|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月8日18時20分 大阪湾 2 船舶の要目 船種船名
貨物船勇仁丸 総トン数 690トン 全長 78.02メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,323キロワット 3 事実の経過 勇仁丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長B及びA受審人ほか5人が乗り組み、専ら京浜港川崎区から北海道苫小牧港、大阪港及び関門港へ産業廃棄物の輸送に従事していたところ、焼却灰など182トンを載せ、船首2.52メートル船尾4.06メートルの喫水をもって、平成10年2月8日16時00分大阪港大阪区を発し、京浜港川崎区に向かった。 ところで、大阪湾の中央部には、のり養殖施設が設けられており、その区画は、神戸灯台から169.5度(真方位、以下同じ。)7.3海里の地点を南端とし、同地点からそれぞれ030度2,700メートル及び300度2,500メートルの両地点を東端及び西端とする長方形を成し、区画内には、長さ70メートルないし100メートル幅70メートルののり枠が多数設置されていた。また、区画の各辺には、夜間にのみ黄色の閃光(せんこう)を発する乾電池又は太陽電池式の灯浮標が200メートル間隔で取り付けられていた。 B船長は、大阪港の発航に先立ち、同のり養殖施設の南側を1海里隔てて安全に航過することができるよう、その区画を記入した海図に、同港の内港航路西口の西南西方1.8海里付近から友ケ島水道に向く227度の針路線を引いて航海計画を立て、いつものとおり3直4時間交替の船橋当直体制をとり、発航時から操船に当たっていた。 17時00分B船長は、大阪灯台から234度1.6海里の地点に達したとき、西風が強吹していたので、かなりの圧流を予想して針路を240度に定め、機関を全速前進時よりも少し下げた回転数毎分250に掛け、6度左方に落とされながら7.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 一方、A受審人は、他船で船長として執職したことはあったが、大阪湾を含め瀬戸内海を航行したけ経験が少ないため、A株式会社から勇仁丸に一等航海士として乗船を命じられていたもので、これまでに他船で大阪湾の中央部を航行した際、レーダーに映ったのり養殖施設の映像を見たことはあったが、大阪港発航後の船橋当直に備え、海図などにより水路調査を行わなかったため、同施設の正確な位置を把握していなかった。 17時30分A受審人は、神戸港波浪観測塔灯から164度3.4海里の地点において、食事を終えて昇橋したとき、B船長から、西風が強いので針路を240度としているが、風圧差を加減して227度の針路線上を航行するようにとの指示を受けるとともに、場合によっては淡路島東岸近くで避泊するかも知れない旨を告げられ、単独の船橋当直に就いた。 やがて日没となり、A受審人は、引き継いだ針路のまま、同じような圧流模様及び対地速力で続航し、18時00分神戸灯台から147度6.4海里の地点で、レーダーにより関西国際空港北端の方位と距離を測定し、海図に船位を求めたところ、227度の針路線の0.7海里ばかり右にいることが分かった。しかし、同人は、そのうちにレーダーでのり養殖施設を探知することができると思い、依然、その正確な位置を把握するよう、海図などにより水路調査を行わなかったので、同施設に向首し、その南端付近に進入する態勢であることに気付かなかった。 その後、A受審人は、折から波浪が高く船橋前面の窓ガラスにしぶきがかかっていて、前方がやや見えにくい状態で見張りを行うとともに6海里レンジとしたレーダーを時々覗(のぞ)いていたが、のり養殖施設を探知しないでいるうち、18時20分少し前船首至近に同施設の灯火を初めて視認したが、どうすることもできず、18時20分神戸灯台から167度6.9海里の地点において、勇仁丸は、原針路、原速力のまま、同施設の南端付近に乗り入れた。 当時、天候は晴で風力7の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。 B船長は、食堂にいたとき、A受審人から報告を受けて事態を知り、事後の措置に当たった。 その結果、のり養殖施設の網及びロープに損傷を生じ、勇仁丸は、推進器に絡網して航行不能となり、のち他船に引かれて神戸港に入港した。
(原因) 本件のり養殖施設損傷は、水路調査が不十分で、夜間、大阪湾の中央部を友ヶ島水道に向けて南下中、同施設に向首する針路で進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、西風が強吹する大阪湾を大阪港から友ヶ島水道に向けて南下中、夜間の船橋当直に当たる場合、かつて他船で同湾の中央部を航行した際、レーダーに映ったのり養殖施設の映像を見たことはあったが、その正確な位置を把握していなかったのであるから、同施設に乗り入れることのないよう、海図などにより水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちにのり養殖施設をレーダーで探知することができると思い、海図などにより水路調査を行わなかった職務上の過失により、同施設の南端付近に進入する態勢であることに気付かないまま進行してこれに乗り入れ、推進器に絡網して航行不能となり、同施設の網及びロープに損傷を生じさせるに至った。 |