク頂部との高低差も少ないので通行に支障はないものと思い、歩み板を設置して夜間は照明を施すなど、船外との通行の安全を確保する措置をとらなかった職務上の過失により、帰船して船内に乗り込もうとした乗組員が舷側から海中に転落する事態を招き、同乗組員を溺死させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |