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1998年(平成10年)

平成10仙審第4号
    件名
プレジャーボートシーチャン8同乗者死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年6月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

?橋昭雄、安藤周二、供田仁男
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:シーチャン8船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
同乗者1名出血死

    原因
同乗者を所定の座席に着かせる措置がとられなかったこと

    主文
本件同乗者死亡は、同乗者を所定の後部座席に着かせる措置がとれなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月21日13時30分
宮城県松島湾東部
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートシーチャン8
総トン数 1.5トン
全長 6.37メートル
全幅 2.19メートル
全深 1.06メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 84キロワット
3 シーチャン8
シーチャン8(以下「シーチャン」という。)は、最大搭載人員7人の船外機付きFRP製プレジャーボートで、船体の前半分がキャビン、後ろ半分がコックピットとこれに続く船尾甲板となっており、キャビン上方の船首甲板には、中央部に採光窓を兼ねたバウハッチ、その周囲の左右両舷側にステンレス鋼管製のバウレールをそれぞれ装備していた。バウレールは、船首甲板後部の舷側から上方に傾斜し、船首端での甲板上高さが35センチメートル(以下「センチ」という。)であった。また、コックピットには前部右舷側に操縦席及び同左舷側に助手席を設け、更に、船尾甲板最後部に同乗者用の後部座席を備えていた。
4 A受審人がシーチャンを操船するに至った経緯
A受審人は、船舶所有者の経営するマリーナの会員で、飲食店を経営する傍ら、松島湾内でのマリンレジャーにマリーナの貸出艇をしばしば利用していた。
平成97210930A受審人は、マリーナに赴いてプレジャーボートと水上オートバイとを借り受け、1000分友人4人とともに塩釜港塩釜区第1区を出港し、同時30分松島湾東部の馬ノ背島西岸近くの沖合に至り、地蔵島灯台から051(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点で停泊した。
A受審人は、友人らと遊泳や水上スキーなどに興じているうち、水上オートバイが故障したことからマリーナに連絡し、修理員がシーチャンに乗って到着したところ修理に長時間を要する状況であったので、その間にシーチャンに乗り換えて自ら操船にあたり、松島湾の東方に隣接する野蒜(のびる)湾を周遊することを思いついた。このとき、同受審人は、馬ノ背島付近の他のプレジャーボートを避けるため、いったん松島湾中央部に進み、湾内一帯に設置された大小様々のかき筏やのり網などの養殖施設によって縦横に形成された狭い水路のうち、湾央部付近を横断して塩釜港から野蒜湾方面へ向かう比較的幅広の水路を通航することとした。
5 本件発生に至る経緯
A受審人は、シーチャンに乗り組み、同乗者Bほか2人を乗せ、コックピットの中央部に立って操縦ハンドルを握り、13時29分わずか前周遊を開始しようとしたとき、救命胴衣を着用していないB同乗者が船首のクリートに一端を係止した係留索を握り、前方を向いてバウハッチに座っているのを認めた。その際、同受審人は、航走中に船体が波の衝撃を受けるとその弾みでB同乗者が海中に転落するおそれがあったものの、静穏な海面だから動揺することはないものと思い、同人を所定の後部座席に着かせる措置をとることなく、機関を少しの間後進にかけて回頭を始めた。
13時29分A受審人は、前示停泊地点で回頭を終えたとき、針路を314度に定め、機関を全速力前進にかけて発進し、27ノットの高速力で湾央部に向けて進行した。
A受審人は、操縦ハンドルを介して波高20ないし30センチの波の衝撃を感じながら航走中、13時30分わずか前養殖施設間の狭い水路に入って間もなく、野蒜湾方面への水路に近付いたころ、波高40センチの波が正船首方から迫るのを認めて減速しようとしたが、その瞬間、船首船底に同波の衝撃を受け、その弾みで船体が大きく動揺し、13時30分地蔵島灯台から040度2.2海里の地点において、B同乗者が左舷側バウレールを越えて海中に転落した。
当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、直ちに機関を停止して自ら海中に飛び込み、推進器翼に接触して腹部を負傷したB同乗者を船上に収容し、手当を施しながらマリーナに戻り、事後の措置にあたった。
その結果、シーチャンは、損傷がなかったものの、B同乗者(昭和37年3月2日生)は、出血死した。

(原因)
本件同乗者死亡は、松島湾東部において、周遊を開始する際、船首甲板上に座っていた同乗者を所定の後部座席に着かせる措置がとられないまま発進し、船体が波の衝撃を受けた弾みで同乗者が海中に転落したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、松島湾東部において、周遊を開始する際、同乗者が船首甲板上に座っているのを認めた場合、高速航走中に船体が波の衝撃を受けるとその弾みで同乗者が海中に転落するおそれがあったから、所定の後部座席に着かせる措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、静穏な海面だから動揺することはないものと思い、同乗者を所定の後部座席に着かせる措置をとらなかった職務上の過失により、船体が波の衝撃を受けた弾みに同乗者の海中転落を招き、死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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