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1998年(平成10年)

平成9年函審第75号
    件名
漁船第五やまさん丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年10月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、米田裕、古川隆一
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第五やまさん丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第五やまさん丸漁労長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
甲板員1人が溺水による死亡

    原因
作業方法が不適切(岩石の海中投棄)

    主文
本件乗組員死亡は、不要な岩石を海中投棄する際、作業方法が不適切あったことと、作業用救命胴衣を着用しなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月28日13時05分
北海道利尻島南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五やまさん丸
総トン数 160トン
全長 38.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 860キロワット
3 事実の経過
第五やまさん丸(以下「やまさん丸」という。)は、全通二層甲板の船首船橋型鋼製漁船で、A及びB両受審人並びに甲板員Cほか16人が乗り組み、沖合底引き網漁の目的をもって、船首1.4メートル船尾2.6メートルの喫水で、平成9年5月28日03時10分稚内港を発し、利尻島南西方沖合の漁場で左かけ廻し方式によって操業を重ね、同日12時40分ごろ3回目の操業を終えた。
ところで、やまさん丸は、上甲板の中央部付近から船尾側が漁労甲板で、そのやや船首寄りに漁獲物を第二甲板の漁獲物処理場に落とし込む油圧ハッチが設備され、その船尾寄りの両舷側から2.3メートルのところにインナーブルワークが設けられていて、船尾端中央部に傾斜角が約40度で幅2.5メートルのスリップウェイがあり、スリップウェイの最前部に、固定式の下部横ローラが、その上方約60センチメートルのところに後方に移動可能な上部横ローラがそれぞれスリップウェイの幅で両舷のインナーブルワークに渡して設けられていた。
また、第二甲板にば油圧ハッチ下に長さ0.9メートル、幅1.5メートルの魚溜めが設けられ、その船首側の長さ10.5メートル、幅7.4メートルの区画が漁獲物処理場となっていた。
更に、ウインチとしてトロールウインチ、荷役ウインチのぼか漁労用補助ウインチとして、1トン巻きの電動ホイスト(以下「ホイスト」という。)が漁労甲板中央部にある鳥居型マストの両脚部付近に設置され、ホイストから同マスト船尾側デリックブームの頂部のブロックを通して漁労用巻き上げ索が導かれていた。
また、漁獲物の陸湯げなどに使用するスリングは、網モッコと称する一辺が約3メートルの正方形で12センチメートル目の化学繊維製網地で、その四隅にそれぞれの長さが約1.2メートル直径20ミリメートルの同繊維製の手棒と称する吊りロープが取り付けられたものを備え、その吊り手側にそれぞれ約300ミリメートルの長さのアイスプライス(以下「アイ」という。)が施されていた。
やまさん丸においては、網に入ったまま揚収された不要なゴミなどは、漁獲物処理場に据え付けたベルトコンベアーに乗せてダストシュートまで運び、そこから船外に投棄していたがダストシュートから投棄不可能な数10キログラムもあるような岩石などについては、次の揚網の前に適宜手空きの乗組員数人が、スリングに入れてホイストで第二甲板から漁労甲板に引き揚げ、スリップウェイ最前部付近に運んだのち、ホイストの巻き上げ索先端のフックに掛けたスリングの吊りロープ4本のうち、まず1本をフックから外してインナーブルワークに設けられたストッパにとったあと、残りの吊りロープ3本をフックから外して、スリップウェイから海中に投棄していた。
A受審人は、漁獲物処理場において、3回目の操業で漁獲した魚の選別作業を甲板員とともに行っていたとき、魚溜めに魚と一緒に揚がった重量約50キログラムの岩石が5個残っているのを認め、同作業が終われば甲板員がこれらの投棄作業を行うことを知っていたが、同作業はこれまで何回となく誰もが行ってきているので特に危険なことはなく、海中に転落するようなことはないと思い、これを担当する甲板員に対して同作業を行うときは、作業用救命衣を着用したうえ、事前に漁労作業の総指揮を執っている漁労長に報告するよう指示することなく、同選別作業がほほ終わったころ昼食をとるため食堂に赴いた。
B受審人は、平素から、甲板員が不要な岩石などをスリップウェイから投棄することを知っていたが、いつもの方法で作業すれば特に危険なことはないものと思い、同作業を行うときの玉掛け担当者を決めていなかったうえ、甲板員に対し、同作業を行う際は事前に報告するよう、また、投棄する際にはスリングの吊りロープ1本を必ずストッパーにとるよう指導していなかった。
やまさん丸は、12時54分天売島灯台から301度(真方位、以下同じ。)26.2海里の地点で、B受審人が船橋において指揮に当たり、4回目の操業のため樽を投入した後、全長2,500メートルの出綱と称する網の左翼の引き綱の送出を開始し、13時03分少し過ぎ網の投入を終え、機関を約11ノットの全速力にかけ、出綱と同じ長さの入り綱と称する右翼の引き綱の送出を開始した。
一方、C甲板員は、網の投入が終わったので岩石の投棄を行うこととし、そのことを漁労長に報告しないまま、作業用救命衣を着用しないで、自らは玉掛けを担当し、ホイストの操作に甲板員1人を配し、岩石を1個ずつスリングに入れて左舷側のホイストから導いた漁労用巻き上げ索で作業甲板から漁労甲板に引き揚げたのち、岩石5個をまとめて1枚のスリングに入れ、上部横ローラの船尾側を替わして導いた同巻き上げ索のフックにスリングの4本の吊りロープのアイを掛け、ホイストを巻いて船尾端まで引きずって移動させ、岩石5個のうち3個がスリップウェイ側2個が漁労甲板側にそれぞれ分かれた状態でホイストを停止させた。そして、C甲板員は、吊りロープの1本を同フックに残して他の3本を同フックから外し、そのうちの2本を手放したあと、吊りロープの1本をすぐ近くのインナーブルワークにあるストッパー用のロープにとることなく、ストッパーをとる代わりにその吊りロープを上部横ローラに上部外側から1回巻いてそのアイを右手で握って保待し、ホイストの巻き上げ索を緩めさせたところ、スリップウェイ側の3個の岩石が滑り落ちるのに引っ張られて漁労甲板上側の岩石2個がスリップウェイに転がり落ち、その勢いでスリングがスリップウェイを下方に滑り、13時05分天売島灯台から300度25.6海里の地点において、吊りロープのアイを握っていたC甲板員が張力がかかった同ロープに強く引かれ、同ローラ越しにスリップウェイに落ち、そのまま海中に転落した。
当時、天候は晴で、風力1の南西風が吹き、海上は平穏であった。
B受審人は、ホイスト操作中の甲板員から転落の知らせを聞き、引き綱を送出しながら反転のうえ、海面に浮いたC甲板員に接近して救助しようとしたが、間もなく同甲板員は、海中に没した。
その後僚船とともに捜索を続けたところ、17時38分前示転落地点付近において、捜索中の僚船によってC甲板員(昭和24年9月6日生)が遺体で発見され、のち溺水による死亡と検案された。

(原因)
本件乗組員死亡は、北海道利尻島南西方沖合において、かけ廻し式底引き網漁に従事中、揚収した不要な岩石をスリングを使用してスリップウェイから海中投棄を行うにあたり、作業方法が不適切で、吊りロープをストッパーに係止せずに手で保持していた乗組員が、スリングの巻き上げ索を緩めた際、同スリング内の岩石がスリップウェイの下方に移動し、吊りロープに引っ張られて海中に転落したことと、同乗組員が作業用救命衣を着用していなかったこととによって発生したものである。
前示の措置が適切でなかったのは、船長が、乗組員に対して投棄作業を行うときには漁労長に報告するとともに作業用救命衣を着用するよう指示しなかったこと、漁労長が、投棄作業をするときの玉掛け担当者を決めていなかったばかりか、乗組員に対し同作業を行うときは事前に報告するとともに、投棄する際にはスリングの吊りロープを必ずストッパーに係止するよう指導していなかったこと及び玉掛けを担当した乗組員が作業用救命衣を着用しなかったばかりか、投棄する際に吊りロープをストッパーに係止しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、不要な岩石を次の揚網までに乗組員に漁労甲板船尾端のスリップウェイから投棄させる場合、スリップウェイが傾斜路で海中に転落のおそれのある場所であったから、投棄作業を行う乗組員に対して同作業を行うときは作業用救命衣を着用するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、投棄作業は誰もが行っているので危険はなく、海中に転落することはないと思い、同指示を行わなかった職務上の過失により、作業用救命衣を着用しないで同作業を行っだ乗組員が海中に転落した際、短時間で海中に没する事態を招き、溺水により死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、乗組員を不要な岩石の投棄作業に当たらせる場合、玉卦けを担当する乗組員に対し、スリップウェイから投棄する際にはスリングの吊りロープを手で保持せずに必ずストッパーに係止するよう指導すべき注意義務があった。しかるに、同人は、いつも行っている方法で作業すれば特に危険はないものと思い、ストッパーに係止するよう指導しなかった職務上の過失により、玉掛けを担当した乗組員が吊りロープをストッパーに係止せずに手で保持し、吊りロープに引っ張られで海中に転落する事態を招き、溺水によって死亡させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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