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1998年(平成10年)

平成9年那審第55号
    件名
漁船トモ3共栄丸潜水者死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

井上卓、東晴二、長浜義昭
    理事官
河本和夫

    受審人
A 職名:トモ3共栄丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船長死亡

    原因
潜水作業上の安全措置不十分

    主文
本件潜水者死亡は、潜水作業上の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月2日23時
沖縄県桃原漁港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船トモ3共栄丸
総トン数 2.2トン
登録長 8.11メートル
幅 2.31メートル
深さ 0.80メートル
機関の種類 過給機付4サイクル・4シリンダディーゼル機関
出力 58キロワット
回転数 毎分3,000
3 事実の経過
トモ3共栄丸は、平成210月に進水した送気式潜水による漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央後部寄りに機関室囲壁を設け、同囲壁後部上方に操舵場所を備え、機関室には、中央部に主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した4LMS-DTZA型と称するディーゼル機関を備え、主機前方に潜水者に送気するための圧縮空気を作る空気圧縮機を装備し、主機動力取出軸前端に取り付けた電磁クラッチを介して駆動するようにし、作られた圧縮空気が同囲壁と右舷側との間の甲板上に設けられた容量60リットルの空気槽に入れられるようになっており、操舵場所近くに設けられた同クラッチのスイッチを操作することにより、同圧縮機の始動及び停止を行うようになっていた。
潜水者への送気系統は、空気槽に充填された圧縮空気が空気清浄器を経て、同器出口側にある2個の開閉コックのそれぞれに接続された長さ80メートルのゴム製送気ホースにより、潜水者の顔面全部を覆うように着けたゴム製マスク内に送気され、潜水者の排気及び余剰空気がマスク下部に設けられた排気弁から排出されるようになっており、1本のホースで1人が潜水できるようになっていた。
また、主機の燃料油系統は、容量約150リットルの燃料タンクに入れられた軽油が、紙製エレメントを内蔵した油水分離器を経て燃料移送ポンプによって吸引され、燃料フィルタを通ったのち各シリンダごとに設けられた燃料噴射ポンプに送られ、加圧されてシリンダ内に噴霧されるようになっていたが、平成6年ごろ油水分離器及びこし器等の整備が実施されたのち3年以上の間行われず、油水分離器のエレメントが目詰まり気味となって徐々に進行した。
ところで、本船は、船舶所有者のBが新造以来船長として乗り組み、機関の整備も同人が行うようにし、毎年2月から9月までの間には水深約3メートルの海底に潜水して水雲(もずく)漁を行い、同漁閑暇期の10月から翌年1月の夜間には、水深5メートルないし10メートルの海底で魚突き漁を行っていたもので、水雲漁を行うときには、収穫した水雲を船上で整理するために乗組員1人を船上に配置していたが、魚突き漁を行うときには、主機が自停して主機駆動の空気圧縮機から潜水者への送気が止まるなどして潜水者が窒息することのないよう、船上に連絡員を置くとか潜水者がレギュレーター付きの緊急用ボンベを携帯するなどの潜水作業上での安全措置を取っていなかった。
A受審人は、同5年4月甲板員として乗り組み、主に潜水作業に従事したが、潜水作業の知識が全くなかったことから、B船長から指導を受け、主機が自停するなどして送気が止まったときには、浮力調整のために腰に付けた鉛錘付きベルト(以下、「ウェイト」という。)を外して直ちに浮上するように常々指示され、ウェイトの取外しがしやすいように留め金具の調整を行っていた。
こうして、本船は、A受審人及びB船長が乗り組み、送気式潜水による魚突き漁業を行う目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同9年10月2日18時桃原漁港を発し、14.4ノットの速力にかけて5分間航走して同漁港から東方1.2海里の水深約10メートルの漁場に至って投錨した。
B船長は、主機を回転数毎分1,000として空気圧縮機の電磁クラッチを入れ、空気槽の圧力を2キログラム毎平方センチメートルに保持し、ウェットスーツ、運動靴、手袋、15キログラムのウェイト及びマスクを着用し、手に水中銃を持ち、18時20分ごろから船を無人とし、同様に装備したA受審人とともに1時間ほど潜水による魚突き漁を行い、30分ばかり船上で休憩するようにして繰り返し、22時50分ごろ4回目の潜水を前回同様に船を無人として開始した。
ところが、主機は、油水分離器のエレメントが著しく目詰まりし、23時少し前燃料噴射ポンプヘの送油が途切れて自停して空気圧縮機が運転されなくなり、間もなく空気槽の圧力が低下して潜水者への送気が弱まり、23時伊計島灯台から真方位184度3海里の地点において、A受審人は送気音が止まったのに気付いて直ちにウェイトを外して浮上中マスクを外し、海面に出たところで呼吸ができて事なきを得たが、B船長は送気停止に気付いてウェイトを外し浮上中に窒息した。
当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
浮上したA受審人は、23時5分ごろ意識不明で海面に浮かんでいたB船長を発見し、船上に引き揚げて人口呼吸を数分間実施したものの、意識が戻らないので直ちに病院に移送する必要があると考え、主機の始動を2、3度試みて再始動に成功したところで桃原漁港に急行し、病院に運んだが、B船長(昭和30年7月23日生、一級小型船舶操縦士免状受有)は翌3日死亡した。

(原因)
本件潜水者死亡は、送気式潜水による魚突き漁業を行う際、船に連絡員を置くとか、潜水者がレギュレーター付きの緊急用ボンベを携帯するなどの潜水作業上の安全措置が不十分で、船を無人として2人が潜水中、主機が自停して主機駆動の空気圧縮機から潜水者への送気が止まり、潜水者の1人が窒息したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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