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(事実) 1 本件発生の年月日時刻及び場所 平成8年11月23日00時40分 北海道南岸襟裳岬付近 2 船舶の要目 船種船名
貨物船繁竜丸 総トン数 498トン 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 繁竜丸は、長さ74.51メートル幅12.20メートル深さ7.00メートルの船尾船橋型貨物船で、A受審人以下5人が乗り組み、砂利1,500トンを積載し、船首3.30メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成8年11月22日15時20分北海道釧路港を発し、千葉県木更津港に向かった。 20時00分前直の甲板長から単独で船橋当直を引き継いだA受審人は、針路を右舷側陸岸沿いの208度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を10ノットの全速力前進にかけて自動操舵により進行し、23時20分襟裳岬灯台が右舷2.5海里に正横したとき、針路を250度に転じたところ、程なく強い西風の影響を受けるようになり、風浪も急速に高まってきたので、この際、同人にとって不慣れな沿岸水域であったが、襟裳岬北方東岸の百人浜付近に寄せて仮泊することとし、23時30分ごろ同灯台から162度1.8海里の地点で反転し、往路をたどる針路で引き返した。 ところで、襟裳岬沿岸一帯には、例年4月から12月にかけて北海道知事許可のさけ定置網漁場が設定されており、海上保安庁刊行の北海道沿岸水路誌にも、えりも港から襟裳岬間の距岸1.5海里以内には2定置網が、また百人浜の距岸1.5海里には4定置網がそれぞれ設置されている旨の記載があるほか、同庁刊行の漁具定置箇所一覧図中にも、その所在位置が略記されているのであるが、平素、同岬付近の海岸線近くを通航することがほとんどなかったA受審人においては、陸岸に接近すれば定置網を含む各種の漁網施設があることを予想していたものの、船内には同水路誌の備えがなく、これまでかかる水路状況を人づてに聞きとる機会もなかったのでこのことに気付かず、作動中のレーダーを頼りに泊地の選定に向かった。 23時57分襟裳岬灯台から070度3.7海里の地点まで引き返したところでA受審人は、徐々に左舵をとって陸岸寄りに大きく向きを変え、翌23日00時20分同灯台から037度3.7海里の地点に達したとき、前方の距岸1.5海里ばかりのところに、漁具の存在を示す白色の標識灯を認めたが、レーダースコープ上には漁網らしい映像が現れていなかったので、とりあえず同標識灯を少し左方に見る260度の針路にセットして機関を6ノットの微速力に減じ、甲板長を投錨要員に配したのち、操舵を手動に切替えて進行した。 こうして00時34分A受審人は、前示標識灯が左舷側200メートル、水深が24メートルとなった地点まで陸に寄せたが、依然として定置網の設置状況を的確に把握できず、これ以上陸岸に近づくと定置網に侵入するおそれがあったのに、最寄りの水域において安全な泊地の選定に努めることなく、折から、更に前路の陸側に数隻の錨泊船の灯火が見えていたので、同所付近まではまだ無難に接近して投錨できるものと軽く考え、機関を3ノットの極微速力に減じたのみで続航中、同時40分少し前、突然、甲板長の定置網の存在を知らせる叫び声を聞き、急いで機関を後進にかけたが間に合わず、00時40分襟裳岬灯台から023度3.8海里の地点において、原針路のまま定置網に乗り込んだ。 当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 その結果、本船は、船首部船底に擦過傷を生じたのみであったが、定置網は、身網等の主要部が切断され、のち修理された。
(原因) 本件定置網損傷は、夜間、荒天避難のため、定置網が点在する北海道襟裳岬付近の沿岸水域に仮泊する際、泊地の選定が不適切で、定置網の設置状況を的確に把握できないまま、これに向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、荒天避難のため、定置網が点在する襟裳岬百人浜付近の不慣れな沿岸水域に仮泊しようとして陸岸に向け接近中、漁具の存在を示す標識灯付近に達したが、定置網の設置状況を的確に把握できなかった場合、これに近づき過ぎないよう最寄りの水域において安全な泊地の選定に努めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、更に前路錨泊船の灯火付近までは無難に接近できるものと軽く考え、安全な泊地の選定に努めなかった職務上の過失により、定置網に向首する針路となっていることに気付かずこれに乗り入れ、船体には擦過傷を生じたのみであったが、定置網を切断するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |