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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月2日22時00分 兵庫県東播磨港沖 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボート浅原丸 全長 8.35メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
25キロワット 3 事実の経過 浅原丸は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人2人を同乗させ、遊漁の目的で、船首尾とも0.20メートルの喫水をもって、平成9年11月2日21時00分東播磨港別府西港西防波堤灯台(以下「西港西防波堤灯台」という。)から039度(真方位、以下同じ。)2,150メートルの定係場所を発し、東播磨港の航路(以下「東播磨航路」という。)西側の釣場に向かった。 A受審人は、同年7月に海技免状を取得するとともに、親戚から浅原丸を譲り受け、8月ごろから遊漁のため5回ほど同船を運航した経験があったが、いずれも東播磨港の西方約5海里に位置する上島付近への航海で、東播磨航路西側海域を航行するのは初めてであった。 ところで、東播磨航路西側海域には、東播磨港別府西防波堤灯台(以下「別府西防波堤灯台」という。)からそれぞれ、280度470メートル、233度1,930メートル、251度2,140メートル、280度1,920メートル及び305度1,650メートルの5地点で囲まれるのり養殖漁場が設けられていた。そして、この区画内には幅30メートル、長さ200メートルののり養殖施設が30基設置され、この五角形をした区画の外縁には、黄色の閃(せん)光を発する乾電池式又は太陽電池式標識灯がほぼ100メートル間隔で取り付けられていた。 A受審人は、明石海峡から東播磨港の西側にかけての沿岸部には、多数ののり養殖漁場が設けられていることを知っていたが、五管区水路通報や兵庫県瀬戸内海のり、わかめ養殖漁場図などで、同漁場の位置及び範囲などの具体的な水路状況を調べることなく、沿岸部から離れるとのり養殖漁場を避けることができるものと思い、発航後西港西防波堤灯台から210度1,800メートルの地点まで南下したうえ漂泊し、同乗者2人とともにたちうおの曳(ひ)き釣りの準備を行った。 21時50分A受審人は、同乗者2人を船尾甲板後部に座らせてトローリングの要領で疑似餌(ぎじえ)を付けた釣り糸を船尾から繰り出し、自らは船尾甲板上に立って片手で舵柄を握り、見張りを兼ねて操舵に当たって同漂泊地点を発進し、針路を東播磨航路第5号灯浮標にほぼ向首する110度に定め、機関を微速力前進にかけて5.0ノットの対地速力で進行した。 21時58分A受審人は、前路150メートルばかりに、前示のり養殖漁場の西縁が接近し、同漁場に設けられている標識灯の灯火を視認することができる状況となったが、付近にのり養殖漁場はないものと思い、船尾の釣り糸の状態に気を取られ、同標識灯の灯火に気付かず、同漁場に向首したまま続航した。 そして、浅原丸は、21時59分のり養殖漁場に乗り入れたのち、22時00分別府西防波堤灯台から257度1,900メートルの地点において養殖施設のロープ等が推進器翼に絡まり動けなくなった。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 この結果、船体はのち漁船によって養殖漁場内から引き出されたが、養殖施設のロープ等に損傷を生じた。
(原因) 本件のり養殖施設損傷は、夜間、遊漁のため東播磨港沖合を航行するにあたり、水路状況の調査が不十分で、同港沖合に設置されたのり養殖漁場に向首する進路で進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、東播磨港沖合を遊漁のため初めて航行する場合、明石海峡から東播磨港西方にかけて多数ののり養殖漁場が設けられていることを知っていたのであるから、それらに乗り入れることのないよう、五管区水路通報や兵庫県瀬戸内海のり、わかめ養殖漁場図などで、漁場の位置、範囲など水路状況の調査を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、沿岸部から離れて航行すれば大丈夫と思い、のり養殖漁場の位置、範囲などの水路状況の調査を十分に行わなかった職務上の過失により、東播磨航路西側ののり養殖漁場に向首していることに気付かず進行して同漁場に乗り入れ、自船推進器翼に絡網させたほか、養殖施設に損傷を与えるに至った。 |