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1998年(平成10年)

平成9年門審第91号
    件名
漁船第一伸栄丸漁船第二伸栄丸乗組員負傷事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年6月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

吉川進、伊藤實、西山烝一
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:第一伸栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第一伸栄丸漁労長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
機関員が右膝関節下部を切断

    原因
甲板作業(係船索の取外しの確認)不適切

    主文
本件乗組員負傷は、第一伸栄丸が第ニ伸栄丸から離舷する際、船尾係船索の取外しの確認が不十分で、第二伸栄丸の船尾係船策を引きながら発進し、第二伸栄丸の乗組員が同策に絡まれてビットに引き込まれたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月11日00時30分
大分港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一伸栄丸 漁船第二伸栄丸
総トン数 109トン 109トン
登録長 29.60メートル 29.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 625キロワット
回転数 毎分350 毎分350
3 事実の経過
第一伸栄丸及び第二伸栄丸は、いずれも昭和52年6月に進水した可変ピッチプロペラ装備の鋼製トロール漁船で、平成3年9月に中古船として購入され、第一伸栄丸が主船、同型の第二伸栄丸が従船として、2艘(そう)引きで沖合底引網漁業に従事していた。
両船は、船首楼付一層甲板型で、船首楼に操舵室を配置し、船首楼下部の上甲板が船尾まで続き、船尾の網案内ローラに向かって隆起しており、暴露作業甲板となっている船体中央の両舷に、主機又は補機の排気管や通風ダクト、漁網ウィンチ等を収めた構造物(以下「コンパニオン」という。)が設置され、その後部に門型の後部マスト、船尾部の両舷に網巻揚ワイヤリールが設置されていた。
両船には、操舵室横の船首楼外舷の両舷にボラードが設けられ、後部甲板の両舷にはブルワーク上に立ち上がる、頭部直径260ミリメートル(以下「ミリ」という。)のビットが330ミリの間隔をおいて2本組で据え付けられ、防舷物として大型トラックのタイヤを2本重ねにしたもの(以下「防舷タイヤ」という。)を操舵室横の船首楼外板に3組、コンパニオン横に1組、船尾のビット前後に各1組がそれぞれ吊り下げられていた。また、両船では、接舷する際、船体の動揺によって係船索が外れることのないよう、係船索を両船のビット間に掛けた後、係船補助具として、自動車のタイヤにロープの輪を通したペンダントと称するものをビットの上に増し掛けすることにしていた。
ところで、両船の操舵室から船首及び船尾配置の乗組員への指示は、船橋上部及び後部マスト上に取り付けたスピーカーを通じて行われていたが、船首配置の乗組員から操舵室への報告は、距離的に近かったこともあり、口頭及び手による合図などで伝えられていたのに対し、船尾配置の乗組員から操舵室への報告は、コンパニオン及びその上の救命いかだやマッシュルーム型通風機並びに船尾の網巻揚ワイヤリール等に視界が遮られていたため、船尾に取り付けられたマイクロフォンから操舵室内のスピーカーを通して伝えることになっていた。しかしながら、第一伸栄丸の船尾マイクロフォンの差込み口が海水による腐食で使用できず、修理されないまま放置されていたので、船尾配置の乗組員が手で合図を送り、操船者が操舵室後部の扉を開いて直接これを確認するようにしていた。
A受審人は、第一伸栄丸の船長として、出入港や漁場との往復航行の際にはB受審人と交替で操船を行っていたが、第二伸栄丸との接舷に際しては、漁労長であるB受審人が操船を行い、自らは船首配置の作業を監督することを常としていた。
B受審人は、底引網漁の漁労長として第一伸栄丸に乗船し、操業時には自ら操舵室で操船し、第二伸栄丸に接舷する際にも第一伸栄丸の操船と第二伸栄丸への指示を含む全体の指揮を執っていた。
第一伸栄丸は、A及びB両受審人ほか6人が乗り組み、また第二伸栄丸は船長C、機関員Dほか6人が乗り組み、第一伸栄丸が主船として沖合底引網漁の目的で、両船とも船首2.4メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成8年11月10日08時愛媛県八幡浜港を発し、12時ごろ豊後水道南口に至って操業を開始し、2回の揚網を行い、鯛などを漁獲した。
両船は、21時ごろ操業を終えて水ノ子島南方の漁場を発し、漁獲物の水揚げのため大分港に向かって進行中、翌11日00時ごろ、第二伸栄丸の主機燃料弁高圧管の1本が破損し、取替えが必要となったが、適切な予備部品が見つからなかったので、同船の機関長が第一伸栄丸に無線で予備部品を要請した。
在橋していてこの要請を受けたB受審人は、第一伸栄丸の機関長に当該部品の在庫を確認させたのち、第二伸栄丸に停船して待機するよう指示し、00時20分ごろ、大分港東方沖合3海里の地点で、両船に揚網作業時に甲板上を照明する、500ワットの投光器6個などの作業灯をそれぞれ点灯させ、南西方を向いて機関を停止した第二伸栄丸の左舷側に、第一伸栄丸の右舷を接舷させた。
第一伸栄丸の船首では、A受審人が2人の乗組員に指示して、係船索2本の各アイを第二伸栄丸に送って第一伸栄丸の船首ボラードに係止し、第二伸栄丸の船尾では、D機関員らが係船策として径35ミリの合成繊維製クロスロープ1本を第一伸栄丸に送って第一伸栄丸の船尾ビットにそのアイを掛けさせた後、第二伸栄丸のビットに8の字に掛け回して係止し、さらに両船のビットにペンダントを増し掛けした。
接舷後、第一伸栄丸は、主機の回転数を250に下げてクラッチを切り、両船の船首、船尾配置の各乗組員がそのまま待機するなかで、主機燃料弁高圧管の予備品が第一伸栄丸から第二伸栄丸に手渡され、直ちに第二伸栄丸で取替え作業が開始されたが、ほどなく作業が終了したため、離舷することとなり、B受審人が両船の各配置の乗組員に「もやい放せ。」とスピーカーを通して指示した。
両船の船首では、直ちに係船策が緩められ、同索のアイがボラードから解き放されたが、船尾では、ペンダントが外されたのち、D機関員が第二伸栄丸の係船索の8の字の掛け回しを緩めるうちに両船の船体が動揺で引き離され、第一伸栄丸のビットに掛けられたアイが外されないまま残った。
B受審人は、船首配置の乗組員が係船策を解き放すのを見たのち、船尾係船索の状況について、船尾配置の乗組員が手で行う合図を操舵室後部の扉の位置から直接確認することなく、船首配置の位置から見れば分かるものと思い、操舵室右舷の窓越しに「とも放したか。」とA受審人に尋ねた。
A受審人は、船首ボラード付近から身体を乗り出し、船尾側を見たところ、両船の船尾が1メートルほど離れ、緩めた船尾係船索が両船間で垂れ下がっているのが見えたので、同索が外されたものと思い、船尾係船索のアイがビットから取り外されたことを十分に確認することなく、「とも放れたよ。」とB受審人に報告した。
そこで、B受審人は、主機のクラッチを入れて回転数を300に上げ、舵を中央にして、プロペラピッチを前進5度に上げたところ、第一伸栄丸は、船尾ビットに掛けられたアイが外されないまま、右舷船尾のビットに係船索が掛かった状態で第二伸栄丸の船尾を引き始めた。
それより少し前、第二伸栄丸の船尾にいて係船索を緩めていたD機関員は、上下に動揺する両船間に垂れ下がっている同索を見て、第二伸栄丸のビットの外舷側に吊ってあった防舷タイヤの間に同索が挟まったものと思い、張力を利用して同索を外そうとして、甲板上の足元にコイル状に置かれた同索に右足を乗せたまま、いったん緩めた係船索を手元のビットに再び掛け回した。
こうして、第一伸栄丸は、第二伸栄丸の船尾係船索を強く引き、00時30分、大分港日吉原泊地東灯台から真方位010度2.8海里の地点で、同索を抑えようとしていたD機関員が、右足を係船索に絡まれたまま第二伸栄丸のビットに引き込まれ、緊張した同索とビットに挟まれた。
当時、天候は晴で風力3の北東の風が吹き、海上はややうねりがあった。
B受審人は、第二伸栄丸の船首にいた乗組員が、「まだ、とものロープが掛かっとる。」と大声で叫ぶのを聞いて、プロペラピッチを0に下げ、行きあしを止めて船尾の係船索を解き放させたが、まもなく第二伸栄丸からD機関員の負傷を知らされ、第ニ伸栄丸を大分港大在公共埠(ふ)頭に向かわせ、病院に同機関員を搬送するなどの事後措置をとった。
その結果、D機関員は、右膝関節下部を切断され、のち切断部の端部形成手術を受けた。

(原因)
本件乗組員負傷は、夜間、大分港沖合において、第一伸栄丸が第二伸栄丸に接舷して機関部品の引渡しを行ったのち離舷する際、船尾係船索の取外しの確認が不十分で、ビットに残った第二伸栄丸の船尾係船索を引きながら発進し、同索を操作していた第二伸栄丸の機関員が係船索に絡まれてビットに引き込まれたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、船首配置において離舷作業にあたり、船首の係船索を放したあと、操舵室の操船者から船尾係船索の状況を尋ねられた場合、船尾係船索のアイがビットから取り外されたことを十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、両船の船尾が少し離れ、係船索が垂れ下がっているのが見えたので同索が外されたものと思い、船尾係船索のアイがビットから取り外されたことを十分に確認しなかった職務上の過失により、船尾係船索が放れたと操船者に報告したため、第一伸栄丸が第二伸栄丸の船尾係船索を引いたまま前進し、第二伸栄丸の船尾で係船索の操作をしていた機関員に右足膝下部切断の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、第一伸栄丸の操舵室において操船指揮をとり、接舷していた第二伸栄丸から離舷するにあたり、両船に係船索を放すよう指示した場合、コンパニオン等に遮られて操舵室から船尾配置の作業状況が見えなかったのであるから、船尾配置の乗組員が手で行う合図を操舵室後部の扉から自ら確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船首配置の船長に船尾の方を見させれば大丈夫と思い、操舵室後部の扉から確認しなかった職務上の過失により、第二伸栄丸の船尾係船索を引いたまま第一伸栄丸の機関を前進にかけ、第二伸栄丸の船尾で係船索の操作をしていた機関員に前示のとおり負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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