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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年12月19日02時46分 関門港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第三十八明和丸 総トン数 498トン 全長 64.99メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 956キロワット 3 事実の経過 第三十八明和丸は、液体化学薬品などの輸送に従事し、平均して1箇月に2回ほど関門海峡から瀬戸内海を通航する船尾船橋型のケミカルタンカーで、A及びB両受審人のほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成7年12月18日11時10分福岡県大牟田港を発し、岡山県水島港へ向かった。 A受審人は、船橋当直を、B受審人が毎00時から04時まで、一等航海士が毎04時から08時まで及び自らが毎08時から12時までの時間帯をそれぞれ単独の3直4時間制として行うことに定めていた。 23時45分ごろA受審人は、福岡県倉良瀬戸西口付近でB受審人と船橋当直を交代して休息することとしたが、同人の当直中に関門港の西口港界付近に達する予定であったものの、同人が関門航路の通航経験が多かったことから同航路通航時の当直を同人に任せてもよいと思い、昇橋地点を指示することなく降橋した。 B受審人は、船橋当直を交代後、倉良瀬戸を経て福岡県北岸を東進し、翌19日02時17分ごろ六連島灯台から256度(真方位、以下同じ。)4.6海里の地点で087度の針路にしたとき、左舷船首2点3.6海里ばかりのところに他船の表示する白、緑2灯を認め、これを監視するうち、同船の方位が徐々に右方に変わり、自船に先行して六連島西水路から関門航路に入航する船舶(以下「先行船」という)であることを知った。 02時33分B受審人は、六連島灯台から238度1.9海里の地点で、針路を関門航路に入航する128度に定め、機関を11ノットの全速力前進に掛け、折からの東に向かう潮流に乗じて約12.5ノットの対地速力となって自動操舵で進行した。このころB受審人は、先行船を船首わずか左方900メートルばかりに視認し得るようになり、その後同船との横距離が徐々に狭まりながら接近し、自船がこのままの速力を維持すれば、先行船を関門航路内で追い抜く態勢となることを知った。 ところで、関門航路は、山口県六連島の南方にその西口が設けられた航路で、同航路の北西端から南東方に延びる航路の南側には、その境界線を示す灯浮標が設置されており、六連島灯台から183度4,140メートルのところには関門航路第4号灯浮標(以下、灯浮標については「関門航路」を省略する。)が、同灯台から170度2.7海里のところには第6号灯浮標がそれぞれ存在していた。 こうして、B受審人は、02時35分半関門航路の北西端に入航し、その後同航路を通航することになったが、A受審人から何の指示もなかったことから、船長の指揮がないまま、自ら操船にあたることになった。 02時39分B受審人は、関門航路を南側境界線に沿って南東進中、六連島灯台から201度1.8海里の地点に達したとき、先行船が反航船を避けるためか進路を右転して自船の船首方向に寄って来る気配を察知したことから自船も先行船の右舷側に出る132度の針路として進行した。 02時42分B受審人は、六連島灯台から183度2.2海里の地点に達し、第4号灯浮標を右舷正横50メートルに見て、針路を128度に戻したころ、自船の船首が先行船の船尾とほぼ並んで同船を追い抜く態勢となり、同船と並航して前路の第6号灯浮標と接近することが予想されたが、同船の動きを配慮せず、このまま進行しても同灯浮標に至る前に同船を追い抜けるものと思い、減速するなど適切な操船を行うことなく、全速力のまま続航した。 02時44分半B受審人は、第6号灯浮標の北西方600メートルばかりに達して自船の船橋と先行船の船尾がほぼ並んだとき、先行船が反航船を避けるためか再度右方に寄せてきたので、自船も右に寄せて進行したところ、同時45分半同灯浮標を正船首方150メートルに見るようになり、同灯浮標と著しく接近する態勢となったので、同灯浮標を避けようとして右舵一杯とし、同灯浮標が船首の左舷側となったところでキックを利用しようと思って左舵一杯としたが及ばず、02時46分船首が104度を向いたとき、六連島灯台から170度2.7海里の地点において、左舷側後部が第6号灯浮標に接触して損傷を与えた。 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、潮流は東流の末期にあたり、付近には約5ノットの南東流があった。 その結果、本船には損傷はなかったが、第6号灯浮標は、標体上部の鏡部及び胴体部に凹損を、標体内部枠材に曲損を受け、のち修理された。
(原因) 本件灯浮標損傷は、夜間、関門港関門航路内を東航中、同航する先行船と並航して前路の灯浮標に接近する際、操船が不適切で、第6号灯浮標に著しく接近したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、関門航路を航行する際、船長が自ら操船指揮を執れるよう、船橋当直者に対して昇橋地点の指示が十分でなかったことと、同当直者の操船が不適切であったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、福岡県北岸沖合を関門航路西口に向けて航行中、同県倉良瀬戸西口付近でB受審人と船橋当直を交代して休息する場合、同航路通航時に自ら操船指揮を執ることができるよう、昇橋地点を十分に指示すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、B受審人の関門航路通航の経験が多かったことから、同航路通航時の当直を同人に任せてもよいと思い、昇橋地点を十分に指示しなかった職務上の過失により、自ら操船指揮にあたることができなかったため、先行船とほぼ並航となったまま著しく接近し、前路の灯浮標を回避することができず、同灯浮標損傷を招き、自船に損傷はなかったが、同灯浮標の標体上部の鏡部及び胴体部に凹損を、標体内部枠材に曲損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、関門航路内を東航中、同航する先行船を追い抜く態勢となり、前路の灯浮標付近で同船と並航し、同灯浮標と接近することが予想された場合、同灯浮標に接触するのを回避することができるよう、減速するなどして適切な操船を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、このまま進行しても同灯浮標に至る前に同船を追い抜けるものと思い、減速するなど適切な操船を行わなかった職務上の過失により、全速力で続航して同船とほぼ並航となったまま著しく接近し、同灯浮標を回避することができず、同灯浮標損傷を招き、同灯浮標に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |