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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年3月29日05時15分 東京湾富津岬北側海域 2 船舶の要目 舶種船名 引船よし丸
台船東洋5号 総トン数 19トン 全長 19.20メートル 28.00メートル 幅
12.00メートル 深さ 2.20メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
257キロワット 3 事実の経過 よし丸は、専ら東京湾内の各港間を航行する鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、鉄屑(くず)約300トンを載せた喫水不詳の鋼製台船東洋5号(以下「台船」という。)を、直径48ミリメートル長さ20メートルの合成繊維製曳(えい)索2本を台船の船首両舷にとって曳航し、船首0.80メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成8年3月29日02時58分神奈川県横須賀港を発し、千葉県木更津港に向かった。 ところで、千葉県富津岬北側の海域には、毎年8月から翌年5月までのり養殖施設が設置され、海図第90号にその存在が記載されており、かつ、第2海堡灯台から056度(真方位、以下同じ。)3.5海里の地点(以下「ア点」という。)、ア点から241度2,300メートルの地点及び同地点から204度1,500メートルの地点を結ぶ同施設の北側及び西側の区画線上に、ア点より約800メートルの間隔で、乾電池を電源とする灯付浮標(灯高1.4メートル、灯色黄色、周期4秒間に1閃(せん)光、出力5ワット)6基が、さらに、それら灯付浮標の間に等間隔で、太陽電池を電源とする同灯質で小型の灯付浮標4基がそれぞれ設置されていた。 A受審人は、横須賀港から木更津港まで富津岬を十分離す針路で航行した経験があったものの、今回初めて同岬の北側約1.5海里の海域を木更津港に向け直航する針路で航行することとしたが、前回までは無難に航行していたことから大丈夫と思い、発航前に備え付けの海図第90号にあたるなどの水路調査を行わず、同海域にのり養殖施設が存在していることを知らなかった。 こうしてA受審人は、発航時から船橋当直にあたり、機関を全速力前進にかけ、3.0ノットの曳航速力で進行し、03時34分横須賀港東北防波堤東灯台から163度200メートルの地点で、剣路を080度に定めたところ、のり養殖施設に向首することとなったが、そのことに気付かないまま、手動操舵で進行した。 A受審人は、04時40分第2海堡灯台から004度1海里の地点において中ノ瀬航路を横断したころ、正船首わずか左1.8海里に存在した黄色の灯火等のり養殖施設の灯付浮標の灯火を、払暁であったことと、背後の陸岸の灯火に紛れていたことから、視認し難(にく)かったこともあって気付かず、専ら東京電力富津火力発電所の煙突に設置された航空障害灯を操舵目標として視野に入れながら続航した。 A受審人は、05時15分少し前左舷玄船首至近に黄色の灯火を始認し、直ちに右舵一杯としたが、効なく、05時15分第2海堡灯台から055度2.2海里の地点において、原針路、原速力のまま、のり養殖施設に乗り入れた。 当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、日出時は05時31分であった。 その結果、のり養殖施設は、のり網及び同取り付け属具等に損傷を生じ、よし丸及び台船に損傷はなかったものの、よし丸が絡網して航行不能となり、のち来援した同施設の漁船により絡網が解かれた。
(原因) 本件のり養殖施設損傷は、夜間、横須賀港から木更津港に向け航行する際、水路調査が不十分で、富津岬北側の海域に設置されたのり養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、横須賀港から木更津港に向け航行する場合、富津岬を十分離す針路で航行した経験があったものの、今回初めて同岬に近寄って航行することとしたのであるから、同岬北側の海域に設置されたのり養殖施設に向首進行することのないよう、備え付けの海図にあたるなど、あらかじめ付近の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前回まで無難に航行していたことから今回も大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、のり養殖施設の存在に気付くことなく、これに向首進行して乗り入れ、のり網及び同取り付け属具等に損傷を生じ、よし丸及び台船に損傷はなかったものの、よし丸が絡網して航行不能となるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |