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1998年(平成10年)

平成9年横審第62号
    件名
貨物船第三十五三栄丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年3月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

川村和夫、原清澄、西山烝一
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第三十五三栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
一等機関土が胸部圧迫により死亡

    原因
クレーン運転時の安全措置不十分

    主文
本件乗組員死亡は、ジブクレーン運転時の安全措置が不十分で、同クレーンの旋回圏内に立ち入った乗組員が、同クレーンのバランスウエイトとハッチコーミングとの間に挟まれたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月9日09時20分
千葉県木更津港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三十五三栄丸
総トン数 562.78トン
全長 51.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット
3 事実の経過
第三十五三栄丸(以下「三栄丸」という。)は、全旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)1基を有する船尾船橋型の砂利運搬船で、A受審人、クレーン士兼一等機関士のB指定海難関係人及び一等機関士C(昭和18年11月25日生)ほか1人が乗り組み、山砂を積載する目的で、船首1.00メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、平成8年7月9日08時20分木更津港防波堤西灯台(以下「西灯台」という。)から080度(真方位、以下同じ。)2.8海里の木更津港内の岸壁を発し、同時50分西灯台から116度1.7海里の同港新港ふ頭に左舷付けで着岸したのち、積荷役を行うことになった。
ところで、三栄丸は、船体中央部に船倉1個を有し、上甲板に長さ17.60メートル幅7.50メートルの倉口を持ち、倉口の周囲に高さ60センチメートルのハッチコーミングを設け、ハッチコーミングの船首側から船体中心線上の前方1.90メートルの位置を中心とする円形台座上に、長さ5.30メートル幅3.10メートル高さ2.20メートルで、最大旋回半径3.70メートルのクレーン機械室を備えていた。
また、クレーン機械室は、前面中央部に長さ18.0メートルのジブブームを、左舷側の前部に運転席を、後部下方にバランスウエイトをそれぞれ備え付け、クレーンを旋回させると同室後部がハッチコーミングを越えて船倉上に約1.80メートルはみ出すようになっており、運転席からは前方の見通しは良いものの、右方の見通しは一部遮られ、左方は小窓のみで見通しが悪く、後方は全く見えない構造となっていた。
本船では、クレーンの旋回圏内への立ち入り防止措置として、クレーン機械室の船首方に防護柵が半円形状に設置されており、また、ハッチコーミングと同柵との間は自由に通行ができることから、その間に警戒漂識を塗装していたが、本件当時はこの塗装がほとんど消えた状態であった。
本船の積荷役は、陸上のシャベルカーを使用して山砂を岸壁から船倉内に投入して行われるので、同倉内の片側に偏って積まれる状態になり、荷役中は適宜クレーンを使用し、山砂が同倉内で均一になるようにトリミング(以下「積荷作業」という。)を行うことが必要であった。
こうして、A受審人は、着岸後すぐに積荷役を開始し、B指定海難関係人に積荷作業を行わせることにしたが、今まで折にふれクレーンの運転中には旋回圏内に立ち入らないように注意していたことや、乗組員も本船での経験が十分にあり、クレーン運転中に旋回圏内への立ち入りは危険であることを知っていたことから、運転中のクレーンの旋回圏内に立ち入ることはないものと思い、同指定海難関係人に対してハッチコーミングの船首側と防護柵との間に立入禁止ロープを張るなどの安全措置をとるように指示することなく、同作業を命じたあと、食堂で朝食を取ることにした。
B指定海難関係人は、A受審人の指示によりクレーンの運転を行うことにしたが、クレーンの運転中に乗組員が旋回圏内に立ち入ることはないものと思い、立入禁止ロープを張るなどの安全措置をとらないまま積荷作業を始め、09時20分少し前約500トンの山砂を積み込んだところで同作業を中断することとし、荷役の妨げとならないようクレーンを右舷側に振り出した。
一方、C一等機関士は、青色の雨合羽(あまがっぱ)上下を着用し、安全帽をかぶって安全靴を履いた服装で、上甲板上で荷役作業を見ていたが、たまたま入航接岸する船の係留作業を手伝ったあと、左舷側のクレーン機械室付近で雑用作業に従事していたところ、不用意にハッチコーミングの船首左舷側のクレーンの旋回圏内に立ち入り、09時20分旋回してきたクレーンのバランスウエイトとハッチコーミングとの間に胸部を挟まれた。
当時、天候は雨で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、朝食を終えて上甲板に出たとき、C一等機関士がハッチコーミングにぶら下がっているのに気付き、その後船倉内に転落したのを認め、直ちに病院に搬送したが、09時30分同一等機関士は胸部圧迫により死亡と検案された。

(原因)
本件乗組員死亡は、千葉県木更津港において、クレーンを使用して積荷作業を行う際、クレーン運転時の安全措置が不十分で、クレーンの旋回圏内に立ち入った乗組員が、旋回中のクレーンのバランスウエイトとハッチコーミングとの間に挟まれたことによって発生したものである。
クレーン運転時の安全措置が不十分であったのは、船長がクレーン士に対してクレーンの旋回圏内への立入禁止ロープの設置を指示しなかったことと、クレーン士が同旋回圏内への立入禁止ロープを設置しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、千葉県木更津港において、クレーンを使用して積荷作業を行わせる場合、運転中のクレーンの旋回圏内に乗組員が立ち入らないよう、クレーン士に対してハッチコーミングの船首側と防護柵との間に立入禁止ロープを張るなどの安全措置をとるように指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、運転中のクレーンの旋回圏内に立ち入ることはないものと思い、クレーン士に対して安全措置をとるように指示しなかった職務上の過失により、クレーンの旋回圏内に立ち入った乗組員に胸部圧迫を負わせ死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、千葉県木更津港において、積荷作業のためにクレーンの運転を行う際、クレーンの旋回圏内への立入禁止ロープを張るなどの安全措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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