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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年2月11日06時45分 三重県三木里港沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第百十八鳳生丸 総トン数 499トン 全長 68.80メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 第百十八鳳生丸(以下「鳳生丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製砂利運搬船で、船体中央部に長さ24メートル幅10メートルの単層船倉を有し、船倉前方の上甲板にジブの長さ26.7メートル直巻能力15トンの荷役用全旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)が装備されていた。 クレーンの操作室は、クレーンハウスの前部右隅で、ジブの右側に位置し、上下、左右、前方及び右後方の視野が十分に確保されていた。ジフは、直径24ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鋼製俯(ふ)仰索により起伏し、バケットは、直径34ミリの鋼製支持索により上下し、直径34ミリの鋼製開閉索により開閉し、直径12ミリの鋼製振れ止め索により振れを抑えていた。振れ止め索は、ジブ根付け部より3メートル上方のところからジブの内側に導かれ、ジブ内のレールを移動する重量600キログラムの振れ止め用重錘(すい)に連結し、ジブに仰角があれば同重錘の重力で常時緊張するようになっていた。 荷役用バケットは、砂利の揚げ積みに使用する自重7.8トンのラッチアームバケットと石材の揚げ積みに使用する自重10トンのオレンジバケット各1台があり、積荷に応じてその都度交換使用していた。使用しないバケットは、右舷前部上甲板に設置されたバケット格納用台座(以下「台座」という。)に格納しておき、使用中のバケットは、出航する際に、船倉内左舷側前部に格納してハッチ蓋(ふた)を閉め、同蓋の左舷側前部に設けられた切り込みから支持索、開閉索及び振れ止め索を倉外に出したうえジブを船尾方に倒し、その先端をハッチ後部にある支持台に固定していた。 鳳生丸は、A受審人、一等機関士Bほか3人が乗り組み、空倉のまま、石材積みの目的で、船首2.4メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成9年2月10日10時45分京浜港を発し、翌11日04時00分三重県三木里港沖合に達し、コスギ鼻灯台から真方位003度1,380メートルの地点で左舷錨を投じ、錨鎖4節を伸出し、作業灯を点じて甲板上を明るく照明し、着岸時刻調整のため錨泊した。 A受審人は、クレーンに装着されたラッチアームバケットを石材積みに備えてオレンジバケットと交換することとし、06時30分乗組員全員で、その交換作業を開始した。 ところで、バケット交換作業は、弛(ゆる)んだ状態の振れ止め索をラッチアームバケットから取り外し、オレンジバケットに連結したのち、ラッチアームバケット位置まで右旋回する際に振れ止め索がクレーン下部駆動軸へ巻き込まれるのを防止するために同索の中間部を直径10ミリの合成繊維製索(以下「仮止め索」という。)で甲板上の構造物に固縛し、ジブを起こしてハッチ蓋を開け、ラッチアームバケットを吊り上げて船倉内右舷側前部に仮置きし、一度ジブを倒して振れ止め索の緊張を弛め、仮止め索を解いて再びジブを起こし、支持索のみを同バケットから取り外して台座まで左旋回し、オレンジバケットに支持索を連結して吊り上げ、船倉内右舷側前部のラッチアームバケットのそばに仮置きし、再びラッチアームバケットに支持索を付け替えて吊り上げ、左旋回して台座け格納し、支持索と開閉索をオレンジバケットに付け替えて終了する計画であった。 こうしてA受審人は、乗組員全員がバケット交換作業に慣れていたので、平素の作業手順に沿った進行を各乗組員に委ねながら作業指揮にあたり、B一等機関士が振れ止め索をラッチアームバケットから取り外し、甲板上高さ1.2メートルにあるオレンジバケットの金具に連結したので、自ら右舷側船倉前上甲板に設置された甲板上高さ1.2メートルの鋼製物入れの金具に、同索の中間を仮止め索で3巻きほどして固縛したのち、操作室でクレーン操作にあたり、ジブを起こし、ラッチアームバケットを吊り上げて船倉内右舷側に移動したが、仮止め索を解くのを失念したまま、同バケットから支持索を取り外したB一等機関士が送る合図に従って、台座まで左旋回した。 A受審人は、他の乗組員がオレンジバケットに支持索を取り付けたのを見て、同バケットを吊り上げることとしたものの、台座まで左旋回したことにより、振れ止め索が仮止め索により中間で鋭角に屈折した状態となっていることを操作室の右舷側窓から認めることができる状況であったが、交換作業に慣れたB一等機関土が手信号により同バケット吊り上げの合図を行っているので、平素の作業手順どおり進行しているものと思い、自ら同作業の安全確認を十分に行わず、振れ止め索が鋭角に屈折し、緊張する状況になっていたことに気付かなかった。 また、A受審人は、クレーンハウスとオレンジバケットとの間で、ジフ直下の、中間が仮止め索により屈折した振れ止め索の内側に入って合図を行っているB一等機関士に安全な場所に避難するよう指示することもなく、同人の合図に従って同バケットの吊り上げを開始した。 A受審人は、オレンジバケットを甲板上0.5メートルまで吊り上げて一旦(いったん)停止したのち、甲板上2メートルの高さまで吊り上げたところ、06時45分前示錨泊地点において、振れ止め索に働いた張力により仮止め索が突然切断し、B一等機関士が反発した振れ止め索に跳ねられ、保護帽が脱げた状態で右舷船首係船機に強く打ち付けられた。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、海上は穏やかで、日出時は06時44分であった。 その結果、B一等機関士(昭和27年4月5日生)は、頭部打撲により死亡した。
(原因) 本件乗組員死亡は、三重県三木里港沖合において錨泊中、クレーンのバケット交換作業を行う際、同作業に対する安全措置が不十分で、中間にとった仮止め索により振れ止め索が屈折した状態でバケットが吊り上げられ、同索に働いた張力で仮止め索が切断し、振れ止め索の内側にいた乗組員が、反発した同索に跳ねられ、付近の右舷船首係船機に強打されたことによって発生したものである。 交換作業の安全措置が不十分であったのは、作業指揮者としてクレーン操作中の船長が、中間にとった仮止め索により屈折した状態の振れ止め索の内側にいた乗組員を安全な場所に退去させなかったことと、振れ止め索の中間にとった仮止め索が解かれたかどうが確認しないまま、バケットを吊り上げたこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、三重県三木里港沖合において、錨泊してバケットの交換作業中、自らクレーン操作にあたり、バケットを吊り上げる場合、中間にとった仮止め索により振れ止め索が屈折した状態でバケットを吊り上げることのないよう、仮止め索が解かれたかどうが確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、合図を行っていた乗組員が同作業に慣れていたことから、平素の作業手順どおり作業が進行しているものと思い、仮止め索が解かれたかどうか確認しなかった職務上の過失により、中間にとった仮止め索により振れ止め索が屈折した状態でバケットを吊り上げ、振れ止め索に働いた張力により仮止め索が切断し、振れ止め索の内側にいた乗組員が反発した同索に跳ねられて右舷船首係船機に打ち付けられ、頭部打撲により死亡するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |