日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年広審第90号
    件名
旅客船第八西日光養殖施設損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成10年3月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

平田照彦、畑中美秀、黒岩貢
    理事官
山?重勝

    受審人
A 職名:第八西日光船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
養殖施設に損傷

    原因
針路選定不適切

    主文
本件養殖施設損傷は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月9日18時40分
岡山県北木島東岸
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第八西日光
総トン数 60.89トン
全長 18.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 669キロワット
3 事実の経過
第八西日光(以下「西日光」という。)は、2機2軸を装備し、定員83人を有する団体旅行客専用の軽合金製旅客船で、広島県福山港から香川県土庄港への観光客の輸送に就くこととなり、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客65人を乗せ、船首1.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成8年11月9日08時50分福山港を出発し土庄港に至り、そこで旅客の観光が終わるまで待機し、同日16時15分同港を発し、福山港に向かった。
A受審人は、機関長を見張りにつけ、下津井瀬戸を経て白石瀬戸に向けて西行し、17時45分トクダキノ石灯浮標から180度(真方位、以下同じ。)300メートルばかりの地点に達したとき、針路を264度に定め、機関を21.0ノットの全速力前進にかけ、手動操舵で進行した。
A受審人は、17時48分ごろ船首方の反航船と左舷を対して航過するため右に大きく転じ、同船を航過し、同時52分トクダキノ石灯浮標から268度2.4海里の地点で原針路に戻したが、コンパスを確認せず、たまたまもや気味で視界が悪く周囲の島々がはっきり視認できなかったこともあって、針路を216度とし、白石瀬戸に向かっているものと思い、機関を9.7ノットの微速力に減じて続航した。
ところで、A受審人は、これまで所属する不定期船で瀬戸内海の観光地を巡航していたことから、この海域の水路状況については一応知っていたものの、各島の海岸付近の養殖施設については、島の港に入航することがなくその必要がなかったことから、事前調査なり、そうした資料を準備していなかったので、大島の北方と北木島の東岸に真珠養殖施設がそれぞれ設置されていて、その間隔は2,000メートル近くもあることを知らなかった。
A受審人は、予定針路から大きく外れていることに気付かないまま南下を続け、18時16分北木島港5号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から081度2.9海里の地点に達したとき、船首方に見えてきた瀬戸の状況が白石瀬戸と違うのに気付き不審に思っていたとき、北木島沖合を南下する島回りの連絡船を認め、左舷船首の島が真鍋島であることを知った。
A受審人は、すぐに元のコースに戻すため転針しようと思ったが、大島北方に黄色のボンデンが広範囲にわたって多数あるのを認め、連絡船の航路を航行すれば白石瀬戸に戻れることを知っていたので、このまま進行することとし、真鍋島の北側水路を西行し、18時28分同島を抜けたころ徐々に右転し、同時29分半防波堤灯台から114度1.3海里の地点に達したとき、北方転針した。
A受審人は、針路を左舷船首方の北木島に沿うほぼ真北にするつもりでいたが、大島北方のボンデンが気になっていたことから、確認しないまま330度に転じ、その後、レーダーで養殖施設の状況を確認して水路の中央部を航行する適切な針路をとることなく続航し、18時36分ごろ北木島沿岸に設置された養殖施設の灯火を右舷船首方に見るようになり、これまでの不慣れな海域での運航で不安な気持ちになっていたこともあって、島づたいに北上しようと思い直し、北木島に寄せることとし、機関を7.0ノットの極微速力に減じ、徐々に左転し、同時37分少し前、防波堤灯台から052度1,280メートルの地点で、針路を養殖施設に向首する270度に転じて続航し、同時40分少し前、機関を中立にしたとき、機関長から灯火が見える旨の報告があったので、直ちに機関を後進にかけたが、効なく、西日光は、18時40分防波堤灯台から025度800メートルの地点において、原針路のまま養殖施設の中に進入した。
当時、天気は曇で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、日没時刻は17時06分であった。
A受審人は、事故の概要を会社に連絡し、手配の僚船に乗客を移乗して福山港に輸送し、推進器に施設の網を巻き込んで航行不能となった西日光は、翌日、潜水夫により除網したのち自力で帰港した。
この結果、船体に損傷はなく、乗船者にも負傷はなかったが、養殖施設に損傷を生じた。

(原因)
本件養殖施設損傷は、夜間、塩飽諸島の西方海域を航行中、予定の航路を大きく外れて不慣れな水域に入った際、針路の選定が不適切で、沿岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、塩飽諸島の西方海域を航行中、予定の航路を大きく外れて不慣れな水域に入った場合、レーダーで養殖施設の状況を確認し、水路の中央部を航行する適切な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、島づたいに航行しようと思い、水路中央部を航行する適切な針路を選定しなかった職務上の過失により、海岸に接近して養殖施設に進入し、これに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION