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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月21日08時30分 北海道沙流郡門別町シノダイ岬南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第八あきつ丸 総トン数 498トン 全長 74.00メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 第八あきつ丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、大豆ミール約300トンを積載し、船首2.1メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成9年10月21日06時10分苫小牧港を発し、釧路港に向かった。 A受審人は、発航時から単独で船橋当直につき、苫小牧港外の錨泊船を避航した後、07時00分苫小牧港東外防波堤灯台から100度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点に達したとき、針路を122度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 ところで、苫小牧東方の勇払(ゆうふつ)郡鵡川(むかわ)町から襟裳岬までの沿岸から4海里以内の海域には定置網が随所に設置されており、シノダイ岬南西方沖合には、4月から12月までの間、日高門別灯台から274度8,150メートル、264度9,260メートル、267度9,630メートル及び275度8,520メートルの各点を結ぶ範囲内に門別町漁業協同組合により定置網が設置され、同網の周囲8箇所にはレーダー反射器付きボンデン及び沖側と陸側に各1個の簡易標識灯が設けられていた。 A受審人は、前示の海域に定置網が設置されていることを水路誌や小型船用簡易港湾案内を見て知っていたことから、これまで陸岸を5海里以上離して航行するようにしており、使用海図にもその針路線をボールペンで記入していた。 A受審人は、苫小牧港外の錨泊船を避航したことから、いつもより陸岸寄りを航行していることを知っていたものの、シノダイ岬に至る前に沖出しするつもりで続航し、08時00分日高門別灯台から285度9.8海里の地点に達したとき、レーダーにより船位を求めたところ、陸岸までの距離は3.6海里ばかりで、海図に入れた針路線より2.6海里ばかり陸岸に寄っており、前示のシノダイ岬南西方沖合の定置網に著しく接近する針路となっていることを認めた。しかし、同人は、南寄りのうねりがあったので船首部への衝撃と縦揺れを極力抑えるため、できるかぎりそのままの針路で進行し、もう少し経ってから沖出ししても間に合うものと思い、速やかに沖出しする針路に転じることなく、肉眼及びレーダーにより見張りを行いながら続航した。 08時30分少し前A受審人は、左舷前方近くに定置網の浮子が多数連なっているのを認め、機関停止としたが、及ばず、08時30分日高門別灯台から268度4.9海里の地点において、ほぼ原針路、原速力のまま前示の定置網を乗り切った。 当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、潮候は下け潮の初期であった。 その結果、船体に損傷はなかったが、定置網の垣網部を損傷し、のち修理されたた。
(原因) 本件定置網損傷は、苫小牧港から襟裳岬沖へ向け陸岸に沿ってシノダイ岬南西方沖合を航行中、定置網に著しく接近する針路となっていることを認めた際、針路の選定が不適切で、速やかに沖出しする措置がとられず、定置網に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、苫小牧港から襟裳岬沖へ向け陸岸に沿ってシノダイ岬南西方沖合を航行中、定置網に著しく接近する針路となっていることを認めた場合、速やかに沖出しして定置網を十分に離す適切な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、もう少し経ってから沖出しする針路に転じても間に合うものと思い、速やかに定置網を十分に離す適切な針路を選定しなかった職務上の過失により、定置網を乗り切り、垣網部に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |