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1998年(平成10年)

平成10年那審第17号
    件名
旅客船えめらるどくいーん旅客負傷事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:えめらるどくいーん船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
旅客1人が5箇月の入院加療を要する右下腿骨折、同1人が2週間の入院及び3週間の通院加療を要する肋骨骨折及び右膝挫創、同1人が2箇月の通院加療を要する腰椎捻挫、同1人が2箇月の通院加療を要する肋骨骨折、同1人が通院加療を要する右胸打撲、同1人が通院加療を要する右耳打撲及び左下腿打撲、同1人が通院加療を要する右肩打撲

    原因
操船不適切(うねりによる衝撃及び動揺を緩和する減速措置)

    主文
本件旅客負傷は、うねりによる衝撃及び動揺を緩和する減速措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月20日09時30分
沖縄県西表島仲間港沖合
2 船舶の要目
船種船名 旅客船えめらるどくいーん
総トン数 52トン
全長 27.10メートル
幅 4.98メートル
深さ 2.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
3 事実の経過
えめらるどくいーんは、航行区域を平水区域とし、沖縄県石垣港と同県西表島仲間港との間で定時運航される旅客定員107人の一層甲板型FRP製旅客船で、船首部に長さ4.0メートルの前部客室、これに続く船体中央部に長さ13.0メートルの中央部客室が設けられ、談話室形式の前部客室には前側及び左右舷の壁に添ってソファーが内向きに、更に中央にドーナツ状のソファーが外向きにそれぞれ設置され、中央部客室には前向きの2人掛けもしくは1人掛けの座席が左右舷に接して各1列、中央線上に1列設置され、各ソファー及び座席にはシートベルトはなかったが、手すりが各所に設けられていた。中央部客室前部上方に船橋が設けられ、同客室の後方が遊歩甲板となっていた。
こうして、えめらるどくいーんは、A受審人ほか機関長が乗り組み、旅客96人を乗せ、船首0.6メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成9年10月20日08時45分同日往航の第1便として石垣港を発し、仲間港に向かった。
ところで、当時フィリピンルソン島北側にゆっくり北東進する中型で強い台風第23号があり、石垣島地方の沿岸海域ではうねりがある旨の波浪注意報が前日から発表されていたところ、A受審人は、このことを知っていたが、石垣港における風速、波高ともに運航中止基準以下であったこと、また会社からも特段の指示がなかったことから、運航することについてはなんら懸念を抱かずに前示のとおり発航したものであった。
A受審人は、離岸後船内放送要領に基づいて船の動揺に対する旅客の注意を促すため放送を行い、操舵室の運転席に腰掛けて操船に当たり、石垣港防波堤入口を通過したころ機関を毎分回転数2,000の約22ノットの全速力前進にかけ、その後台風第23号によって起こった南南西方からのうねりが近づくのを認めたときその都度速力をわずかに加減したものの、航行海域がさんご礁地帯内であり、また南方に黒島、新城島などが存在していたことから、うねりの影響をあまり受けずに竹富島南水路を経てこれに続く大原航路(通称)を西行した。
09時27分A受審人は、大原航路第21号立標(以下、立標の名称については「大原航路」を省略する。)を左舷至近に見て通過したとき、針路を第23号立標を正船首少し右方に見る267度(真方位、以下同じ。)に定め、機関をそれまでと同様に全速力前進にかけ、22.0ノットの対地速力で続航し、そのころ南方には新城島下地及び同島から西方に延びた波が砕けるさんご礁地帯が認められたものの、南西方ないし南南西方には島もさんご礁もない外洋に開けた海域に入ったことから、うねりを頻繁に左舷船首に受け、速力と相まって船体の動揺が大きくなり始め、うねりは外洋から水深の浅い同海域に押し寄せるうち一段と高まる状況で、ひときわ高いうねりを受けたときに船体が強い衝撃を受け、激しく動揺するおそれがあった。
しかしながら、A受審人は、わずかな減速で大丈夫と思い、旅客の注意を促す船内放送を再度行うことも、大幅に減速することもなく、うねりを左舷船首に認めたときには機関を毎分回転数1,800の約19.0ノットに減ずるにとどめ、このようなわずかな減速を繰り返しながら進行した。
09時30分少し前A受審人は、そろそろ第23号立標の少し北側に向けて転針しようと考えていたところ、左舷船首にひときわ高いうねりを認め、危険を感じて機関を極微速力前進に減じたが、間に合わず、09時30分仲間港南防波堤灯台から131度1.7海里の地点において、船体が強い衝撃を受けるとともに激しく動揺し、前部客室及び中央部客室の旅客多数が転倒し、もしくは座席から投げ出された。
当時、天候は曇で風力3の東北東風が吹き、台風によって起こった南南西方からのうねりがあり、潮候は高潮時であった。
A受審人は、船体が激しく動揺した直後旅客が負傷した旨を知らされたが、仲間港間近であったことからそのまま航行を続けて同港に着け、救急車手配など事後の措置に当たった。
その結果、前部客室左舷ソファーに腰掛けていた旅客Bが5箇月の入院加療を要する右下腿骨折を、中央部客室前部左舷座席に腰掛けていた同Cが2週間の入院及び3週間の通院加療をを要する肋骨骨折及び右膝挫創を、中央部客室後部中央座席に腰掛けていた同Dが2箇月の通院加療を要する腰椎捻挫を、前部客室前側ソファーに腰掛けていた同Eが2箇月の通院加療を要する肋骨骨折を、中央部客室前部左舷座席に腰掛けていた同Fが通院加療を要する右胸打撲を、前部客室中央ソファーに腰掛けていた同Gが通院加療を要する右耳打撲及び左下腿打撲を、並びに同Hが通院加療を要する右肩打撲をそれぞれ負った。

(原因)
本件旅客負傷は、台風によって起こった南南西方からのうねりが沖縄県石垣島地方の沿岸海域に押し寄せ、波浪注意報が発表されている状況の下、多数の旅客を乗せて石垣港から西表島仲間港に向けて大原航路(通称)を高速力で西行中、うねりが頻繁に押し寄せ、かつ高まる海域に入った際、うねりによる衝撃及び動揺を緩和する減速措置が不十分で、ひときわ高いうねりを左舷船首から受けたとき、船体が強い衝撃を受けるとともに激しく動揺し、客室内で旅客が転倒もしくは座席から投げ出されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、台風によって起こった南南西方からのうねりが石垣島地方の沿岸海域に押し寄せ、波浪注意報が発表されている状況の下、多数の旅客を乗せて石垣港から西表島仲間港に向けて大原航路(通称)を高速力で西行中、うねりが頻繁に押し寄せ、かつ高まる海域に入った場合、うねりによる衝撃及び動揺を緩和できるよう、大幅に減速すべき注意義務があった。しかるに、同人は、わずかな減速で大丈夫と思い、大幅に減速しなかった職務上の過失により、ひときわ高いうねりを左舷船首から受けたとき、船体が強い衝撃を受けるとともに激しく動揺して、客室で旅客が転倒もしくは座席から投げ出されるという事態を招き、旅客7人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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