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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年11月3日19時00分 島根県美保関町沿岸 2 船舶の要目 船種船名
漁船第二大洋丸 総トン数 80トン 登録長 27.00メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 661キロワット 3 事実の経過 第二大洋丸(以下「大洋丸」という。)は、鋼製沖合底引漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか6人が乗り組み、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成7年11月1日00時境港を発し、漁場に向かった。 06時ごろA受審人は、日御碕北西25海里ばかりの地点に至り、直ちに操業を開始し、翌々3日14時ごろ前示漁場付近で操業を打ち切って帰途に就き、16時00分出雲日御碕灯台から020度(真方位、以下同じ。)18.6海里ばかりの地点において、針路を100度に定めて自動操舵とし、機関を約9.5ノットの全速力前進にかけて進行した。 ところで、A受審人は、早見ノ鼻の沖合900メートルばかりに至る海域には一辺が約500ないし800メートルの台形の形をした定置網が終年にわたって敷設され、その沖側の東西の端には標識灯が各1個設置されているのをよく知っていたので、多古鼻を北1.5ないし2海里離し、そこから地ノ御前島と沖ノ御前島とのほぼ中間に向けることとしていた。 A受審人は、漁場の往復は自分と機関長を除く6人の乗組員に均等の船橋当直を命じていたことから、当直員に定置網については周知していたが、自分の針路法や船位に不安を覚えたときの報告については十分に指示していなかった。同受審人は、定針して間もなく甲板員に船橋当直を任せることとしたが、定置網のことなどを注意していたので大丈夫と思い、船位に不安を覚えたときの報告を指示することなく、降橋して夕食をとったのち、船橋の床に横になって休息した。 B指定海難関係人は、船橋当直の順番が回ってきたことから、17時ごろ多古鼻灯台から292度8.2海里ばかりの地点で当直に就き、前直の甲板員からこの針路で大丈夫であるとの申し継ぎがあったので、同一針路のまま続航し、17時52分多古鼻を1.4海里ばかり離して航過し、間もなく、前方に小型のイカ釣り漁船を何隻も認め、これらを自動操舵のツマミを操作して左舷側に見て避航するうち5度右転し、定置網に向首する105度の針路で進行した。 B指定海難関係人は、18時55分美保関灯台から305度1.8海里の地点に達したころ、陸地がいつもより近いように思ったが、船長が眠っていて、もう少しすれば地蔵埼に至り、入港のため乗組員全員を起こすことになるので、それまで自分で操船することとし、A受審人にこのことを報告することなく、右舷船首の陸地の灯火を気にしながら見ていたので、左舷船首6度900メートルばかりの定置網の標識灯に気付かず、大洋丸は、回避措置がとられないまま続航し、19時00分美保関灯台から320度1,930メートルの地点において、定置網の中に進入した。 当時、天気は曇で風力5の北西風が吹き、視界は良好であった。 A受審人は、休息中、船体との接触音で不安を覚えたB指定海難関係人から起こされ、すぐに機関を停止したのち、周囲を確認したところ、定置網に入ったことを知ったが、機関に異状がないので、航走を再開し、境港に入港した。後刻、海上保安部の調査により、このことが判明した。 この結果、大洋丸は損傷がなかったが、定置網が破れた。
(原因) 本件定置網損傷は、夜間、隠岐海峡を漁場から帰港中、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長が、当直者に対して船位に不安を覚えたときの指示が十分でなかったことと、当直者が、船位に不安を覚えたとき船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、漁場から帰港中、乗組員に船橋当直を任せようとした場合、船位に不安を覚えたときには直ちに報告するよう、指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで定置網の位置について注意していたので大丈夫と思い、船位に不安を覚えたときの報告を指示しなかった職務上の過失により、船位が確認できないまま航行して定置網に進入し、網を損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、船橋当直に就いて沿岸を航行する際、船位に不安を覚えたとき、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |