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1998年(平成10年)

平成10年函審第21号
    件名
漁船第37大吉丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年8月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川?一
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第37大吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
甲板員1人溺水により死亡

    原因
海中転落防止についての指示不十分

    主文
本件乗組員死亡は、乗組員に対する海中転落防止についての指示が不十分であったこと及び作業用救命衣の着用方法が不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月7日23時23分
北海道白老港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第37大吉丸
総トン数 9.98トン
登録長 13.00メートル
幅 3.15メートル
深さ 1.09メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 60
3 事実の経過
第37大吉丸(以下「大吉丸」という。)は、えびかご漁業に従事する一層甲板型のFRP製漁船で、A受審人と長男で甲板員のBが乗り組み、操業の目的をもって、船首0.7メートル船尾1.6メートルの喫水で、平成9年7月7日23時05分北海道白老港を発し、同港の東南東方沖合の漁場に向かった。
23時10分A受審人は、アヨロ鼻灯台から055.5度(真方位、以下同じ。)6.5海里の地点で、針路を116度に定め、機関を全速力にかけ、9.0ノットの速力で自動操舵によって進行した。
ところで、大吉丸は、船体中央部付近のブルワークの高さが甲板上約50センチメートル(以下「センチ」という。)で、その頂部の幅が約25センチあり、同頂部外側に高さと幅がそれぞれ約10センチのコーミングが設けられ、その上に、右舷側が船首部から船尾部まで、左舷側が船体中央部付近から船尾部までの範囲に、高さが約30センチの差板がそれぞれ装着され、漁具の揚収は左舷側の差板がないところで行われるようになっており、船内には便所の設備がなかった。
A受審人は、1人で操船に従事し、自動操舵によって進行していたとき、発航時から気になっていた海上がしけ始めたので、操業を断念して引き返すこととし、操舵室後部の寝台で休息していたB甲板員にその旨を伝えると、同人が小用を足したい旨を申し出たことから、同日23時22分半アヨロ鼻灯台から068.5度7.6海里の地点で、同じ針路のまま5.0ノットの半速力に減じ、手動操舵に切り替え、左右舷に5度ばかりずつ動揺しながら進行し、小用が終わるのを待った。
B甲板員は、ゴム長靴を履き、ジャケット型の作業用救命衣(以下「救命衣」という。)を着用したが、救命衣を適切に着用することなく、救命衣の前側ジッパーを完全に締めないまま操舵室左舷側の出入口から外に出て、左舷側船体中央部付近の、ちょうど差板のないところのブルワーク上に立って用を足そうとした。
A受審人は、操舵室左舷側の窓からB甲板員がブルワークの上に立ったのを認め、船体の動揺で海中に転落するおそれがあったが、波が気になり、同人に対して船尾寄りの安全な甲板上で用を足すよう厳しく指示することなく、同人に「危ないぞ。」と声をかけただけで、波の来る右舷側に目を向けた。
B甲板員は、ブルワークの上で用を足していたところ、23時23分アヨロ鼻灯台から069度7.7海里の地点で、船体の動揺で体勢を崩し、海中に転落した。
当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、海上には波高1メートルばかりの波浪があった。
A受審人は、右舷側に目を向けた直後、気になって左舷側窓からブルワーク中央付近を見たところ、B甲板員がいないので転落したと思い、左回頭をして間もなく同人を50メートルばかり前方に認め、船体の下に押し込まないよう、安全な風下側から接近したものの、船体が圧流されて同人から離れたので、救命浮環を投入したあと、同人が救命衣を着用していたので、まだ時間的に十分余裕があると思い、再度風下側から接近操船をやり直した。その間、泳ぎのできないB甲板員は、救命浮環を捕まえることができず、そうしているうちに完全に締めていなかった救命衣の前側ジッパーが外れて右腕が救命衣から外れ、左腕にかかった救命衣を抱えていたが間もなくうつぶせになって海水を飲み込み意識不明となった。
A受審人は、23時28分ごろB甲板員を甲板上に引き上げ、人工呼吸をするなどして救命の措置に当たりながら白老港に入航し、救急車で病院に搬送したが、同甲板員(昭和42年6月29日生)は溺(でき)水による死亡と検案された。

(原因)
本件乗組員死亡は、夜間、北海道白老港沖合を航行中、乗組員に対する海中転落防止についての指示が不十分で、ブルワーク上で小用を足していた乗組員が船体の動揺により体勢を崩して海中に転落したこと及び乗組員の救命衣の着用方法が不適切で、海中で救助を待つうちに救命衣が外れたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、北海道白老港沖合において、しけ模様の中を航行中、乗組員がブルワーク上から小用を足そうとするのを認めた場合、船体の動揺で海中に転落するおそれがあったから、甲板上の安全な場所で小用を足すよう厳しく指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、波が気になり、ただ危ないぞと声をかけただけで、甲板上の安全な場所で小用を足すよう厳しく指示しなかった職務上の過失により、ブルワーク上に立って小用を足そうとした乗組員の海中転落を招き、溺水により死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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